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*青い果実に捧ぐ

 これは時間を遡る事、水着審査会当日の逸話(えぴそぉど)であるッ!


 タキ少年(10才)が、浜辺すぐの藪に寝そべり、身を潜めていた。

 熱病に浮かされたように朧な目。紅潮した頬。

 目的は――


「イオタさん……」


 体に張り付いた……身体の線が……女性の……こう……

 女性の体って、あんなになってるんだ……。


 至高、至至高、至至高! 痛てっ! 痛てっ、痛てっ!



「ほとんど裸だよな」

「うわたっ!」


 後ろから声がかかった。タキは飛び上がらんばかりに驚いた。


「いや! 違うんだ!」


 タキが振り向くと、同年代の友達ニコスが、寝そべって浜辺に視線を向けていた。

 さらに折り重なる様にして3人の顔見知りが寝そべっていた。

 ニコスを入れて4人が4人とも、熱病に浮かされたように朧な目をし、頬をピンクに染めていた。


「なんだよお前ら! 変な顔して!」

「タキも同じ顔をしているぜ」


 目的は同じ。顔へ一気に血が上って行くのを自覚するタキだった。

 と、同時に共犯意識が芽生えた。仲間意識じゃなくて……。


「女の人の股間に何も無いってホントだったんだ」


 見慣れた形をしてない。

 白くて長い足。

 盛り上がった二つの膨らみ。

 折れそうなくらい細い腰。

 張り出した丸いお尻……から生えている、水着と同じ黒の長い尻尾。

 あと、フレキシブルに動くネコ耳。


 至高、至至高、至至高! 痛てっ! 痛てっ、痛てっ!


「痛てっ! 痛てっ、痛てっ!」

「ばか! 静かにしろ! 目立つだろ!(小声)」

「自然に! ごく自然に振る舞え!(小声)」

「声出すな! 見つかるだろ!(小声)」



「そんな所でなにをしておる?」

 上の方から声がした。


「え?」


 目の前には……白い足。すらっと伸びた――綺麗なラインで曲線を描いた―― 


 タキは視線を臑から上に上げる。


 膝、そして引き締まった太股。そして――

 黒い逆三角形。下部頂点は僅かに膨らんだ――中心に縦の線。


「隠れておるつもりだろうが、動きが怪しすぎて逆に目だっておるぞ」


 黒いシッポが揺れて――


「イオタさんッ!」


 体にピッタリ張り付いた水着を着た(ここ丁寧な描写で)イオタさん!

 いちばん見つかってはいけない水着姿の(ここ重要)イオタさん!


「揃いも揃って、顔が真っ赤でござるよ」


「うわーっ!」

 ニコス達は蜘蛛の子を散らす様に逃げた。素早い!


 で、逃げ遅れたタキ君。


 逃げられなかった理由は、すぐ近くでイオタさんの水着姿を見て体が固まってしまったから。


 それともう一つ。

 今ここで逃げると、一生イオタさんと顔を合わせられなくなる気がしたからだ。


 タキは胸を張って……胸は張れなかったが立ち上がった。

 イオタさんの目がすーっと下に降りて……。ズボンの膨らんだ部分に――。


「イオタさん、あの、これは、その――」


 一気に内股! そして、情けない弁明。


 イオタさんは溜息をついた。

 ああ、馬鹿にされた。もうだめだ……。


「何をしておったかは、理解しておるつもりだ」


「ニャーン」

 ミウラちゃんがイオタさんの足下に。イオタさんの顔を見上げて一声鳴いた。

「うむ、その年頃だ。気持ちも分からぬ事はない」


 イオタの頭頂で存在を主張するネコミミ。その片方が横になっている。

 男の子の本能が、微かな希望を嗅ぎ分けた。


「男のくせにこそこそとした態度が気に入らん」

「すみません」

 タキは項垂れた。


 視線がイオタさんの二つの膨らみに。形をそのままに、覆っただけのゲッフンゲッフン!

 視線をそらす。もっと下を――。


 下は……おへその部分が凹んでいて、ゲッフンゲッフン!

 この下はアレだし! そうだ逆に上だ! 胸の上に――綺麗な鎖骨ゲッフンゲッフン!


 首筋が……色っぽくてゲッフンゲッフン!

 なんだよ! 女の人の体って、どこ見てもゲッフンなデザインばかりじゃないか!


「見るからには堂々と見よ。明るい態度で見よ。手を振って、声を掛けるくらいでちょうど良い」


 許された!

 なんて大らかな女性(ひと)なんだ!


「は、はい」


「やっと明るくなったでござるな。ではコソコソした罰として、ただ働きを頼もうか? まさかイヤとは申すまいな?」


「もちろんです!」


 イオタさんがにっこり笑った。あ、もう俺、この人の為なら死んでも良い! でも今はイヤだ。


「水着美女のいちばんを決める投票がある。ヘラスの住人達に参加をを呼びかけておるのだが、いまいち集まりが悪い。そこをお主達の知恵で何とか致せ!」


「解りました!」

 元気に走っていくタキ。


『成熟前の果実でございますね』

「青い実でござるな。某にも覚えがござる。あれは今日の様な暑い日。裏の後家さんが真っ昼間から盥で水浴びを――」


 ネコ語による会話が延々と続く。





 

 その夜。


 丘の上のイオタ亭。その裏にある小さな森の中。

 タキ、ニコス、そしてエロガキ3人の都合5人がこっそり集合していた。


「本日只今をもって、イオタさん親衛隊を発足します! この命、イオタさんに捧ぐ!」

「声が大きい! シーッ!(小声)」

「イオタさん耳が良いんだ! 聞こえたらどうする!(小声)」

「シーだシー。しー至ッ、至高ッ。至高至高至高至高(小声)」


 至高至高至高至高至高――痛てっ! 痛てっ痛てっ!(小声)






『おや? どこからか栗の花の匂いが?』

「夏だから栗の花が咲いたのでござるかな?」

『早咲きでございますね?』



次でファイナル完結です。

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