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21.異世界は摩訶不思議な所 でござる

 第一弾は外れた。


『狙いはチョイ下』

「チョイ下に修正」


 二発ある魔弾の一発は外れた。

 それは予定通り。狙いを正確にする為の捨て石だ。


 こんな大事、弾を一発だけしか用意しない何て事はあり得ない。二発に魔力を充填するからミウラも手こずっていたのだ。


 本番は最後の一発。

 この一発に、のんびり生活の全てを賭ける!


 器用のすきるを起動。

 ……運命が、このために器用のすきるを手に入れさせたのかもしれないな。


 十字を標的のチョイ下に……城壁の天辺に来るまで我慢して……、


 コトリ!

 ズォォオオーン!





⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰



「騒ぐな! 一回外しただけだ!」

 そう。一回外れただけなのだ。


 すぐに本命が――

 バリバリバリ!!


 言ってる側から第二弾!

 ドンピシャな場所に着弾!


 オオオオオオォ!


 王宮城塞全体が震えた。悲鳴を上げている!

 壁から、空から、火花を発して苦しみ悶えている!


「泣け! 喚け王宮城塞よ! 母を喰らい、俺の人生をねじ曲げた王宮よ!」

 エラン、20年の怨嗟を吠える!


「正門突破用意!」

 破壊槌の準備はとっくに終わっている。


 火花を散らしていた王宮城塞全体が、今一度激しく光り、唐突に力を無くした。


「弓、撃て!」


 一本の矢が放たれた。その矢はバリアシステムに弾かれる事無く、正門に突き刺さる。

 王宮城塞が鎧を脱いだ証!


「イオタがやったぞー! 突っ込めぇー!」

「オオォォォオオオォ!!!」


 万雷たる叫声。全軍が突っ込んでいく!

  



⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰


 

 

「イオタ様、申し訳ありません!」

「そなたは命の恩人でござる。気にする必要は無いのでござるよ!」


 ジーモを背負ってエメラルド山から降りている最中。もうすぐ麓の村だ。

 ジーモは歩けない。ミウラの治癒魔法によって怪我が治った代わりに、体力をごっそり持って行かれたのだ。


『新陳代謝を高める手法です。グリコーゲンごっそりいただきました。指の一本も動かせぬはず』

「ジーモ殿を放っておくと婚約者に泣かれるでござるからな」


「いやその、なんというか……幸せになります!」

「もげろ!」

「は?」

「拙者の里の言葉で『お幸せ』にでござる」




 そんな事で、ジーモを背負って山道を駆けているのでござる。目付を減らす為、ミウラも自分の足で走ってもらっている。


 麓の村(ジーモの出身地)で大歓迎でござる!

 村長自らの接待でござる。


「今朝方の青い光はイオタ様の手によるものですか?」

 見られておったか。


「最高機密でござる」

 人差し指を口に当てた。


「ははぁー。ではそう言う事で」

 村長が目を見開いた。別に脅すつもりも秘密にするつもりも無いので御座るよ。

 余計な詮索や質問に時間を割きたくないだけでござる。


 でもってジーモの看病は、可愛い婚約者殿にお任せし、某はいつもの着物にお着替えでござるもげろ。


「ちょっ! ちょっと! お着替えは別室で!」

 お! そうでござった。久しぶりに忘れておった。

『いえ、ずっとお忘れですが。女風呂に入るとき以外は』


 いつもの茜の筒袖に濃紺の袴。

 防備の備えは、エランをぶった切った夜に準ずるものに鉢金を追加。


「後の面倒は任せるでござる!」


 馬上の人となり、王宮城塞へ向けて駆け出す!

 一気にヘラスの町を突っ切る。


『みんな手を振ってますよ。振り返してあげてくださいな』

「それ無理!」

 某、片手で馬に乗られないのでござるよ!




『なんやかんやで王宮城塞へ到着致しました。揺れが激しかったんで酔いました。うぇっぷ』


 城門は破壊されていた。


『バリアシステムを信頼していたんでしょうね。華奢な造りです』

「見事な彫刻が彫られてるな。日光東照宮の日暮御門もかくや! 行った事無いから知らんけど」


 各部署を守る兵士達と挨拶をかわしながら、王宮中心部へと急ぐ。途中から案内を申し出た騎士の後ろに付かせてもらう。城とは迷路と同義語でござる!


『下手なダンジョンよりダンジョンです』



 やたら背の高い扉の前に出た。


「この先が謁見の間でございます」


 謁見の間?

『炭小屋じゃない。だと!?』


 普通、攻め込まれたら隠れるものだが、タネラの王は堂々としておるのな! 


「エラン様、イオタ様が戻られました!」


「無事だったか? エラン! ちっ! ……と一応心配だけしてやる!」

「……有り難う。ネコ耳の優しい言葉に涙が出そうな程感激している」


 どうせ怪我一つしてないだろうエランには一瞥もくれず、目立つ部分に目を向ける。


 一段高くなった場所にエランが立っている。こやつを取り囲むようにエラン軍の重鎮達とデイトナ殿、そしてベルリネッタ姫にヴェグノ軍曹が立っている。


 皆、静かに立っておる。

 まるで葬式? あるいは何かに悩んでおるか?


「ふむ」


 床は血の海。首無し死体が一つ。

 確かに葬式が必要でござるな。


「悪の大元、フェルアンド宰相。……の死体だ」

『身も蓋もございません』

「大願成就。まずは目出度い」


 とうとう、一言も台詞を発する事無く死んでしまったか。味噌もクソも無いな。

 悪い男だったんだろうな? 違ったら寝覚めが悪い。

 もとい、吉事でござる。憎き仇を……エランの父親って、宰相に殺されたんだっけ? そうは聞いてないが? 


 そもそも、王である父と喧嘩して国を飛び出したんじゃなかったっけ?

 今それを聞いたらひんしゅくでござる。某、空気を読めるネコ耳でござる故。


 でもって、そこが問題ではない。


「問題は、で、ござるな――」

「そう、問題は、ヘラス国王テオドロス・ヘラス」


 玉座におられる王様でござる。

 エランとデイトナ殿と同じ銀色の髪。

 目の色も同じ緑色。

 日の下に出た事が無いのだろうか? 真っ白な肌。


 年は……マオちゃんより下か?


「今年で7才。私の従兄弟。前王は私の叔父。つまり父の弟。そしてその子。そういう事だ」

 傀儡でござるな。


「だが、子供とは言え、王は王。この国の責任者だ」


 行き着く所はそこでござる。身に覚えが無くとも責任を取らねばならぬ事がある。

 殿様は腹を切る為に存在するとは、誰の言葉でござったかな?


 皆、処分に困っておるのだ。答えを出せないでおるのだ。よってこの静けさ。


「ヘラス国王テオドロス陛下」

 声をかける。こんな時でないと名前など呼べない。


 年端もいかない陛下は、きりっとした目で某を睨みおった。

 歯を食いしばって、圧力と運命に耐えて。

 子供なのに!


 震わせておる。恐怖と不安に体を震わせておる。

 マオちゃんより年下の少年が。マオちゃんと同じ王の身分で。


 ……マオちゃん……。


『旦那!』

「解っておる!」


 某は意を決し、陛下とエランの間に立った。

 一生一代の舞台でござる!


 丹田に力を込め、声を張り上げる。


「エラン! そこもと、王になりたくて軍を起こしたか!?」


 エランは小さな声で応えた。

「……そんなワケ……、ないだろう?」


「声が小さいッ!」

 某、裂帛の気合いを込め、ついでに腰の物に手を置いて叫んだ!


「エラン! そこもと、王になりたくて軍を起こしたか?」


 あ、ごめん。唾が飛んでエランの顔にかかった。


「ネコ耳……フッ!」

 キザったらしく前髪を掻き上げる。キザでござる。キザ田キザ男でござる!


「私が国王? フッ、柄じゃ無いな!」

 肩をすくめる。いつものエランでござる。


「叔父として聞く。なあテオドロス? お前は政治に詳しいか? 得意か?」


 小さな陛下は首を横に振った。


「気が合うな。実は私もよく知らないんだ」


 いつもより三割増しの悪党顔でテオドロス君に迫る。

「だから、一緒に学んでいこうではないか」  


 皆が動き出す。皆の体から緊張が解けた。


 つまり、そういうオチでござる!


『くっそ! 先生に惚れた、くっそ!』

 





 そして時は流れる。

 ……十日ほど。 


 エランの仕事を手伝ってやった。デイトナ殿のたっての願いでござる!

 めっちゃ文字書いた。めっちゃ名前書いた。自然と花押を作ってしまった。


『判子の偉大さがよく分かりました』


 ミウラも手伝ってくれた。勇者の鎧を生きてる鎧に改造して、それが書類を作成する。

『パワードスーツです』


 真夜中にそれをやられると大変怖い。蝋燭の明かりがぽつんと一つ灯る中で、それを見ると尻尾の毛がパンパンに膨らむのでござる。


 さて、有力貴族を粛正した後の人事でござるが。

 さほど心配は要らぬ。官僚組織が丸々残った。これが生きた。


 ミウラが北の城の要望を支持した。拙者も強硬に申し入れた。その結果でござる。

 ミウラはニート。つまり、大賢者でござる!

 


 エランを罠にハメたマンモルテル伯爵が、大臣に就任した。外務大臣だそうな。

 この男、その実は蝙蝠でござった。


 王宮城塞からザッカルドが抜け出した情報を掴むと、いち早く王宮内のエラン協力者をまとめ、宰相側戦力を封じたのもこの男。


 あと、エラン達に政治ができる人員が少なかった事もある。

 大人の事情で政の中枢へ舞い戻ったのだ。


「イオタ殿、これが政治というものなのです」

 ニコニコ顔のマンモルテル伯爵。イラッとする。


「まあよいでござる。裏切ったと思ったら証拠に関係無く、寝室に忍び込んで叩ッ斬ってやるのみでござる。忍びに徹した猫は凶悪にして誰にも防げぬのでござる故。月の出てない夜は、背中に気をつけるでござるよ!」


『おや? マンモルテル伯爵の笑顔が凍り付きましたよ。解ります。どの身分のお方がお相手でも、個人向けの暴力が最強なんです』


 

 次に、エランを売った商人、ルカス・パトレーゼ。某がお世話になったパトレーゼ商会の会長。一緒に旅したし、いっぱいタダ飯食わせてもらったしで一番扱いに困る御仁。

 で、蓋を開けたらこの男も蝙蝠でござった!


 エラン軍に献金していた。それも、ビラーベック商会に次ぐ高額。物資支援を入れるとビラーベックを凌ぐ。

 ルカス殿の援助がなければ、エラン軍は戦う前に瓦解していただろう。


 で、商人の口全開で言い訳を並び立てた。それがいちいちごもっとも。

 一つ一つの疑いを一つ一つ的確に論破していった。


 エランも某も、逆に感心するばかり。


『うーん、これは一度手合わせお願いしたいですね』

 ミウラが認める相手でござる。


 気がついたらお咎め無し。それどころか王宮御用達の看板を手に入れていた。

 通り魔竜レッドマンをエランに献上した。それが決定的だった。

 見事でござる! 


「ほっほっほっ、商人は契約を守ってナンボですからね」


「だったら、拙者と約束したタネラで豪邸を無償提供してくれる約束も生きておると? 一軒とは申してなかったでござるな? やや、これはかたじけない!」


 それまで、水が流れ出るように言葉を発していたルカスの口が閉じられた。




 その他、多数の政治未経験だが、戦争で活躍した脳筋男爵が登用された。


『ちょっとした左翼政権の中身みたいです。順次逃走、内部ゲバ、過激化、組織瓦解が目に見えるようです』

 似たような者同士、激しく理想を論じ合って争いとなる。めんどくさいでござる。


 そうだ、斬ってしまおう!


『旦那が薩摩人化しました』


「何を熱くなっておるのかな? 拙者も加わってよろしいか?」

 てな空気感を纏わせて間に入っていくと、なぜか温和しくなる。


 そこここで争いが発生した輪の中に、ニコニコしながらちょっかい出すと争いが収まってしまう。解せぬ!

 面白そうだったから顔を出しただけでござるのに!


『ヒント。美少女。勇者。薩摩』




「調停者イオタ」

 エランが変な二つ名を付けおった。


 断固として拒否する!


「調停者イオタ? あら、勇者だとか救世主なんかより、ポカポカした語感で良いんじゃない?」

 デイトナ殿がそう言うならそれでよろしいでござる!

 

 そうこうする内、ヴェグノ軍曹が帰っていった。王宮に備蓄された酒樽を全て空にして。

 もう来んな!


 ベルリネッタ姫は……母国の政治的な理由がアレで、王宮が開城された次の日に母国へ帰った。別れは涙で締められた。


「世話になったでござる。ベルリネッタ姫」

「イオタ様の一番弟子として当然の事をしたまで!」

「一番弟子はマセラティ伯爵の長子、カール君でござる。手取り足取り尻尾取りで教え込んだでござる」

「え?」


「兄弟子故、敬意を払うでござるよ」

 豪快巨烈な涙で締められた。


『イキよ! BB姫!』


 さらば、ベルリネッタ姫。もう二度と会う事も無いだろうが。




 そして某でござるが……




「新政府が腐敗したら斬りに現れる。対象はエランに限らず!」

「フッ! 許可しよう。……ネコ耳、お前のおかげで、私は人間に戻ることができた。感謝する」

「人間って……エラン、お主今までずっと人間だったでござるよ?」

「フッ……そうだな。私はずっと人間だった。感謝する、ネコ耳!」 


 デイトナ姫に永の暇をもらい『あれ? 喋っていた相手は先生でしたが?』、王宮、そしてヘラスの町を離れた。


 目的地はエメラルド山の向こう。タネラでござる!


 今、ルカス殿んとこの大番頭さんに案内されてエメラルド山の岬を越えるところ。

 やっと、でござる! ここまで来たのでござる!


 あの峠を越えると、憧れて止まぬ地、タネラでござる!


「ミウラ、もう少しでござる!」

『旅が終わるのですね。長いようで短かったようで長かった旅が……』


「旅は終わるもの。終わらぬのは旅とは言わぬ。それは放浪でござる」


 全ての旅は終わるのだ。終わるから次の旅を始められるのでござる。


『わたしも一言。旅はもうこれまでだ。冒険を打ち切ろう。けれどガン――』

「峠を越えるぞ! ほら、タネラの海が見える!」

 

 青い空、紺碧の海、白い町並み。

 イオタとミウラの前に、美しい光景が広がっていた。






「イセカイは、摩訶不思議な所でござるなー」




『本編 完』



⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰


 イオタの最終バージョンを以下に提示する。

 もう一段階上がれば、全ての項目を閲覧できたことであろう。

 だが、ここで特別、メタ的に表示しておこう。


真イオタ 最終バージョン


種族:(いにしえ)よりのネコ耳族(黒猫)

名前:伊尾田松太郎

性別:女

段階:Z級

武力:五十五(補正 追加加算二十可能)

職業:素浪人

水準:甲+・加算三

性癖:同性愛者(女)・性の開拓者

奥義:手先器用・加速装置・ボックス・状態異常無効・性病無効・任意の妊娠無効・超回復・心眼

称号:ネコ耳の調整者・悪を斬る絶対者・サムライマスター・手品師の弟子

運 :一

運命:十


 そう。運は一だが、運命は十だったのである。

 イオタのレベル上昇努力はここまでにつき、一生涯、この事を知るよしが無かった。


『旦那の運は1!』 







いわゆる「本編?」はこれでお終いです。

以後、イオタとミウラの日常編を掲載致します。


次回、「最終回って目をしたッ!」 


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― 新着の感想 ―
[一言] 完結おめでとうございます。 おもしろい作品をありがとうございました( ≧∀≦)
[良い点] イヤホンと面白かった イオタとミウラのコンビがほんと良かった。
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