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4.役所

「おはようございます、イオタ様!」

「おー、おはようございますニコス殿。朝ご飯はもう済まされたでござるかな?」


 朝飯を食い終わり、湯などを飲んで寛いでおると、ニコス殿が顔を出した。


「お気遣いありがとうございます。実家で済ませてきました。朝から、役所へ顔を出すお約束ですが、ご用意は如何ですかな?」

「準備万端でござるよ」


 それは予定に組まれていた事でござる。

 普通の町人なら、ご近所と町内会の顔役に挨拶するだけで良いのだが、某、ちと有名でござる。町の権力者に挨拶せねばならぬ。エランからの手紙も預かっておる。

 こう言う事は朝の間に済ませるべき事柄。

 

「行ってらっしゃいましぇ、旦那しゃま。キショーショショショ!」


 ……早く慣れよう。


 エルミネタ婆様に留守を任せ、ニコス殿とタネラ役場へ向かう。


 朝の空気は美味い! 清々しい!

 歩いているだけで、心も体もほぐれてきたぞ!

 ミウラもトコトコと歩いている。


『タネラって有名な保養地のはずなんですけど、観光客が少ないですね?』

「うーむ。確かに旅籠は数件見受けられるが、暇そうだしな」


 なぜか大通りの西側にだけ、固まって数軒並んで建っておるが、繁盛しているように見えぬ。御店の者も暇そうにしている。


『元ネタがミッケラーってのが引っかかりますね』

「そう言えば、ウラッコも”知ってる”だけだったな。うーん! でもまあ、タネラの魅力に変化は無し! どうだ、この素晴らしい景観!」


『白い町並み。石畳の道。青い空! 規模に応じた活気に溢れた町! ノープレブレムレムです!』


 問題は某達の心のありよう。某らが満足していれば無問題でござる!

 


 そうこうしている内に、波の音をネコ耳が拾った。浜辺はすぐそこだ。役場も見えてきた。


『相変わらず、高潮の一つもあれば、町の重要機関が機能を停止するのに最適な場所ですね』

「何でここに建てたんだろうな? 御免!」


 役場のドアをくぐった。

 挨拶すると、一階で仕事をしていた全員が立ち上がった。


「え? 何でござるか?」


 立派な服を着た貫禄いっぱいの禿が転がるように走ってきた。


「イ、イオタ様! お待ち申し上げておりました! 私、タネラを預かるアメデーオ・カテナッチです! どうぞお見知りおきを! ささ、ここでは何ですから、どうぞこちらへ! ささ!」


「いやちょっと、アメーデオ殿! ちょっと!」


 えらい勢いで引っ張られていく。

 役場の人達が呆れた目で見ておる。恥ずかしいでござる!


 通されたのは二階の応接間。貴族の屋敷に匹敵する豪華な部屋でござる。

 良い香りのお茶と菓子が出た。どちらも高そうでござる。


 ヘラスの領事を名乗るアメーデオとか名乗ったハゲ親爺は、ひたすら某の冒険を褒めちぎりまくる。長いでござる。

 長すぎるので強引に切った。


「ヘラス王国宰相エラン殿より手紙を預かっておる。これでござる」


 懐より書面を取り出すと、頭の上で押し抱くアメーデオ。仰々しすぎるでござる。

 重々しいほど儀式張った所作で書面を開く。

 おう! とか、ふむふむ! とか、芝居がかった仕草で読んでおる。


「確かに拝命致しました!」

 拝命って……それほどの内容は書かれていないはず。


 イオタを普通の町人として扱え。税も普通に取れ。儲けを出したら重税を課してかまわん! イオタが何かするだろうが、妨害をするな。

 そんな事をつらつら書いてあるだけだ。


 あと、重税の件は今度顔を合わせたときにじっくり話し合おうではないか。拳か剣で!


 パーティのお誘いだとか、狩猟のお誘いだとか、はては沖釣りのお誘いとか出てきたが、全て断った。

 もうね、這々の体で応接間から逃げ出したのでござる。


 一階に下りると、職員が一糸乱れず全員起立した。こっち見てる!


『旦那、なんか一言! でないと殺されそうです!』


「えーっと、これからお世話になるイオタでござる。ご覧の通りネコ耳族でござる。それ以上でもそれ以下でもござらぬ。なんぞタネラに産業を、等と考えておる。その時はよろしくお頼み申す。では!」


 逃げるようにして役場を後にした。

 アメーデオが役場を出てからも付いてこようとしたので、些か乱暴……もとい、丁寧にお断りした。




「あのハゲ、苦手でござる」

「え、ええ、個性的でしたね」


 ニコス殿も手拭いで汗を拭いていた。


『対応に出たのが禿一人だけってのにお気づきになりましたか?』

「だな!」


 ミウラは警戒していた。


「きっと、小さな悪事をしでかしておるでござる」

「でしょうね。叩けば埃が出てくることでしょう」


 巻き込まれぬよう充分に気をつけよう。



 

 ちなみに、ニコス殿は今日これからヘラス王都へ帰る。

 感謝の意味を込めて昼飯を奢った。


 さようならニコス殿。また会おう。

 適当に入った飯屋だったが、白身魚の煮付けが絶品でござった。


 また来よう。




「お帰りなしゃい旦那様。キショーショショショ!」

「……ただいま」


 うん、だんだん慣れてきた。




 ヘラスへ着いたのは四月頭。

 タネラへ移住したのは四月末。


 これまで忙しすぎた。慌てて生きすぎた。

 六月までの一月は遊ぼうと決めていた。


 長い休暇が始まる……。



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