成長は早いですよ！
月日が流れるのは早いもので、ちょうど5年の歳月が流れた─
私はシオン・アクエリアスと名付けられ元気に育っていった。ここでこの国について話しておこう。
ここはエトワール王国という人族の治める国であり、貴族制を取っている。大小の貴族が治める領地は小さな国と言える。上手く領地を治める者もいれば強欲により民を苦しめる者もいる。余りにも酷い場合は国から貴族の資格を剥奪される場合もある。
しかしこの世界、ありがちな異世界とは一線を画している所が１つある。
【決闘】制度である！
後に説明するが、国対抗バトル大会【剣魔大会】の為に強き者を育てるという観点から決闘が認められている。申込みをしてもう片方が受諾すれば成立する。いかなる理不尽でも決闘に勝てば許されるのだ。故に、全ての貴族は自らの力を高める為に日々、訓練に汗を出すのだ。
「赤ちゃんだった時の記憶を抹消したい………」
5歳になるまでに、すでに色々とやらかしていたシオンがいた。
シオンは地球の時の知識を使い、公爵家という最上級貴族の家に産まれ、3歳の頃からとんでも魔道具などを作成し、周囲を驚かせたが、その発明が領地を潤わせ発展させた。これにはシオンの知識をセレスが作り方を教えていたのが大きい。
アクエリアス公爵家には当主グラン・アクエリアスに、母親であるレイラ・アクエリアス夫人、一歳年上の兄レイン・アクエリアス、そしてシオン・アクエリアスという家族構成である。
「シオン、今日は教会で【判別の儀式】を行いにいくぞ」
【判別の儀式】とは5歳になった王国の子供が貴族、平民に関わらず必ず受ける事が義務ずけられている。自身のスキルを調べる儀式である。ちなみに、鑑定のスキル持ちはとてもレアで一部の王族や貴族が囲っており、待遇がかなり高い。相手の手の内がわかれば闘いを有利に出来るからだ。
「はいっ！わかりました！」
「シオン、私の可愛い娘よ。もし戦闘に役立つスキルが無くても悲観しないように。お前には類い稀なる知識という才能があるんだ。誰もお前を責めないからね？」
「お父様！例えスキルが無くとも鍛練を行えばきっと実を結びます！私はスキルが無くとも貴族として努力を怠りません！」
娘の強い意志に、目を開けて娘を見るグラン。
「………そうだな。シオンの言う通りだ。確かにスキルは戦いを有利にするが絶対じゃない。すまなかったシオン」
シオンの頭を撫でるグランは優しい顔で娘の成長を喜んだ。身体の成長だけではなく貴族としての矜持を兼ね備えてきたからだ。
「あらあら、シオンばかり構ってはレインが拗ねますよ？」
お母様がやって来た。
「シオン、判別の儀式の結果がどうあれ貴女が発明した魔道具や田畑の知識はとてつもない程の価値があります。どんな結果でも私達の大切な子供だという事を忘れないでね？」
判別の儀式で戦闘に役立つスキルを持たない子供を養子にだしたり、修道院に入れたりする貴族が多い。兄レインはかなりのレアスキルを幾つも持っていたため去年は将来有望と注目され、婚約者にどうか？と話が持ちきりである。
「はい！お母様、行ってきます！」
こうしてシオンは馬車に乗り込んだ。
ガタゴトと揺れる馬車で教会に向かう途中でグランは言った。
「しかしシオンの発明は凄いな。サスペンションと言ったか？馬車の振動が段違いに軽減されて今や、サスペンションのない馬車は乗れないと言う人々が多いよ」
「お父様、ありがとうございます。私は貴族だけではなく、平民でも全ての人々が豊かになれるような発明をしたいのです。乗り合い馬車などに公爵家から支援金を出して頂きありがとうございました」
貴族の馬車にはそれなりのお金を支払ってもらい、大勢の民が利用する大型の乗り合い馬車には公爵家からお金を出して乗り心地を良くしたのだ。
シオンの発明は田畑にもあり、四輪農法(ノーフォーク農法)により作物の収穫量が格段に増えた事だ。これにより過剰資金を投資して、アクエリアス領は王国随一の水源を持っていた事もあり、新たな事業を立ち上げワイン以外の酒【ラガービール】の製造を行った。
『豆知識』
【エール】と【ラガー】の違い。
上面発酵で造られるビールを「エール」、下面発酵で造られるビールを「ラガー」といいます。
下面発酵は低温で発酵が行われるため、雑菌が繁殖しにくいと言うメリットがあり、一定の品質を保ったビールを大量生産するのに向いているのです。
シオンは過剰資金で冷凍魔法の使える魔法使いを雇い、ラガービールの大量生産にこぎ着けた。
冷やして飲むラガービールは別の国にも輸出され大人気を呼び、アクエリアス領地はバブルに沸いたのでした。
さて、教会で私の能力をみた周囲の反応はどうなるかな？
愚者の声
「もう少し領地開墾の話を詳しく書きたかったかな？本編は成長してからなので駆け足でいきます」
捕捉事項
戦闘のスキルで【武技】という後天性の物は修行で覚えられます。先天性の『○○の加護』などは生まれ持ったもので、後から手に入りません。(まぁ、神様から直々に授かるのは例外で)
