15.最終回でござる
総合最終回です。
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きんきんと照りつける夏のお天道様。
影は短く、そして黒い。
編み笠を被ったお侍様の前をちょこちょこと歩くトラジマの子ネコ。
子ネコは草むらに駆け込み、何やら熱心に前足で掻き回しはじめました。
お侍様は、立ち止まって子ネコを見つめています。
やがて子ネコは飽きたのか気が変わったのか、ふとお侍様を見上げました。
一つ頷いたお侍様は、歩き出します。
子ネコはお侍様の後を付いて小走りに駆けていきました。
一人と一匹の姿が小さく見えるようになった頃、子ネコがお侍様の腕に飛びつきました。
お侍様と子ネコは、陽炎の中に消えていきましたとさ。
*
『人生の最期にアメリカンジョークを一つ。ある劇場で、ジョージィが、隣の紳士に話しかけました』
「ふむふむ」
『ジョージィは言いました。警察関係に知り合いがおられませんか? 紳士は答えました。残念ながら、心当たりはありませんな』
「もう喋るな、ミウラ」
『ジョージィは尋ねました。では政治関係には? ヤクザ関係には? 紳士は答えました。さあ? 両方ともいないはずですが?』
「ミウラ、体にこたえるぞ」
『ジョージィは言いました。だったらウッ――ガクッ!』
「おいミウラ! しっかりしろミウラ! ジョージィ殿は何と言ったのだ? 続きが気になるではないか! わざとだろー!? ミウラーっ!」
ミウラは最期までミウラでござった……。
ミウラが死んで一年後。
タネラの海は相変わらず青く。タネラの空はどこまでも遠く青かった。
ミウラが愛したタネラは、今日のような夏でござったな。
寂しいぞミウラ。
お前がいなくなって、寂しいぞミウラ。
半身を持って行かれる。
その言葉を理解するときが来ようとは――、
思わなかったぞ! ミウラッ!
窓から見えるの空ばかり。
だが、海も見えるぞ。
ミウラと初めて夜を明かしたあの窓辺。白い腕を伸ばす。
布団が重い。腕が重い。
ミウラよ。ミウラよ――
なあ、ミウラよ、……イセカイは、……
まこと、
面白き所でござったなぁ……
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
有り難い、有り難い
ミウラが後ろ足で砂を蹴って旅立ったのは、白い鰯雲が浮かぶ秋だった。
イオタがあの世とやらへ放浪に出たのは、暑く、青い夏だった。
死ぬまで、
イオタは、イセカイをアメリカ辺りにある異国だと思っていたらしい……。
ネコ耳の勇者イオタ。
ネコ耳の調停者イオタ。
遺言により、葬式はこっそりと行われた。遺体はミウラの「墓」に埋められた。
取り仕切ったのはゼペルとエルミネタ(生きていた!)。
イオタの息子が、もっと大きな葬儀を行おうとしたが、これを許さなかった。
イオタ家当主であるはずの息子は、老人達の言葉に、傀儡のように従ったそうだ。何故か。
かわって半年後。主人公のいない祭壇を設え、お別れの会を盛大に行った。
ヘラス国家主催で大々的に取り行われたのだ。
参列者はヘラス国王をはじめ、国内の重職に就く者達。
煌びやかなヘラス貴族達。
ドラグリア皇帝の子にしてカレラの跡を継いだ次の皇帝。
マセラティ伯カールマン。
ジベンシル王国国王名代。
ドワーフ王国の若き王。
蓮の賢者エスプリ。
大勢の国民。
そして、緑の肌をした謎の人物。
使用人だった老夫婦は参列しなかったという。
賑やかに、まこと賑やかにお別れの会は開かれた。
それは、生前のイオタの性格を現したかのように、明るい催しであったという。
―― 完 ――
……そして……
何処かの時代、何処かの世界。
季節は冬。
高層ビルが並ぶ大都会。大きなスクランブル交差点。
背の低い男の子が信号を待っていた。
世を拗ねたような目。天使の輪を持つ黒髪。黒を基調とした服。
大型ヘッドホンを首に引っかけている。
一見して、ノラの黒ネコを連想させる男の子。
交差点の向こう側に、背の高い女の子が信号を待っていた。
世の中の希望を信じている素直な目。茶色の長い髪。
白とピンクを基調とした服。胸がふくよか。
金持ちの家で飼われいるであろう白猫を連想させる女の子。
信号が赤から青に変わった。
大勢の人に交じって歩き出す二人。
近づいて来る男の子。近づいて来る女の子。
すれ違っていく二人。
互いが互いを知らず。
二人が出合うのは、春の入学式を待たねばならない。
それはまた別のお話でござる。
ネコ耳サムライTS転生物語。
イセカイは摩訶不思議な所でござるなー。
『これにて一巻のお終いでございまするッ!』
1/8日。一部修正しました。