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19.黒ネコの狙撃手 でござる

 日が西に傾いてしばらく。


 一般の伝令兵が二騎、ヘラスの町を東へと走っていた。

 一人は某、一人は道案内と護衛を兼ねた騎士、名をジーモ某という。変装でござる。 


 目的地はもちろん、エメラルド山。

 用心の為、勇者の鎧を纏った影武者を仕立てる事にした。偽装でござる。


「影武者は、イオタ様を一番知ってるわたしの役目!」

 と、ベルリネッタ姫が誰よりも早く名乗りを上げた。


 物は試しと某の鎧を装備していただいたが、……これが装備できぬ。

 体格の差でござろうか?

 恐くて指摘できなかったが。

 無理に装備しようとしたが、それはそれは恐ろしい異音が聞こえてきたので、丁寧にご遠慮願った。


 ……纏うだけで勇者の鎧を破壊するってどうよ?


 床を叩いて悔しがるベルリネッタ姫。……ドワーフの坑道が一つ崩落した。


 結局、デイトナ殿を影武者に仕立てた。某と背格好が似通った女性であるが故。

 けっして、あとで鎧を返却してもらった時に匂いを嗅ごうとか、まず袖を通そうとか、そんなの考えてはござらぬ!


 で、仕立てた影武者イオタちゃんは裏門である搦手門に配備された。少しでもエメラルド山より遠くに位置してもらう。

 そんな作戦でござる!


「ミウラ、魔力の充填は大丈夫か?」

『エネルギー充填率95%。9割5分です。夜明けには間に合いますよ』


 魔弾の事でござる。策の要でござる!


 こんな事もあろうかと(ミウラ談)毎日少しずつため込んでいたそうだ。あと少しだったので追い込んでいる最中なのだ。

 懐に潜り込んでいるミウラは、魔弾の残り二個のうち、一個に全力で魔力を注ぎ込んでいるのだ。


 馬を操るのは某。魔弾の準備をするのはミウラ。分業でござる。

 日のあるうちに町を抜け、山に入る。


「樹木など生えておらぬ禿げ山ですから、視界は良好。夜の登山も少々無理すれば可能です! 私にお任せ下さい!」


 案内のジーモ殿が胸を張った。エメラルド山麓生まれなので、地理に詳しいとの事で道案内を引き受けてくれたのだ。気の良い若者でござる。


 山に入ってすぐ、日が沈んだ。沈んだといっても、空はまだ明るさを残している。できる限り距離を稼ぐ。

 某とミウラは暗くとも見えるので問題ない。ジーモ殿は足下のみを照らす細工がされた魔法の提灯を持っておる。明かりは最低限のみとする。


 麓で一泊し、明るくなってから登れば良いようなものだが、夜明けと同時に狙撃したい。

 それに万が一、敵に見つかる、あるいは感づいて追っ手を出した敵に追いつかれる、といった危険を避ける為もある。

 それ故の夜間強行軍でござる。いわば夜討ちでござる! 奇策大好き!


 夜が明けぬ前に山頂に到着した。

 王宮城塞を包囲したエラン軍は、大きな篝火をたいている。それが狙撃準備の為の目印となる。


「ここが良かろう」

 足場、展望、角度、その他、最適な場所が見つかった。


「後は頼むでござるよ」

「了解です!」


 某は、背嚢より取りだした毛布にくるまって横になる。ジーモはそのまま見張りとして寝ずの番。打ち合わせ通りでござる。

 ミウラは某と共に毛布にくるまっている。魔弾に魔力を込めているのだ。まだ魔力はいっぱいにならない。


『順調です。明日、日が昇る頃には満タンになってるでしょう』


 今のところ、策は順調。残るは……某の腕にかかっている。

 この一戦、某次第でござる。


 緊張して眠れぬ夜が過ぎていく。眠れぬとも目だけはつぶっておこう!


「はっ!」

 気がつくと辺りは白々と……。


「目覚められましたか?」

「え?」


 疲れた顔のジーモと目が合った。


「さすが勇者。横になった途端、すやすやと。よほど神経が太くないとここまでは。私がイオタ様の立場だったら、絶対眠れなかったでしょう」


 あれ? 寝てしまった?


『旦那、間もなく充填完了です。早めに用意してください。あ、体をほぐすの忘れないでくださいね!』


 ミウラは既に毛布より出て、顔を洗っておる。

 えーっと、ミウラも徹夜ですか?


「コホン! 任せよ!」

 咳払いを一つしてから、身支度を進める。


 水を飲み、ハムを挟んだパンを口にする。デイトナ殿、御自ら手作りのさんどうぃっちでござる! 滋養豊富、百万の兵を味方に付けた様なもの!


 三脚を取りだし、組み立てる。銃『ストラダーレ・ライフルです』は、ミウラ特製狙撃用高倍率遠眼鏡を調整の上、取り付け済み。

 三脚に銃『ストラダーレ・ライフルです』を乗せて、構える。遠眼鏡を覗き込み、王宮城塞を探す。えーっと、探す。探……、あったあった!

 時たまユラリと揺れて見える。


『想定以上に空気が揺れていますね。朝方の穏やかな大気状態でなければ、この距離からの狙撃は不可能でしょう。日が昇って気温が上がると、激しく揺れるでしょうから、魔力が充填でき次第、直ちに撃ちましょう』


 予定より早めでござるが、外す訳にはいかない事情ができた。夕べの内に登っていて正解でござる。

 エランは、日の出前から準備を整えているはず。

 ならば全く問題なし!


「ミウラ待ちでござるよ!」

「うへぇ! 今しばらくお待ちを!」


 順調でござる。

 まさか、こんな所で一発逆転を画策しているとは、予言者ザッカルドも思うまいて!


「楽な作戦でござった」


「実は私――」

 ジーモ殿? はにかんでおるのか? まさか! 美少女である某に懸想を!


「この戦いが終わったら婚約者と結婚――」

『それは言ってはいけない言葉!』

 魔力注入を中断してまで吠えるミウラ!


 ビックリした。


「ジーモ殿、まもなく魔力が充填されるであろう。狙撃が終わるまで今しばらく周囲の警戒を頼むでござる」

「お任せ……あれ?」


 ジーモの胸から穂先っぽいのが生えた。


「あっ、敵……襲」

「ジーモ殿!」

『だからあれほど!』


 頭から転がるジーモ殿。背中から柄が飛び出している。

 投げ槍だ!


 槍が飛んできた方角は、あそこの木の陰。

 曲者に後を付けられたでござる!


 矢が飛んできた!

 ジーモ殿を物陰まで引きずっていく。 


「イオタ様……申し訳ありま……せん」

 ジーモ殿が静かに目を閉じていく。


「馬鹿者! お主、許嫁を残して何処へ行く!?」

 頬を叩くが、目を開ける気配は無い。


『旦那』

「なんだミウラ!?」


『まだ今なら、ジーモに治療魔法をかければ助かります』

「はやく……」


 この時点でミウラが魔法を使うという事は……。


『気づかれましたか? 魔弾への注入が遅れます。作戦に綻びが生じます。それでも治療しますか?』


 エラン。エラン軍の騎士。ベルリネッタ姫。ヴェグノ軍曹。ヘラスの行方。みんなの願いが某の両肩にかかっておるのだ!

 ぬ、ぬぬぬぬ!


 えーい! 悩むのは某らしからぬ!


「ミウラ!」

『はっ!』


「全力で治療致せ!」

『それでこそイオタの旦那! どんとお任せください!』

 ミウラの目が輝いておる。


『さて細胞賦活の呪文を! 旦那! 力尽くで槍を抜いてください!』

「そりゃーっ!」

 ズボッ!


『賦活復活! ちっ! 一発では無理か!』

「任せたぞミウラ!」



 物陰から飛び出す。


 曲者共も、木陰から出ておった。

 白い軍服を着た白い顔の男が、真ん中を歩いておる。腰に二本の剣を下げておる。ドジョウ髭がイラッと来る! 


 左右に二人ずつ、半弓を持った騎士っぽいのを従えておった。

 計五人。


「キサマら! 何者だ!」

「お初にお目にかかります。私はザッカルド。人呼んで予言者ザッカルド」


 ほほう、敵の大将じゃないか。ほら、三部衆とかの。


「ネコ耳の勇者イオタ殿とお見受け致します。早速ですが、死んで頂きましょうか」

「拙者の影武者は?」

「あんな色っぽい影武者がいるかーッ!」


 怒られたでござる。デイトナ殿の色気は勇者の鎧でも防げなかったでござる!


 弓を持った騎士共が、前に出てきた。


『旦那! ジーモさんが意識を取り戻しました!』

 でかしたミウラ!


 うふふと笑いながらスラリと刀を抜く。名刀・野分丸でござる。

「今日の野分は、ひと味違うでござるよ!」



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