20.この一発に全てを込めて! でござる
「情報を整理するとここに行き当たりました。急いで走った甲斐があったというもの。ホッと胸をなで下ろしていた所です」
一対五でござる。敵は用心深い。弓の距離を保持している。
「推測致しますに――強大な魔力を使って、遠距離より攻撃。王宮城塞のバリアシステムを破壊するおつもりでしょう? ハイエンシェントネコ耳族は魔法でも侮れませんからね」
見抜かれたか。
「私どもの勝ちですね。巨大な魔法を行使するには、精神の集中と魔力を練り上げる時間が必要と存じ上げております。この場で、私が時間稼ぎするだけで作戦は挫折する。そうでしょう?」
「フッ、それはどうかな?」
エランの真似をして笑いながら、ゆっくりと柄に手を置く。
「イオタ殿は、フェラルリでドラグリアの矢に倒れましたね? その場の再現です」
よく知ってるなー。
ザッカルドが手を上げると、四人の騎士が前に出てきた。そして半弓を構える。
あのときは防御に制限があった。でも今回は自由だぞ。
「小賢しい!」
某は八双に構える。
ザッカルドが腕を振るう。
四本の矢が同時に放たれる!
「加速!」
加速の前では矢など止まって見える。刀で丁寧に打ち払いつつ、射手に迫る。
弦を斬りつつ四人の騎士を斬って捨てる。
ここで加速が切れた。
残りはザッカルドのみ! 既に剣の間合い!
「ザッカルド殿、御免!」
必殺でござる。
「風よ!」
ザッカルドの魔法か?
風が某の頬を打つ。袈裟懸けは空振りに終わった。
風で吹き飛ばされたのではない。風でザッカルドが吹き飛んだのだ。
「魔法とは、使い方次第で千変万化いたします。身体強化! 敏捷性向上! 守備力上昇! 攻撃力上昇!」
ザッカルドが一言唱える度、気合いが高まっていく。魔法で己を強くしている。それくらい解る!
剣を二本とも抜くザッカルド。右手に長刀、左手に短刀だ。
「ンフフフフー! さあ、切り刻んであげましょう!」
心眼で見るまでも無い。こやつ、変態でござる!
「風よ!」
背中からの風に飛ばされ、瞬時に距離を詰めるザッカルド。
魔法の発動を感じた時点で左後ろへ飛んだ。ぶっちゃけ、紙一重で斬檄をかわした。おっと、左手の二撃目もあったか!
胴巻きに鉄筋を仕込んでなかったら、腹に達しておった!
白瓢箪と思っておったが、なかなかに腕が立つ。エランと同じくらいか?
「遅いですねぇ。どうやらスピードは私の方が速いようです。これは問題になりませんなぁ」
小刀をクルリと回し逆手に構える。長刀はそのまま、中段だ。
風の魔法が厄介だ。際でかわしたら、風が当たってくる。体勢が崩れて付け入れられる隙が生まれる。
どう捌く?
「風よ! 風よ! 風よ!」
逃げる。かわす。よける!
「ふふふ、やはり私の方が速い。あと幾つかわせますか?」
じりじりとすり足で間合いを調整。まずは良い足場を確保せねば始まらぬ。
『旦那! フルチャージ、準備完了! いつでも撃てます!』
こちらも足場を確保できたでござるよ。
「第二加速!」
加速に加速を重ね、ザッカルドの左へ入り込み、脇腹めがけ刀を這わす。
ゆっくりと動くザッカルドであるが、さすがでござる。左の短剣を刀に合わせてきた。
加速状態のまま、短剣を跳ね上げ、体をねじ込む。
某の左手には、こっそり抜いた脇差しが握られている。逆手に持った脇差しをグイと伸ばす。
「必殺! エラン斬り!」
『とうとう必殺技に昇華しましたか!』
ミウラさん? 某、現在加速中でござるよ?
加速終了。
ザッカルドは血しぶきを上げ、クルリと回って転がる。
「は、速い!?」
ザッカルドが最後に口にしたのはその言葉だった。
『違うな。お前が遅いだけだ!』
ミウラさん、格好いいとこ持っていったよね?
息を整え、鉄砲『ストラダーレ・ライフルです』の用意に入る。
命の別状は無くなったとは言え、ジーモ殿はまだ動けない。座ったまま、後方の監視だけをお願いした。意識があって声が出せれば上等でござる。
国家の一大事、怪我人でもこき使わせてもらう。
青い仄かな光を放つ魔弾を鉄砲『ストラダーレ・ライフルです』に装填。
特製遠眼鏡に片目を当てる。
王宮城塞をはっきり捉えたが、先ほどより揺れが大きくなっている。
『気温上昇による大気の揺らぎです。時間が経てば立つほど条件が悪くなっていきます。速攻で仕留めましょう!』
「であるな!」
とは言うものの、難しいんだよこれが!
『間違ってもお味方ド真ん中にぶち込んじゃ駄目ですよ。あと、石造りの城壁も駄目ですよ。強度の問題で弾かれますからね。狙いは城壁の上部。一見何もない所』
城壁から飛び出している鉄柱と鉄柱の隙間。標的はあそこだ!
なるほど、ミウラの言う通り、ここからだと直角でブチ当たるだろう。
あそこだ。あそこだ! あそこだ!!
鼓動が速くなる。息が荒れる。
「くっ!」
右手の汗を太ももの布地で拭う。改めて引き金に指を置く。
「器用のすきるよ、我に力を!」
やや上から、ゆっくりと柔らかく下ろしていき、標的に二つの照準を合わせ……。
引き金を落とすように引く。
ズォォオオーン!
目の前が真っ白になった!
⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰
エランが陣頭指揮する、王宮城塞正面。
日が昇る前より、今か今かと待ち構えている。
「城内部の協力者より通報です!」
腹心のクリストファーが慌てて走ってきた。
「ザッカルドが未明に手勢を率いて王宮城塞を脱出! 目的地はエメラルド山のイオタ様です!」
さすが予言者ザッカルド。見抜くか!
城門よりエメラルド山に視線を移す。
「捨て置け! ネコ耳なら簡単に対処する!」
イオタよ……
その時だった。
エメラルド山の山頂部より青白い光が放たれた!
「やったか! ネコ耳!」
バリバリバリ!
雷のような音を上げ、光は王宮城塞の上部、何もないように見える所に着弾!
やりやがった!
――と喜色を浮かべようとしたが――
「弾かれた!」
上辺を滑った光は、バウンドして暗い空へ飛んでいく!
狙いが上過ぎたのだ! あのバカ!
「エラン様!」
回りがざわめく。
「外れましたッ!」
次回、本編完です。