7.少年タキ 3-3
イオタさん達が帰ってきたのは、次の日の昼前。
町中総出で出迎えた。
「……よく生きて帰れたと思う」
「同感……」
あんなに仲が悪かった親分さんと護民官の隊長が仲良くなってる?
「イオタさん、怪我は? 危なくなかった?」
「夜に光ってくれるから探す面倒が省けるというマヌケ相手に後れをとるはず無いでござろう?」
イオタさんは至って艶々。
疲れた顔をしているのは、小松林の親分さん一家と、護民官の人達だけ。着てる服はボロボロであちこち泥と返り血らしいのが付いてて汚い。
イオタさんの服はさして汚れてなかったけど?
「では拙者、腹が減ったので、飯屋へ入る。後は任せたぞ! 隊長と親分さん!」
「へ、へい!」
「了解致しました!」
……出発したときと違う。イオタさんへの態度が違う。なんか、こう、敬うような?
何があったんだろう?
「皆の者! 夜光狼の脅威は去った。安心しろ!」
隊長さんの一声に歓声が上がった! 女の人の中には、悲鳴に似た声をあげている人も居た。
「護民官の皆さん! 有り難うございます!」
「さすが親分さんだ!」
これだけの人数がいれば、夜光狼も怖くなかったろう! だって前の夜で数を減らしてるし、ボスのゼノも大怪我をしたし!
「いや……」
「我々は……」
親分さんも隊長も言葉の歯切れが悪い。なんでだろう?
「そ、それでは! 本官は上に報告しなければならないので、これで! 町の衆への詳しい説明は小松林の親分殿に任せる!」
「あ、逃げるなコラ!」
隊長さんと護民官の皆さんは、役所へ向かって走っていった。
みんなの目が親分さんに集まる。
親分さんは、目を泳がせながら子分さん達を見るけど、子分さん達は目を合わせようとしない。
「ええーい! ままよ!」
親分さんが一気にしゃべり出した。
……で、
夜光狼の群れは予想を超えた多さだった。
あの夜に倍する数が、温泉街のすぐ裏の山にいた。
ゼノだと思ってた大きな狼はゼノじゃなかった。たぶんゼノの子どもだ。
子どもに箔を付けさせる為に村を襲わせたのだろう。と、イオタさんが言ってたそうだ。
本物のゼノは、一回りも二回りも大きかった。
親分さんは全滅を覚悟したらしい。護民官の隊長も死を覚悟したらしい。
……で、結果、イオタさんの一人舞台。
夜光狼の群れを全滅させることができなかった。
夜光狼のボス、本物のゼノは逃した。
……でも、
群れの生き残りは数頭。しかも全員大きな怪我を負っている。
ゼノ親子は満身創痍。追い立てられ、悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
その姿に王の風格は無かったそうな。
「イオタさんが言うに『犬が尻尾を尻に挟んで逃げ回る。それは完全敗北の印』なんだと」
はぁ……。
「夜光狼は人間に恐怖を覚えた。人間が夜光狼の恐怖を忘れない限り、二者が接することは無い。ならば不幸な出来事も起こるまい。と、イオタさんが言ってたからもう大丈夫だ」
何か歯切れが悪い?
「親分、説明は済んだでござるかな?」
ご飯を食べ終わったんだろう。イオタさんが食堂から顔を覗かせた。
「へ、へい! たった今終わりやした所でさぁ!」
中腰で頭を下げる親分さん。あれ? イオタさんと親分さん、出発前と立場が入れ替わったような?
「では親分さん、温泉街の皆さんの帰宅手配を頼むでござるよ。安全にな!」
「へい! お任せください!」
親分さんが元気を絞り出している。
「拙者とミウラは家に帰る。もう一眠りしたい」
「おい野郎共! イオタさんとミウラさんがお帰りだ!」
「イオタの姉さん、お疲れやしたーっ!」
イオタさん、なにやったの?!
「ミウラの兄さん、お疲れやしたーっ!」
猫にまで頭を下げてる!?
イオタさんは摩訶不思議な人だなぁ。
仕事納めが昨日でした。
さあ、買い出しと掃除です。
年賀状はまだ書いてません!!