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14.隠密同心 でござる

『旦那! 右前方斜め上。弓の狙撃手!』

「むっ!」


 屋根の上の狙撃手と目が合った。と思ったら撃ちおった!


 無意識に加速。矢がゆっくりと近づいて来る。余裕で掴む事ができた。

 収納より鉄砲『ストラダーレ・ライフル』を取り出し、構えると同時に狙いを付けて放つ。


 ダーン!


 命中したらしい。狙撃手はのけぞるようにして倒れた。


 小豆色の前合わせに紺の袴。腰に刀は目立つか?


『積層魔法危険探知は完璧です。たとえば先っぽが尖った物がこっち向いてるとか。感情探査とか複数を纏めた探査系魔法でげす。これにに引っかかった敵は、逃げられやせんぜ!」

 そう言う事でござる。


 悪意を持った者が、石を放り投げる。その姿が見えるようなもの。

 息をするように対処できる。


『そこの角に殺意を持った者3名。飛びだそうと待ち構えてます。軽装です』


 ここまで判ってるのに余裕で仕留めぬ方がどうかしてる。

 十手を抜き放ち、真正面から殴り倒す。


「そこの屋台を見ろ! 肉だ肉!」

 串刺しにされた肉が焼かれている。良い匂いがここまで漂っている。


『ミンチ肉で作ったケバブの様ですね。いただきましょうか。あ、後ろから2名。毒を仕込んだ小刀を懐に呑んでます』


 耳と鼻が正確な距離を教えてくれる。


『あと、3,2,1』


 振り向きざまに十手を二度振るう。あ、ごめん! 鼻骨にまとも入った!

 ま、いっか。


「大将、二人前所望致す」

「へ、へい! あのー、イオタ様で?」


「烏賊にもゲソにもスルメにも。狼藉者は近くにおらぬ。安心なされよ」

「さ、さすがネコ耳の勇者様。さあ、どうぞ」


 見事な包丁さばき。串焼きにした肉を削って出すのだな。あっという間に二人前が紙に包まれた。はみ出しておる?


「おや? 大将、これは多すぎないか?」

「サービスですよ! もしくは先ほどのお仕事代と取って頂いてもかまいませんや!」


 にっこり笑う大将。そういう事なら遠慮無くいただこう。

 石段に腰掛け、ミウラと一緒にケバブとやらをいただく。


『うまうま!』

「うまうま!」


 これはイケル! 塩味中心でなんか解らん味付けが加わっていて美味しい!


『バイオ粒子反応有り! 破壊、じゃなくて旦那! 10人ばかり駆けてきます。そこそこ重武装ですね』


「ならバルディッシュ振り回すか?」

『お腰の刀を振って頂くだけで。今回、私が始末します』


 たまにはミウラに渡さんとな。勢いよく抜刀!


光速鋼拳(エルメキアランス)!』

 全弾命中! もんどり打って転けよったが、大丈夫か?


『安心しろ、峰打ちじゃ』

 魔法にも峰打ちがござるのか?




「腹もくちた事だし、ぼちぼち王宮城塞を探りに行くか?」

『いいっすね。明るい間に全景を目に収めておきましょう』


 夜にもう一度行くけどね。

 おっと、後始末を忘れていた。


「拙者らが逃げた方向は正確に伝えるのでござるよ-!」  

「わっかりやしたー! 城と反対の方向へ逃げたっていっときまーす!」


 町の衆もノリノリでござる。 





 小豆色の筒袖に紺の袴。さすがにこの格好で王城に近づけまい。ネコ耳ネコ尻尾も目立つ。

 そこで変装でござる。


 まずは、数多く有る銭湯に入る。ここしばらく風呂入ってなかったからなー。体を濡れ手拭いで拭いてただけだし。


 垢を落とし、髪の埃を落とし、女子の観察はほどほどにして、あっさり上がった。

 着物類は収納へ直し、町娘の服装に着替える。スカートとやらは、着流しと似ていて落ち着くでござる。


 仕上げに、頭からすっぽりフード付き花柄マントっぽいのを被ってできあがり。ミウラは買い物篭に入れておく。


 銭湯から出ると……様子がおかしい。


 大勢の官憲共が女湯を見張っておる。女湯から出てくる女性客の視線に侮蔑の色が含まれている。

 そのためか、官憲共はまともに女性客の顔を見られんでおる。


 某は、目を合わせないようにし、そそくさとその場を去った。

 ……あれは某を張っておったのだろうか? 


『意味ないですね。連中は、理由を付けて女風呂に踏み込むべきでした』


 そーは行かんのが男心でござる。ミウラには解らんかもなー。






 で、まあ、呆気なく城に着いたのだけど……。


「人気の少ない通りを選んだのでござるが、異様な雰囲気でござる」


 町中の城はイセカイ特有の構造だった。堀は無い。城壁が城をぐるりと一周。城壁もそれほど高くない。よじ登れる高さではないが。


 印象的なのが、城壁の上より空に向かって伸びている沢山の鉄塔。か・ら・の――

 鉄柱? 内側に反るようにして高く伸びておる。


『各鉄柱の円弧を伸ばしていくと……全て王宮の一番高い塔の上部にぶつかります。なんだろう? 新早乙女研究所?』


 何を言ってるのか解りません!


『アナライズ……。魔法の残滓を感じます。ルカス商会の御者が言ってましたよね? 王宮の城壁に触ると火傷するって』

 確かにな。


 小柄を抜いて城壁に投げる。刺さると思いきや、青白い光りに破裂音をたて、下に落ちた。近づいて見ると、刃や柄がグズグズになってしまっていた。


『人だと、触れるだけで死んでしまいますね。あ?』

 ミウラが首を上げ、左を見る。某の耳も左に向いた。鼻が汗臭い金属臭を関知。


『警報装置にもなってるんですね。ひとまず姿を隠しましょう』

 ボロボロの小柄を拾い上げ、その場を後にした。遁走でござる。


『旦那、一旦迂回してから正門へ向かってください。わたし一人で忍び込みます』


 正門は多くの荷車や馬車が行き来している。車の裏に潜り込むつもりだな。ネコ一匹なら気づかれる事も有るまい。

 見た目は子ネコ。頭脳は大人。大人の知恵を持ったネコ。歴史上、最強の忍びにござる!


「頼んだぞ、ミウラ」

『お任せを。夜の八時……宵五つのド真ん中頃に、さっきの場所でストラダーレ・ライフルを発射してください。狙いは鉄柱と鉄柱の真ん中。何もない所を狙って。弾はこの弾、オルタナティブ・ブレットで』


 ミウラは首輪にぶら下げた魔石を加工した弾丸を渡した。通り魔竜レッドマン戦で使った偽物のエネルギー弾だ。


『撃った後は直ちに逃げてください。わたしがアジトに帰還するのは明日の昼前でしょう』


 城の出入りが始まって通行人に紛れるか、独自の脱出道を見つけ出すかのつもりでござろう。


「上首尾を期待しておる!」

『お任せを!』


「くれぐれも命を大事にな!」

『いのちだいじに、ですね。ご安心ください。それでは!』


 ミウラは自然な足取りで荷車の下に忍び寄り、ぴょんと跳躍。姿はそこで消えた。

 信じておるぞミウラ!




 そして日が暮れ、訪れた時刻は宵五つ(体感による)。三回目の着替え。今回は男の服でござる。


 植え込みにしゃがみ込んで鉄砲を構える。……『ストラダーレ・ライフル』という言葉が割り込んでこないのが寂しい。


 緊張感を高める。なにせ一人働きだからな。何があるか解らない。

 狙いは鉄柱と鉄柱の中心。空に向かって。


 撃つ!


 光の筋が伸びる。


 狙い通り命中。


 城壁の上の何もない所で、光の玉が膨れあがる。

 何もない空なのに、そこにはまるで見えない壁が有るよう。


 その時、全身を嫌な予感に襲われた!


 勝手に体が動く。最大の加速を使い、真横に飛び跳ねた!

 結果、危ない所だった!


 撃った光が跳ね返ってきたのだ。今まで某が潜んでいた場所に!


 これは! 矢や魔法の飛び道具を使うと、正確に跳ね返って射手を打ち抜く。

 防御とは名ばかりの攻撃兵器。厄介なのを相手にしたでござる!


 戸惑ったのも三呼吸まで。一目散にその場を離れる。


 ミウラ! 気をつけよ!

 王宮は危険すぎる!



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