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*鼻先に飯粒つけて猫の恋

 季節は夏。その深夜。

 イオタは夢を見ていた。


 その夢とは……、


 女性化した自分。そこへ、役者顔の優男に、性的行為を目的とした求愛活動の受動を求められるという、世の14歳男子が全て、一度は想像した至高のネタであるッ!!



「ブニャーッ!」

『ヒデブッ!』


 掛け布団を撥ね除け、イオタとミウラが飛び起きた。


「はーはー、凄い夢を見た。えーっと、恋の夢だ。他意は無い」


 イオタは額から流れ落ちる汗を拳で拭った。そこで気づいた。全身、汗でぐっしょりだ。


『わ、わたしもです! 理想のエッチを迫られる夢でした」

「二人して似た様な夢を見るとは……」


『作為的なモノを感じ……誰だ! そこにいるのは?』


 壁の隅、ソファの後ろに人影が!


「曲者ッ!」

 イオタは、枕元に仕込んでいた小柄を投擲。

 澄んだ音を立て、謎の人影の手がそれを弾いた。


「うふふふ、よくぞ我が淫夢に溺れなかったわね。フッ、さすがネコ耳の勇者。褒めてあげるわ!」


 闇からの実体化。そのようなイメージをイオタが抱くほど、怪しげな影がよく似合う美女だ!


『フッって笑って良いのは先生のモガッ!』

 ミウラの口を押さえたイオタ。目が夜の闇にギラリと光る。


 その美女は……現代で言う所のハイレグ黒レオタード仕様。


 胸の柔らかな球体はボーン! ピンクの色目が毛一筋だけ見えている! ちょいと動くだけでまろび出そうだ。

 肩幅ちっちゃ! 腰が折れそうに細っそ! おへそが衣装に浮き出てるよ! でもって、お尻がドーン!

 長い睫に囲われた、つり目気味の鋭い目。扇情的な唇は血の様な赤で彩られている。

 頭の上部左右に、小さな蝙蝠の羽が良きアクセント。


 ぶっちゃけ、イオタの理想女子。


 ぶっちゃけ、デイトナ殿を抜き去ったッ!

「こやつ! 相当な手練れでござる!」

『ちょ! 旦那! エッチしてくれるなら命と引き替えにしても良いとか思ってるでしょ!』


 ミウラのツッコミにかまっている心の余裕など、イオタに無かった!


「妾の名はカプリ。サキュバスの由緒正しき上位種カプリ」

「さきゅばす? さきゅばすとな!」


『えーっと、サキュバスとは別名夢魔とも淫魔とも言いまして――』

「淫魔とな!」


『ちょっ! 食いつきが……。スケベ大好きなお姉さんとなって被害者の前に現れ、それはもう言語に尽きるイヤらしい大人の行事をそれこそ精神・体力尽きるまで夜通しお祭りで搾り取る男性人類史上もっとも人気(ウエルカム)を博した魔物でございます!』


「なんと! 恐ろしや!」


『あ、いけない! ついつい趣味全開でサキュバスを語ってしまった! 気をつけてください! サキュバスの術中にはまったら、抜け出すのは困難……旦那は脱出不可能ですから!』


 カプリと名乗ったサキュバスのボンキュバーンは、口の端を歪めて笑った。これすら性的であった!


「フフフ。この屋敷は、我がサキュバス一族500が包囲した。イオタが墜ちるのを合図に、攻勢に出る。この国は我等サキュバスの物となる!」


 武闘派ハニートラップここに極めりッ!


「来るなら来い! さきゅばすとやら! 武士は後へ引いてはいかん! 逃げてはいかん! この線より下がってはいかん!」


『ああっ! 旦那が薩摩武士に! ってか、事を構えるなら武器を手にしてください! はっ! まさか旦那!?』


「表サキュバス道家元、継承者にのみ口伝で伝わる伝統の秘奥義! デッド・エンド・セクスカリバー!」

「ふんすふんす! ふんすふんす!」


 カプリは、その豊満な胸を覆う薄い生地に手を掛け、少しずつ、焦らす様に下げていく。


『しっかりして旦那! イオタの旦那! だめだ! 完全にサキュバスの術中にはまってる!』


 黒い生地が覆い隠していた白い肌を露わにしていく。掴むと指がむっちり食い込むであろう双丘が――

 ピンクのサークレットが、見えるや否や、カプリの姿が逃げ水の様に揺らぐ。


『ああっ! 変身だ! 相手が望む以上の、理想を越えた異性の姿に……え? 異性の姿?』

 ミウラは小首をかしげた。


 カプリの歪みが正常化。

 そこには、股ぐらもフリフリな、見目美しき男の姿。


「インキュバス変身完了(コンプリート)! イオタよ、我が肉棒に突かれて――ゲゲボォ!」


 イオタの右膝がカプリの左頬骨を破壊していた。


『あれは最強格闘技の一つに挙げられるキックボクシングの奥義、その名も真空跳び膝蹴り!』


 さらにカプリ(男)の後頭部を両手で抱え込み、左膝を鼻骨にめり込ませる。


『何て綺麗なカウ・ロイ! おおーっと! サマーソルトキックからの回転後ろ回し蹴り! 身体強化に特化したイオタの旦那が、シリーズ通して持てる力を初めて100パーセント開放したぁッ!』 


 窓を突き破った肉塊が、放物線を描いて飛んでいく。


 落下地点に、多数の淫魔。

 みな、インキュバスに変身し、二階のイオタを熱き眼差しで見つめていた。


「ミギャーースッ!」

『ああっ! 旦那がっ! 封印したはずの日本刀を両手にもって飛び出したぁッ!』





 その夜、ネコ耳のサムライが魔物を相手に戦った。

 

 鬼神の様な強さだったという。


 




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― 新着の感想 ―
[良い点] 今更ですが、完結お疲れ様です。 最後までノリノリで、また読了感もスッキリ爽やかでとても楽しかったです。 ・・・でもマオちゃんのその後が気になり過ぎるw
[気になる点] サキュバスのくせに性癖のリサーチもしないなんて…… [一言] 冒頭のところ、男はみんなイケメンに求められたいみたいなこと書いてません?私の読解力が悪いのかな……
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