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1.タネラへ でござる

再開しました。

6章をもって真の完結編とさせて頂きます。

 青い空は、どこまでも澄み切っている。

 紺碧の海は遠浅で、どこまでも透明だ。

 並ぶ家々は白い壁、蜜柑色の屋根。

 これがヘラス王国が誇る『旦那の中ではね』タネラの町でござる!


 ルカス殿のパトレーゼ商会より使わされた大番頭ニコス殿の案内で、タネラの町へむかう道中。エメラルド山を擁する岬を越え、つづら折りの坂道を降りようとしている所でござる。


 ここから見るタネラの町は、小さくて可愛い。岬と岬にはまれた地形。大きく弓なりになった浜を抱えている。

 浜の向こう。海に突き出した岬に御縁を感じる。

 香箱座りした猫みたいな? 影を持つ岬でござるな!


「あの岬は猫岬と呼ばれています」


 ニコス殿の解説が入った。某がじっと見ている所から、気を回してくれたのだろう。よく気がつく男だ。

 やっぱ猫に見えるんだ。

 うん、みんなと同じ感性でよかった。


 初夏らしくない爽やかな風が海から吹いてきた。


『涼しい風ですね』

 懐から上半身を出したミウラ。髭を風に靡かせる。


 漁に使うのであろう。小さな船が、浜に引っ張り上げられている光景が目立つ。


「タネラは遠浅の海なんです。浅瀬に邪魔され、大きな船が使えないんです」

「ニコス殿はタネラに詳しいでござるな」

「はい。私と商会長はここの出なんです。山一つ隔てただけで、ずいぶん貧乏な町なんですよ」


 そういう事を言ってたな、ルカス殿は。


「貧乏が力となって今の商会を作り上げたのですよ!」


 ニコス殿は誇らしげでござる。そういえばルカス殿も古里を自慢していたでござるなぁ。 




 とうとう山道を降りきり、町の中に入った。

 ……ってか、どこからが町でござろうか? 門や関所っぽいのは無かったでござるよ?


「ここは町と言うより村に近いですからな。決まった境目はありませんよ」

 そういう細かい所に頓着しないところも微笑ましいのでござる。


 真っ白な砂浜が右手に広がっている。広い! 広いぞ砂浜!

 砂浜だか街道だか区別の難しい道がウネウネと続く。


『ウキウキしますね』

「うきうきにござる!」


 道に沿ってポツポツと家が増えてきた。

 ヘラス王国の特徴的な白い壁。橙色の屋根瓦。


 またまた、気を回してくれたニコス殿の解説でござる。

「石灰を壁に塗りつけてるから白いんです」

『いわゆる漆喰ですね』


「ここいらの粘土は、オレンジ色してるからあんな色の瓦なんです。両方とも近くで採れる安価な材料です」

 なるほどなるほど!


 タネラの町は、タネラ川が作った三角州だ。

 元々険しい山を長い年月かけ、タネラ川がチマチマ削ってできた平野部である。


 北の山から流れ出たタネラ川は、なぜかタネラの町の真ん中で大きく東へ蛇行。猫岬の向こう側まで進路変更してから海へ注いでいる。

 タネラの浜が綺麗すぎるのも、タネラ川が岬の向こう側へ流れ込んでいる為だ。

 それが証拠に、猫岬の向こう側、サラスバの村の海は、ここより濁っていて冷たいそうな。その代わり、タネラよりは数段良き港になっているらしい。


 自慢げに語るニコス殿でござる。タネラ自慢大歓迎でござる!


『タネラの町は川が一本消えた三角州構造です。よって海抜が限りなくゼロですな。それはそれでスリリング!』



 やがて町の南北を貫く大通りにぶつかった。角の店で釣り道具が売り出されていた。うむ安い! 後で買おう。

 大通りを町の中心部へ向かって歩きだす。すぐに二階建ての堅固な建物が目に入ってきた。


「タネラの役場です。明日にでも挨拶に伺いましょう」

 浜だか町中だか区別が付かないあやふやな場所でござる。ここからでも波打ち際が見える。


『高潮とか津波とか、考えてないのかと……こう、なんつーか……』

 ミウラも心配でござるか?


『地形もですが、タネラ市民のノンキさが気になります』


 大通りは緩やかな登り坂になっていた。ほーんと、緩やかな坂でござる。

 左右に宿屋や店が並んでいる。人の通りも多い。

 閑散とした田舎町を想像していたが、なかなか賑やかでござる。


『リゾート地だけあってお洒落な宿屋が多いですね。あ、魚屋さんみっけ! 八百屋さんも金物屋さんも食事処も! この通りはタネラ商店街ですね』

 ミウラの尻尾がピンと立っていた。




 いきなりぽっと姿を見せたタネラ川を右手に見ながら道を急ぐ。

 町の中心を抜けたあたりで、左手の山へ向かう道へ入る。ここも緩い登り道だ。母上の足でも問題が無いほどの坂でござる。

 くるっと回ると丘の上に出た。


「おおっ!」

『へぇ!』


「あれがイオタ様にご提供させていただく屋敷でございます」


 二階建ての屋敷が鎮座しているでござる! 白壁に橙色の屋根瓦でござる! みんなとお揃いが嬉しいでござる!


「これがミウラと某の家でござる!」

『いえ、旦那とわたしの家でございます!』

「二人の家でよいか?」

『旦那ぁ~!』

 ミウラがしがみついてきた。よしよし。


 屋根の向こうから、細い紫煙が立ち上っている。


「イオタ様の来訪を知らせています。この館を管理していた者が準備をしてくれているんです」

 某の目線だけで聞きたい事を先取りして応えてくれる。よくできた男でござる。



 うこぎと桑を足して何で割ったら良いのかよく解らない低木で造られた生け垣は、頭の高さで刈り揃えられている。丁寧に手を入れられた生け垣だ。


 生け垣に沿って回り込んでいくと庭に出た。わざとその様に造られているのか?

 よくできた垣根でござる。


 庭で、老人が箒を手に立っていた。某らに早くから気づいていたようだ。


「ようこそおいでくださいましたのう」


 とぼけた笑顔。

 頭は禿げ上がり、目が弛んでいて、申し訳程度のチョビ髭が白い。後ろ手で背が曲がってる。

 年食ってるが、何歳かと聞かれれば、さて何歳と応えれば良いのであろうか? 不思議な風格の翁でござる。


 一言で言えば痩せた老狸?


『不可思議なオーラ? 気を感じます』


 ここは心眼!


 

種族:……

 み~たな~!




「うわっ!」


 思わず後ずさり。腰の物に手を置く。


「ほやっほやっほやっ! どうなされましたかのう?」


 とぼけた笑顔か、真面目な笑顔か? 

 全く殺気は無い。

 どういう事か?


「イオタ様、この者は近所に住むゼペル爺さんです。ここの管理を任せております。えーっと、ゼペルさん、お幾つになられましたかな?」


「憶えておらんのう。百を越えてから数えるのが面倒になったでな。ほやっほやっほやっ!」


「この者、人間か?」

『猫も20年生きれば妖怪になるご時世です。人間も百を越えてここまで元気なら、妖怪になっていてもおかしくありません』


 そ、そういうものでござろうか?

 魔族ではなさそうなので、そういう事にしておこう。……しっかりしてくだされ心眼殿!


 気を取り直して、

 ゼペル爺様を後に、館の前へと足を向ける。

 天下に名高い保養地タネラでござる! 丹田に力を入れ、気を取り直して!


 よし!


 一階、手前に張り出した部屋が目立つ!


「大きな窓の部屋でござる!」

「サンルームですよ。応接間に使ったり、リビングに使ったりと便利ですよ」

『あそこ、暖かそう! 暖炉が添え付けられてますよ!』


 玄関と窓の部屋の間に煙突らしき物が。あれはイセカイ式暖炉特有の煙突でござる!

 これで冬は勝ちもうした!


 家の真ん中に玄関があった。イセカイ特有の階段付き玄関でござる!


「昔使っていた別荘です。イオタ様のお気に召せば幸いです。どうぞお上がりください」

「失礼つかまつる」

『御免くださーい』


 畏まって玄関をくぐる。


「キショーショショショ!」


 魔法使いの老婆が包丁持って笑っていた!





『たぶんね! たぶん、こう来ると思ってました』



評価ポチより感想欄が賑わって欲しいと思う今日この頃です。

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