*悪党3-3
『旦那、わたしに名案がございます。前例のある実行案でございます』
ミウラが粗末なテーブルに飛び乗った。
某は、ぼろい椅子を引き寄せ、腰を下ろした。
「さあ、会議とやらを始めようか」
「どっ! どうやって!」
ガットが面白い様に狼狽えておる。
「そんな! 尾行対策は万全だったと断言できる! 四半時も見張ってたんだ!」
レストア兄弟とやらも、面白い様に目を泳がせておるわ。
「盗賊は所詮盗賊。たわいもござらぬ!」
『ヒント=匂いです』
人間相手の尾行防御など、猫や犬には役に立たぬでござるよ。
「や、やろう!」
重鎮と思わしき五人の下っ端共が、手に武器を持って立ち上がる。
加速!
全員の手から武器を奪い、ガットの背後に立ってやった。
ガットめ、動けないでいる。面白い見世物だ。
このままだと可哀想だし、ヤケクソになられるとマズイ。分捕った武器を下っ端の一人に投げつけ、お遊びは終わりとした。
「拙者に害意はござらぬ。天地神明に掛けて」
にやつきながら言い返してやった。
『美少女に上手を取られ、格好いいセリフを言い返されて、何とも締まらない話です。では、参りましょうか! まずは――』
連中の闘争心をポキポキと折りまくった後、ゆるりと戻り、元の椅子に座った。
「さて、話を進めよう。闇のガットよ。余所者の盗賊が盗んだ品々が、お主のところへ流れてはおらぬか? 金に換えてくれと頼むはその方ら盗賊だけでござろう? 正直に話すでござるよ」
「た、確かに! 確かに、持ち込まれた盗品を捌きました。連中は、金が手元に無いと何をしでかすか判りませんから!」
言い訳っぽい。でも対処策として仕方ないだろう。あくまで泥棒業界内の近視的な考え方としてだが。
「拙者の案は二つある。まず一つ目、黒ミストの総力を挙げて、盗品を買い取れ」
「それでは余所者の盗賊が勢いを増すだけです! 新しい勢力ができてしまいます!」
さすが頭を張る男だけある。狼狽えているが話の核心を外さない。
「……そして、盗品を売ってきた余所者を拙者に売れ。引っ捕らえてくれる」
あ、の形で口を開け、固定する黒ミストの方々。
「手前に裏切れ、と!?」
ようやく、ガットが口を動かした。若干湿り気が足りない声になったが。
「裏切る? 仲間なのでござるかな? 流れの盗賊共は?」
あ、の形で口を開け、固定するガット。
ガットはコキンと、実際顎の骨をコキンと鳴らして、口を動かした。
「あ、いえ、仲間じゃないですね。よく考えなくとも」
ニヤリと悪党の笑み頬を歪めおった。
「外部より侵略の手を伸ばしてきた、言わば侵略者からヘラス王国を守る為、正義の為、国の為、お主達は働くのでござる! 罪は発生しない。戦争で人を殺しても罪には問われぬ。大勢殺せば英雄でござる!」
ここはお芝居が必要だ。建前という名の。
「ぶっちゃけ司法取引でござる。これまでの罪は問わない事としよう」
「ようござんす!」
間髪を入れず、ガットが返してきおった。組織の頭は決断が早くてよい。
「ですがイオタ様。手前共盗賊は、盗み以外に仕事がございません、これでは手下の者の多くが生きていけません」
ちゃんと考えておるわ! ――ミウラ先生が。
「黒のガットよ、そこもと古物商を開け。拙者が許可を取り付けてやろう。質屋や資材再生業務も兼ねた商売形態をとれ」
「闇のガットでございます。つまり、手前共に職を斡旋して頂けると?」
「その通りでござる。黒のガットが雇い主なのだから、身元引受人など要らぬでござろう?」
「確かに!」
「仲間を雇うのでござる。同業者を多く作りそれをまとめよ。そこの五人が適切ではないか? 仲間を手足の如く操り使い、仕事をしつつ、内外の盗賊共を取り仕切ってもらう」
客の持ち物や財産を調べる。持ち込まれたブツの価値を見切る鑑定眼を必要とされるだろう。
市中を走り回ってブツを集め、ガットの店に売る。中にはお宝もあろう。
それを下ろして、市で商売する。騙し騙され、時に大金を手にする。
この手の仕事なら盗賊の技能が役立つだろう。
「黒のガットはイセカイ初、資材再生ギルドの長となれ。ここまで拙者が国と掛け合って段取りしてやろう」
「まことでございますか?」
「宰相のエランとは俺貴様の仲でござる。ヤツに貸しが三つほどござる。『内二つはハプニングエッチですね』万が一の場合は国王といえど、刀をちらつかせれば聞く耳を持つだろう。大船に乗った気持ちで安心するが良い」
「むしろ逆に安心できません!」
「この後の仕事は考えるだに大変で拙者はイヤでござるが、その方なら大丈夫でござろう。きっとやり遂げると信じてござるよ! 拙者の期待を裏切るでないでござるよ、黒のガット!」
「闇の……もう黒のガットでかまいません。イオタ様、畏まりましてございます! てめぇら! イオタ様に頭を下げろこのヤロウ!」
一同、跪いて頭を垂れる。
『江戸時代初期の人物。司甚内、向坂甚内、そして鳶沢甚内の三甚内。その一人、鳶沢甚内の逸話ですね。解ります』
こうして、ヘラス王国、王都ヘラスにリサイクル店の大手、大黒屋が開店したのであった。