18.王宮城塞 でござる
国王軍、魔法使い部隊全滅。(借金返済したドワーフ多数)
特別重装甲騎馬部隊全滅。(馬もろとも縦真っ二つな猟奇死体がゴロゴロ)
某を介して、各紹介を行った。
「どわっはっはっはっ! イオタよ! よく気がつく儂に感謝して良いぞ!」
ドワーフのヴェグノ軍曹が大口を開けて笑っていた。
「いや、頼んでなどおらぬぞ、軍曹ウブッ!」
「ヴェグノ殿! 此度の助力、まこと感謝致します!」
某の頭を押さえ、エランが身を乗り出した。
「それにしても見事なタイミングで、しかも敵急所を的確に見抜いた戦術眼! さすがだな!」
褒めまくるエラン。ただのドワーフだと思ってタメ口でござるな。
くくく、ならば教えてやらねばなるまいて。
「ヴェグノ軍曹はこう見えて、ドワーフ王国の前国王でござる」
「え? ネコ耳、おまえ、コネクション……」
よしよし、予想通り狼狽えておるな。前国王と言っても強度の男色家だからな。ちゃんと紹介してやろうな。
「あなたが……イオタ様の忠誠を勝ち取ったエラン様?」
ベルリネッタの目が怖い。
『ベルリネッタは嫉妬に狂った』
「ネコ耳、こちらの女騎士殿は命の恩人だが、どちら様だ?」
「こちらがベルリネッタ姫。ジベンシル王国、ボクサー侯爵家の姫にして、騎士隊長でござるでござる」
「だからネコ耳、おまえ一体どんな旅をしてきた?」
「そうでござるな……魔王と一緒に屋台を出したり、魔王四天王のディトマソと斬り合ったり、死霊王エスプリ殿と親交を深めたり、マセラトの領主、マセラティ伯ボーラ殿の奥方の出産に立ち会って長子を取り上げたり……、ドラグリアのカレラ帝王とか通り魔竜レッドマンの下りは既に知っていよう?」
「フッ!」
キザったらしく笑うエラン。
「面白い冗談だ」
「ほんとうだぞ。わたしはフェラルリの現場に居たからな。すぐイオタ様の後を走って追いかけ、ここに来たのだ」
ベルリネッタ姫から突っ込みが入った。
ぎぎぎ。
ヴェグノ軍曹に顔を向けたエランの首から、へんな音が聞こえてきた。
「儂は死霊王事件の当事者じゃ」
ヴェグノは助け船を出さなかった。
「ネコ耳、ちょっとこい」
奥の部屋に連れられていった。
そこで、知り合いを紹介するだけで金が貰える仕事を貰った。
エラン軍は、堂々と王都ヘラスを行進し、王宮城塞を目指した。某も馬に跨がって行列の端っこに加わった。
国民の方々の歓迎ぶりが激しい。現政権に人気が無い現れでござろう。
『これが客寄せパンダ現象です』
ぱんだとは?
「フッ、敵の戦意は最低まで下がってる。国民のウケは良い。ネコ耳の影響は大きい」
ぱんだの意味が何となく解ってきた。
「吟遊詩人や商人を通して、ネコ耳の噂を流しておいた。地道な活動が実を結んだと言える」
吟遊詩人に、まさか黄色いのは混じって無いでござろうな?
昼過ぎには、エラン軍が王宮城塞を包囲完了した。
「包囲と言っても、敵は2200人。城内に守備兵は残していただろうから数は増えている。こちらは3100人。城の周りをぐるりと囲めば各個撃破の憂き目に遭う」
エランは、悩んだ末、王宮城塞のたった二カ所の出入り口、大手門『正面玄関ですね』と搦手門『お勝手口ですね』だけを押さえた。
それでも纏まって出られると数で負ける。
対策として、各門の前に堀や杭を設置し、城の中から撃って出にくい防御態勢を敷いた。
「駄目だ駄目だ! 城壁の基部にまで変な魔法が降りている。坑道作戦は諦めな!」
土に汚れたヴェグノの一行が本陣に帰ってきた。地下からだったら魔法防壁を越えられるのでは? と思っての作戦だ。
「あの魔法さえ消えりゃ、門だろうが城壁だろうが、下から崩してやれるのに! 残念じゃ!」
ヴェグノ軍曹は地団駄を踏んだ。
「門を壊そうと丸太を叩きつけたのですが、逆に壊れる始末」
その時を思い出したのだろう、ベルリネッタ姫の二の腕がメリメリと盛り上がる。
「しかも、破片が正確にわたしに向けてぶつかってきたのです」
「それで、怪我は無かったのでござるか?」
「体を鍛えてなければ大怪我をする所でした」
『体を鍛えてても大怪我ですが、なにですかね? 姫は華山鋼鎧呼法をマスターしてるんですかね?』
やはり攻城兵器も通用しないのか。
「このまま日が過ぎていくと、こちらの戦意も下がる。国民の支持もどう転ぶか解らない」
いろんな手を打っているエランの苦労も解る。
『旦那、やはり当初の予定通り、町向こうの山からの狙撃しか無いようです』
「であるな……」
ミウラが作った狙撃用遠眼鏡が有るには有るが、なんせ距離が……五里『20㎞ですね』はある。その分、反撃を喰らう事は無い。
『銃の基礎性能、エネルギー減退率、長距離狙撃オプション、旦那の器用スキル。全てを鑑みれば可能です。弾丸は間もなく充填完了予定。問題は旦那の腕前のみ!』
やるか、ミウラ!
『ガッテン承知の助!』
ノリノリでござる。
「エラン、相談がある。戦の前に話していた、城の結界破りの件でござる」
「フッ、詳しく聞こうじゃないか」
まず、ヘラスのバックリとした地形を説明すると……、
空からの俯瞰図で――王宮はヘラス湾奥のやや左に寄った場所に作られている。
ヘラスの町は港町、ヘラス湾を囲うように作られている。
王宮と反対方向、ヘラス湾を右へぐるりと回り込んだ先に岬が付きだしている。
その岬の先端に変な形の山『阿蘇山みたいなカルデラ山ですね』がある。
さほど高くない山だ。
『名前はエメラルド山らしいですよ。カルデラの縁からの角度が、結界の角度に対して垂直になるんです。結界を打ち破るには、あそこからの狙撃以外考えられません』
ミウラの前足が指し示す方向、青い海に突き出した岬にエメラルド山が見える。
絶景でござる。戦場なのに絶景と感じる某は、変なのでござろうか?
『変じゃないです。美しい物は美しい。そう感じる心。それが正常の証』
そうでござるか?
『あの岬の向こう側が、リゾート地、タネラでございますよ!』
うむ! そうでござるな!
『あの距離なら、バリアシステムの反撃機能は通用しません。カウンター攻撃の精度が落ちますから』
距離と角度について、エメラルド山に陣取るのが最適である事をエランに説明する。
「いくら何でも遠すぎるぞ!」
「正直言って、困難な狙撃でござる」
エランの目をしっかりと見据える。
「そこを成功させるのが武士でござる。そして武士に二言はござらぬ!」
「フッ! 一蓮托生だ。ネコ耳を信ぜずして誰を信じるか?」
エランは親指を立てた。見よう見まね、某も親指を立てる。
「明日、日の出から正午までの間での狙撃が目標でござる。だが、狙撃の時期、瞬間はある程度任せて欲しい。温度や湿度、風向きを待たねばなぬのでござるよ」
「フッ、こちらの事も信じてもらおうか! 一切の気遣い不要!」
いつものように、唇の片方をねじ曲げて笑うエラン。目が恐い。
「イオタ様! 城門破壊は、わたしにお任せください!」
破砕用の丸太を箸のようにクルクル回すベルリネッタ姫。
うん、それは任せた。
「どわっはっはっはっ! そうとなりゃ景気づけに、もう四・五本ケツ……坑道掘っとくか!」
えーっと、それは良いが、性的犠牲者が出ぬようにな。ヴェグノ軍曹!
「では早速参るでござる……晩メシ食ってからな!」
ヘラスが最終目的ではない。タネラが最終目的地なのでござるよ!
エメラルド山から見るタネラの海は、きっと美しいのでござろうな。
初心に戻れ! で、ござる!
ここは某の母国なのでござるよ!
さあ、最後の試練でござる!