メイド様B
部屋のベットで寛いでいるとノックの音がした。ようやく泉が来たのかと返事をすると、少し間を開けて扉が遠慮がちにゆっくりと開いた。そしてそこに居たのは泉でもメイド長安桜さんでもなく、メイド様Bの人だった。
メイド長様は安桜さんと聞いたが、他の二人の名前はまだ聞いていないので、とりあえず、さっき玄関で車の扉を開けた方がメイド様A、荷物をとりに向かった方をメイド様Bと僕は勝手に名付けていた。
その荷物の方に行ったメイド様B、さっき見た時は一瞬だったので3人共に同じ様な年代に見えた。でも今こうしてじっくり見ると、3人の中では比較的童顔で一番年下に見える。下手をすると僕や泉と同じ年?
メイド様B、髪は栗毛のショートだが前髪は長め、常にうつむき加減の為に今は全然目が見えていない。
顔や表情はよくわからない……小柄な体型の為かやはりメイド長様と比べるとロングスカートのクラシックなメイド服姿は、やや着せられている感が否めない。
そしてそのメイド様Bは扉の外から蚊の鳴く様な声で僕に言った。
「……し、しん……様……お食事……の支度が…………」
「……あ、うん、ありがとう」
「……」
先ほどのメイド長、安桜さんとは全く違う対応のメイド様B、ずっと下を向き僕の顔を見もしない……って言うか何か怖がっている様な気が……
僕はベットから立ち上がり扉の方に向かうと、メイド様Bは僕から逃げる様にエレベーターへ移動する。しかし僕を案内しなければいけないらしくエレベーターに乗り込むと扉を開いたまま待機していた。
僕は後を追い慌ててエレベーターに乗り込むと、メイド様Bは操作盤の前で縮こまりながら扉を閉め2階のボタンを押す。
ゆっくりと動きだすエレベーター、狭い密閉空間。いくら最近女子と一緒にいる事に慣れたとはいえ、狭い密室で二人きりはやはり緊張する。
「あ、えっと……」
静まりかえっているのが嫌で、僕は何か話そうとメイド様Bに声をかけた。
「!! ひいいいいいいいい」
「えええええええええ!」
一言声をかけただけで彼女は妙な奇声を上げ操作盤の前でしゃがみ混む、そして僕を見上げながら言った。
「な、な、ななな、なんでしょうか!」
「え……いや……えっと……なんでも……」
メイド様Bは泣いていた。 怯えた表情……ようやく見れた顔は泣き顔だった。
泣き顔だったが、でもその顔は、顔立ちは凄く綺麗で僕はは思わずメイド様Bに見とれてしまう。
暫し時間が止まる。涙目で僕を見つめるメイド様B、その綺麗な顔立ちに見とれてしまう僕……でも、ど、どうしよう……。
何を話せば良いのかこの状況をどう打開すれば良いのか……そう考えていたが、どうにも思い付かない。黙ったまま見つめ合う僕とメイド様B、
いよいよ困ったその時エレベーターが2階に到着し扉が開く。ほんの数秒の事が何十分にも思えた。すると泣いていたメイド様Bは我に返りスッと立ち上がるとそそくさとエレベーターを降りる。
「し、失礼……しました……こちらです」
部屋に来た時の様な落ち着きを取り戻したメイド様B、でもやはり声は小さくうつむきながら僕の数歩前をゆっくりと歩き出す。
僕はそれ以上何も聞けずに黙ってメイド様Bの後を追った。
案内された場所は屋敷の2階ある少し広めのダイニング、メイド様Bは僕を椅子に座らせると慌てる様にそそくさと部屋を後にした。
暫くそのまま座って待っていると、泉が一人で部屋に入って来た。
「お兄様お待たせいたしました」
泉は高級レストランで食事でもするかの様な高そうなストライプのワンピース姿に着替えていた。
「? お兄様どうしました?」
僕がボーッと泉に見とれていたのを不審に思ったのか、可愛く首を傾げながら僕にそう訪ねる。
「あ、ううん、ちゃんとした格好しないとまずいのかなって」
外は雪どころかさっきから吹雪になっていたが、それを感じさせないくらい家の中は暖かい、なので僕はチノパンにTシャツとかなりラフな格好でここに来てしまった。
「うふふふ、別にパーティーとかじゃ無いんですから大丈夫ですよ」
「あ、うん……」
その泉の姿を見ると、家でいつも綺麗な格好をしていたなって事に気が付かされるのと同時に、家では綺麗でもラフな格好をしてリラックスしてたが、今は緊張しているのかなって思った。
昔からそうなのか、それともここはもう泉の家じゃ無いという意思表示なのか、そして……もしそうだとしたら、それは凄く嬉しいなって思えた。
泉が席に着くと夕食が始まる。さっきそそくさと部屋を後にしたメイド様Bが料理を持って再び部屋に入ってくる。持ってきた料理は北海道らしくウニの乗った茶碗蒸し。洋風な部屋に少し合わないが今日はどうやら和食らしい。
ちなみにテーブルは6人掛けで今は僕と泉の二人きりだ。最初この部屋に入る前、食事と言われて想像したのは、アニメや漫画で出てくる様なとんでもなく長いテーブルでお誕生日席にお婆さんが座って遠くから話かけられるなんて事を考えていた。
「……えっと……そういえばお婆さんは?」
食事が運ばれ始めているのに一向に現れないお婆さん、目の前の料理を食べようとした時、ふと主が居ないのに先に食べても良いのかと思い泉にそう聞いた。
「申し訳ありませんお兄様、お婆様は……やはり本日は体調がすぐれないとの事で、お部屋でお食事されるそうです」
「……そ、そうなんだ」
そう聞いて僕はがっかりというよりは、ホッとしていた。相変わらずのコミ障……というよりか、やはりあのお婆さんは怖いという印象が強いので、こう思うのも仕方ないよね……。
「──お兄様、お部屋は如何でしたか?」
「あ、うん、凄く広くて綺麗だったよ」
「そうですかそれは良かったです」
ニッコリと笑う泉、二人きりの食事、ああ、なんか家に居るような気分になってくる。
「えっと、広すぎて少し寂しいよね~~」
リラックスしたのかいつもの調子で何も考えずにそう言うと、泉は少し考えてから笑顔で僕に言った。
「そうですか……では今日はお兄様のお部屋で一緒に寝ましょう」
「へ?」
「私も一人で寂しいですし、お兄様の客間はベットも二つありますし」
「え、ええええええええええええ!」
「後程伺いますねお兄様」
「あ、ああ、うん……」
つい駄目と言えなくそのまま泉の提案を承諾してしまった。
食事を終えて部屋に戻った時、その後に運ばれて来た料理も泉と話した内容も僕は全く覚えていなかった。
現在新作を書き始めています。
出来れば6月迄に書き終えたいので、暫く更新頻度が低くなります。
宜しくお願い致します。m(_ _)m




