11.状況分析(ミウラ談) でござる
やるからには徹底的に!
御政道をひっくり返し、エランを頭に据えれば、仕事は終了。後はのんびり過ごせる!
『旦那、現状を認識しましょう。先ずは……』
ミウラのお勧めで、エランが把握している反乱軍の全戦力を明け透けにしてもらった。
まずは人員。
今ここに集ってる人員が、反乱軍の中心人物とのこと。
心眼!
うっ! 見事に全員、脳まで筋肉が詰まっておる!
『このままですと、根性と精神論で突撃全滅! まともな作戦立案のできる人物は先生のみ! いや先生も比較的マシというだけ。この組織、ダメです!』
ネコに駄目出しされる組織ってなんだろう?
先ずは勢力を聞こう。
破落戸だけで国家転覆はできぬ、第一危険だ。下手撃つと、基礎から組織編成なんて事もあり得る。
「勢力だな? 現王派貴族が8割。私の派閥貴族が2割」
「圧倒的に不利でござるな! ではこれにて御免!」
「だがしかし!」
帰ろうとしたらエランに袖を掴まれた。
「この者、クリストファーの――」
例の顔見知りの部下をさす。ゲルム帝国はビラーベック商会にまで足げく通っていた小物の事だな。
「――シモネット伯爵家が中心となって支援してくれている。伯爵家の支援は大きい」
ぶっ! 小物が伯爵家の人間でござったか?
「シモネット伯爵家の三男でクリストファーと申します」
くりすとふぁー? 名前負けしてないか?
「支持してくれているのは主に男爵家クラスが中心だが、低い身分の者ほど世情が見えるものだ」
影響力として、どうなんだろう? 三千石の旗本衆に二百石以下の旗本衆が喧嘩を売ってるようなものだ。
「現王派の中でも日和見を続けている家が沢山ある。そこを切り崩しつつ戦力をこの地に集結させている最中だ」
「そこで焦ったからマンモルテル伯爵に釣り上げられたのでござるな?」
「うっ!」
言葉に詰まるエラン。せいぜい詰まっておれ。エランには、某と違ってミウラの様な軍師にして賢者がおらぬのだからな。ざまみろ!
「次は戦力だが――」
剣と魔法でブイブイいわせてる世界だ。口や法より拳骨と斬り合いが幅を利かす。
「ヘラス王国の騎士の総数は約6千騎。うち敵が4千騎、味方は約2千騎」
「四対二でござるか? お見方貴族家の数に比べ、ちと多くないか?」
「アレだ。……男爵家連中は、ほぼ武門の出なのだ……。これで解ったろう!」
「うむ、理解した」
『お見方脳筋説確立!』
「謀略家と噂のマンモルテル伯爵がこちらに着けば、千は増える。3千対3千に持ち込めたんだ! 礼を尽くし、武器を身につけず会見に挑んだのも判るだろう!?」
エラン、お主、泣いてないか?
『実行部隊も脳筋ですか? うう、気が重い。旦那、資金の出所を聞いてください』
軍資金だな。武士は食わねど高楊枝、は通用せぬのが世知辛いところ。
「金か? 味方貴族は自腹で参陣してもらっている。一番大きい出資はビラーベック商会」
「あのケチがよく出したでござるな。いや、婆様は引退したでござるか?」
『この世は伝手と人脈が全てです』
「全然足りないが、藁にもすがる思いだ。ビラーベックは南側諸国へ進出してない。僅かな金でヘラス王国に足がかりを作るつもりだ。足下を見やがって!」
悔しがるエランでござるが、日頃の行いが悪いが故でござる。ざまみろ。
『次は敵について!』
「敵は誰でござる? 拙者、義の無い斬り合いはお断り申す」
「敵の首領は王じゃない。宰相だ。フェルアンド・カスタル宰相。国王テオドロスを傀儡として操っている。こいつが政治を私物化したからヘラスが破綻しかけてる。フェルアンド宰相の始末が最終目標だ!」
テオドロス王を操る奸物、フェルアンド宰相でござるな! ならば義はこちらにある。
「次は三人衆。こいつらがヘラスを食い荒らしている」
『四天王じゃない……だと?』
「ドラグリア派遣艦隊のアバス提督。ヘラスがドラグリアの傀儡と呼ばれる原因だ。わざわざヘラスから招いたという曰く付き」
ヘラスを実効支配しようとしているのか? むむ! ヘラスは西国諸国じゃないから和平条約は通用しない。むしろヘラスからドラグリアを招いたんだから、喧嘩吹っかけると大怪我するのな。戦後交渉で有利な条件を引きだそう。
「予言者・ザッカルド将軍。軍を仕切っている男だ。必ず勝負せねばならぬ敵!」
脳筋には脳筋をぶつければ良い。取り敢えず横へ置いておこう。
「もう一人は正体不明。エドゥと呼ばれている。名前か、記号か、役職名か、それも解らん。解っているのは、魔法に長けている事だけだ」
『ふふふ、腕……もとい前足が鳴ります!』
魔法と聞いて、ミウラが体を温めだした。
「王宮城塞の城壁を魔法強化した張本人らしい。我等は、2千騎で4千騎の騎士を破った後、魔法で強化された王宮城塞外壁を破壊せねばならない」
王宮城塞。ばべるの塔みたいな城か?
なんだなんだ? みんな暗いぜ? おいおいおい、お通夜かよ。
王宮城塞の魔法? そいつはミウラが引き受けよう。
「エランよ! 王宮城塞の魔法障壁対策は、拙者が少し考えてみるでござる」
『デイトナ殿に向かって見得を切らないでください』
「ミウラよ、ここは我が主デイトナ殿にだな――」
『はいはい。話し進めますよ。取り敢えず打てる手から打ちましょう。まずは資金源の強化から』
だからデイトナ殿にだな――
『イオタの旦那が反乱軍に合流したと、ビラーベック商会に伝えましょう』
え? そんなんで金が増えるの?
ミウラが言ったままをエランに伝えた。
「なるほど! ネコ耳という信用度を増して掛け金を積ませる作戦か!」
……増えそうでござる!
「いや、もう一つ使えるネタがある。イオタはビラーベック商会を快く思っていない。資金協力しなければ、怒ったイオタが関係を破談に持ち込む可能性がある。いいぞ! これで一方的に頭を押さえられなくなる!」
ビラーベックと縁を切れるなら願ったり叶ったり。その時は任せよ!
『次、世論操作。自国民と諸外国に反乱軍の正当性を訴えます。これも旦那が立ち上がったって一文を加えます』
あっはっはっ! ミウラよ、某が立ち上がっただけで世論が操作できるものならやってみるが良い。
「常に正義の側に立ち続けたネコ耳の勇者イオタが反乱軍に付いた。これは大きいぞ! 民心が王から離れる! 外国の干渉も少なくなる!」
あ、しまった。某、なぜか外面評価が高かったんだった。
『なるべくなら、外国から兵は借りたくないですね。後が怖い』
借金につけ込まれて払わなくていい利子を払わねばならなくなる……かな?
それでは今の王室とドラグリアの関係と同じ。満願を成就しても遺恨を残す。国民の負担は変わらぬ。
「よし! 新たな手を得た! 直ちに行動開始だ!」
拳を握りしめるエラン。えーっと、お菓子食べないなら某がもらっていいかな?
「ゲルムのビラーベック商会へ手紙を出す! 諸外国へもだ! ダメ元でドラグリアにも出そう! 急いで準備しろ!」
「はっ!」
配下の者どもが、弾かれたように動き出した。
みんな元気だなー。
さてと、デイトナ殿とお話でもして親睦を深めるとするか。ぬふふふ!
『ヤレヤレだぜ。敵は国家権力。有力貴族も大勢。主な資源と資産は敵が握ってる。味方は脳筋だらけ。実にやりがいが有りますなぁ~』
テーブルに上がり込んだミウラは、ヘラス三人衆対策を考えだした。
『まずドラグリアの艦隊をなんとかする。同時にエドゥとかいう謎の覆面レスラーの素顔を暴かなきゃ。そこから初めて対処の方法を考える。ザッカルド将軍を決戦の上、討ち果たすのはこの次だな。これは脳筋共に任せよう。まずは王宮城塞の魔法防御を調べて、無効化の方策を考え出さなきゃ。迎撃要塞化してるっぽい王城内へ雪崩れ込むのは脳筋に押しつければOK。最期にカスタル宰相をぶち殺せば終了。なんだ簡単じゃないか! HA-HAHAHA!』
戦決戦間近でござる!
⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰ ⊱φωφ⊰
ヘラス湾に遊弋するドラグリア艦隊。
それが一望できる陸上基地にて。
ヘラス王国派遣艦隊司令長官アバス将軍が、国からの書面を読んでいた。
ドラグリア皇帝カレラ陛下直筆の命令文だ。
「ふむ」
読み終えたアバス将軍は顔を上げ、物思いにふける。
「何と書いてありました?」
タイミングを見計らい副官が声を掛けた。
「外事関係の文官だけを残し、ドラグリア艦隊はヘラスを離れる」
「なんと!」
「質問は許さぬ。直ちに出航準備に入れ!」
翌日の内にドラグリアの戦闘艦はヘラスを離れた。
ヘラス三人衆一角が崩れた。
王宮城塞の、とある奥まった部屋にて。
「む?」
エドゥが開け放した窓を見た。風も無いのに白いカーテンが揺れている。
「久しぶりだな、エドゥ。魔族四天王の一人よ」
声はエドゥの後ろからだった。
「ディトマソか? 殺り合うなら声を掛けてからでなくとも良いのだぞ!」
壁に背を預け、腕組みして立つ黒い影。吸血王ディトマソ・ヴァンテーラ伯爵である。
「我等が尊きお方の話を持ってきたのだが。決闘の後にするか?」
「先に話せ。お前が死んだら話もできぬ」
「ならば――」
「くっ! 撤退するしかないか。だが、王宮城塞の仕掛けは残すぞ」
「尊きお方に叱責を頂く事となるが。それで良いのか?」
「それはご褒美……いや、あの程度を無効化できぬ者に、尊きお方の信を得る事はできぬ」
「ふふふ。無効化されたら、温和しく尊きお方に従うんだろうな?」
「無論――。喜んでっ!」
その夜、ヘラス三人衆の一人、エドゥが姿を消した。