22.誰が最終回だと言ったッ!? 旦那がそういう目をしたッ! でござる
マセラトの町。
マセラティ伯ボーラの居城にて。
ベルリネッタがカール君に面会を求めた。イオタの弟子として。妹弟子として兄弟子に面会を求めたのだ。
ベルリネッタの体重は145キロ『キログラム換算です』。
どこからかネコの鳴き声が聞こえてきた。
肩幅はイオタの優に二倍。身長は平均的男子より頭二つは高く、時々3~4メートルになる事がある。
これ全身から覇気を吹き出している。
其の実は、何処の馬の骨とも知らぬ男に試合を挑み、あわよくば命をと、嫉妬に狂っていた。
とはいうものの、兄弟子は兄弟子。手足の骨の一本か二本で勘弁してやろうと意気込んでいた。
そうとは知らず、当主ボーラは、イオタの弟子であり、ボクサー家の一族であるベルリネッタを大歓迎した。
「これがうちの息子、カールこと、カールマンです」
妻のメラクに抱きかかえられたカール君。
おねむなのか、あふっ、っと一言。アクビだ。
この攻撃にベルリネッタは撃沈。カールを兄弟子と認めた。
そして、晩餐会。
正式なおもてなしである。
蝋燭だけの明かりの下、ボーラ氏精一杯の料理が並んだ。
さてでは頂きましょうかと目の前の料理に意識を集中したベルリネッタである。これが痛恨の隙となってしまった。
ベルリネッタは、こう見えて処女。
処女の気配と匂いにつられて、現れた魔物が一体。
首筋に牙を埋め込んだ!
吸血鬼、ヴァンテーラ伯爵である!
場所は急所である首。対処不可能!
普通の人ならば!
「パンプ・アーップ!」
叫ぶベルリネッタ。気合いと共に体中の筋肉が大蛇のように波打ち、一気に膨れあがった!
ヴァンテーラの牙は、肥大化した筋肉に絡め取られて抜けなくなった!
「の、のんののの(訳:なんじゃこりゃー!?)」
間抜けな加害者、いや、被害者か? どっちでもいいや。魔族四天王の筆頭、ヴァンテーラ伯爵ともあろう者がおおいに狼狽えてしまった。
……狼狽えるなと言う方の神経がどうかしている。
ベルリネッタは椅子を蹴って立ち上がる。首にヴァンテーラをぶら下げたまま。
「――からのー、モスト・マスキュラー!」
身体をやや前へ倒し、首周りの僧帽筋と肩、そして腕の太さをアピールするポージング。もっとも逞しいとされるポージングだ!
「うぐぅ!」
筋肉の膨張のみで弾き飛ばされたヴァンテーラ。
家具を破壊し、壁にめり込んだ。
だが、ヴァンテーラは通常の生物ではない。怪物だ。その姿勢のまま、反撃できるのだ!
「破壊光線!」
ヴァンテーラの指、赤い爪先から一条の赤い光が飛び出した。
身を低くしてかわすベルリネッタ。光は頭上を越え、対面の壁に大きな穴を開けた。
「もう一度破壊光線!」
先ほどの攻撃は囮。今回が本命。ベルリネッタは体勢的にかわせない!
「なんの! サイド・チェストー!」
横向きになって胸を強調するポーズ! 上部大胸筋で破壊光線を弾いた!
「ばかな!」
『ナイスバルク!』
何処かからネコの鳴き声が聞こえた。
「ぬぅうん!」
いつの間にか距離を詰めたベルリネッタ。拳がヴァンテーラの鳩尾に突き刺さる!
キキキキキィッ!
伯爵十八番、蝙蝠分身!
『オープンゲッツ!』
また猫の鳴き声が聞こえてきた。
無数の蝙蝠が部屋を舞う。
ヴァンテーラがベルリネッタの背後を取った!
「貫通闇槍!」
ヴァンテーラの掌から漆黒の投げ槍が飛びだす!
この位置、距離、タイミング! うまい! 背中を見せたベルリネッタ。大ピンチ!
「バック・ダブル・バイセップス!」
軽く腕を上げると背中の筋肉が盛り上がる。二つの上腕二頭筋を見せつけるポージング!
闇の槍が命中! いや! 鍛え抜かれた背筋が砕いたッ!
『背中が熊本城の石垣だよ!』
また猫が鳴いた。この城に多くの猫が飼われているからだろうか?
クルリと踵を返すベルリネッタ。ヴァンテーラと正対する!
「月光骸牙!」
三日月状の魔法の刃を繰り出すヴァンテーラ。
狙いは……意を外して下半身、足だ!
「アブドミナル・アンド・サイ!」
腹筋と太股が音を立てて膨れあがる!
大腿四頭筋に弾き飛ばされた三日月の刃が、マントルピースの大理石を真っ二つにしたッ!
『3番、カーフが石地蔵だ!』
賑やかな猫だ。
「オラッシャアー!」
二発目のパンチを繰り出すベルリネッタ。またもや蝙蝠化して回避するヴァンテーラ!
『もはや二大怪獣頂上決戦!』
ちょっと猫うるさいよ!
「うははは! いくら攻撃しようと、吾輩は痛くも痒くも無いぞ!」
ヴァンテーラの蝙蝠化回避。それは打撃でも斬檄でも魔法攻撃ですら無効とする無敵回避技である!
「対策はイオタ様より伝授されている!」
ベルリネッタは、つと握り拳を上げた。そこには一匹の蝙蝠が!
「ヴァンテーラは怪我一つしないのだろう。だが、体を構成する蝙蝠はどうかな?」
拳にちょっと力を入れる。パキョっと小気味よい音を立て蝙蝠の骨が折れた。
「怪我はするようだな? ではもう少し力を入れると」
湿った音を立て蝙蝠が絞りきった雑巾のように変形した。
「死ぬらしいな」
ニヤリと笑うベルリネッタ。童顔の彼女は笑うと可愛い。犬歯が口から覗いているが、八重歯っぽくてよりいっそ可愛い!
「なに気にする事は無い。たった一匹だ」
パタパタと手を振るヴァンテーラであるが、内心は弱点を見抜いていたイオタに恐怖していた。
「ならば、どちらの体力が尽きるか。泥試合を覚悟せよ! ヴァンテーラ!」
前羽の構えで立つベルリネッタ。
「泥試合は美しくない」
ヴァンテーラが片手を振るとレイピアが生まれた。
睨み合う狂獣が二匹!
気が高まり、二人の間の空間が、ぐにゃりと変形した。
その時ッ!
「オギャー! オギャー! オギャー!」
カールが泣き出した。
「おお、よちよち!」
メラクがカールをあやす。
「怖かったのね? 悪い妹弟子さん!」
「え? こんな場面で上下関係?」
「怖いおじさんですねー。カールに嫌われても知りませんからね!」
「いや! 吾輩は!」
シュンとするゲルム帝国騎士隊長と、魔王四天王筆頭。
「おーよちよち、怖かったねー! お部屋でおねんねちまちょうね-」
カールを連れて広間を退出するメラクお母様。二人をキッと睨み付けて出ていくお付きのメイドさん。
残った者達の間に漂う、しょっぱい空気。
その後、壊れ物繋がりで微妙な友情っぽい、なんかふんわりした感覚を共するベルリネッタとヴァンテーラであった。
本編的な部分は終わりますが、後もう少し続きます。
次章
「タネラの生活 黒ネコさん豪遊記」
ホントはこちらだけを書きたかった。
旅編は1章だけのつもりだったのですが……
どうしてこうなった?
こちらで真の最終章となります。
ほんの少しだけ、お待ちください。
年内には再開致します。