清楚で従順で潔癖で……
ファミレスから歩くこと15分、小綺麗なマンションにある凛ちゃんの部屋にやって来た。
「どうぞ~~」
玄関でスリッパを揃えて出してくれる……今から凛ちゃんの部屋に入ると思うと少しドキドキする。
そう言えば、愛真の部屋以外で女子の部屋に入るのは初めてだ。
母さんの部屋が泉の部屋として完全使われる様になった後、泉の部屋に入った事は無い……
「つ、つまりこれは! 人生2度目の女子の部屋!!」
「真君マジでキモーーーーい」
「あうううう、つい嬉しさで心の声があああ」
「ほら入って」
「あ、はい」
そう言われ凛ちゃんの部屋に入る。これはワンルームマンション? いや、1DKいや、一応二部屋あるから1LDKって言うのかな? 小さめのキッチンにダイニング、小さな部屋とその奥に少し大きめの部屋、ダイニングには食卓、部屋にはベットと机、小さな部屋にはテレビ、本棚が所狭しと置かれている。
ぬいぐるみなんかもあって僕の部屋とは違うんだけど、愛真の部屋みたいに可愛いらしい部屋って感じではない……他に入った事が無いのでなんとも言えないけど、女の子の女子高生の部屋っていう感じはあまりしない……
「どう? 生活感溢れてるでしょ? これが人間の部屋だよ」
「人間の部屋?」
「そうだよ、実家に居る時は可愛い部屋にしようって思って、色々やってたけど、一人暮らしになるとそんな事やれないんだよね~~」
「そうなの?」
「うん、生活するので精一杯、女の子は家族と暮らしている間だけ、可愛い部屋にいられる気がする……まあ頑張ってやっている人もいるけどね~~私も一人暮らしを始めた直後は色々イメージしてたけど、学校に仕事に忙しくて……どう? イメージと違ったでしょ?」
「え! あ、うん……」
どうって言われると……僕は女の子の部屋って愛真しか知らないし、愛真の部屋ってピンクに溢れてて、だから皆そうだって思ってて……
「ふふふふふ、まあ座ってコーヒーでいい?」
「あ、うん……ありがとう」
ダイニングにある食卓の席に着く、正面には凛ちゃんがキッチンに立ちコーヒーを入れる準備をしている。
僕は母さんの後ろ姿、料理や家事をやっている姿を知らない……だから女の子が料理や家事をしている姿を見るのはとても新鮮だった。
そして凛ちゃんの姿を見てふと思った。そう言えば、泉がご飯を作っている姿って殆ど見た事ない……それ所か一緒に生活しているのに、泉の生活が見えて来ない……家事は万能、今や料理洗濯は全てこなしている……でもそういう姿を見た事がない……
「はーーいどうぞ」
凛ちゃんがコーヒーとクッキーを僕の前に置き自分のコーヒーを持って反対側に腰掛ける。
「あ、ありがとう、これって」
少しいびつなクッキー、ひょっとして……
「昨日焼いたの~~美味しいよ~~」
「そうなの? 凄い」
「クッキーって簡単なんだよ? 生地をこねて型を取って焼くだけ、クリスマスプレゼントをくれたお客様にお返しで作った残り~~、これで次のイベントにも来てくれるし、来年のクリスマスプレゼントも貰えるし、安い物だよ、ふふふふふ……」
凛ちゃんが不敵な笑みを浮かべる……
「…………へーーー」
「あははははは、これでもお店のナンバーワン人気メイドですからね、色々頑張っているわけだよ、あ、大丈夫、真君からクリスマスプレゼント貰おうなんて思ってないから気にしないで食べて~~」
「あ、はい……」
「あはははははは、微妙な顔してる~~うける」
「もう~~、でも……凛ちゃんて……なんでも言ってくれて、だから僕もなんでもつい話しちゃう……なんかいいね、なんでも話せる友達って」
「あははははは、なんか言い方がキモーーい」
「ああああ、またあ、キモいって言われる意外に傷つくんだよ!」
「ごめん、ごめん、つい言っちゃうんだよねえ」
「もーーーー」
「それで、どう? 少しは考え変わった?」
「考えって?」
「泉さんに対してだけじゃなく、愛真さんにも、私にもだよ。真君は真面目過ぎるんだよね、潔癖過ぎる。自分が好きな人は自分だけ見て欲しい、他の人の事を考えるのも駄目って考えでしょ?」
「そ、そこまでは……」
僕がそう言うと凛んちゃんの顔が変わった……真剣な、神妙な覚悟を決めた様な顔に変わった。
「…………愛真さんが外国に行った時、自分の事より引っ越しを、海外に行くことを優先したのが嫌。泉さんが死んだお兄さんの事を考えているのを知った時、自分を見ている視線が自分を通過してお兄さんを見ているって事が嫌。最近お店に来てくれないのも、今日も外で待ち伏せしていたのも、私が真君以外の誰かと笑顔で会話をしている姿が嫌なのかなぁって」
「そ、そんな事!」
「そんな事? 無い? 言い切れる?」
「…………」
「ごめんね……でもね、真君、貴方が友達を作れない一番の原因は、貴方が潔癖過ぎるんだよ、そしてそれを人に求め過ぎるんだよ……貴方はメイドにしか心を開いていない、清楚で従順でなんでも言うことを聞いてくれる潔癖なメイドにしかね……違う?」
「…………」
「だから私に……生まれて初めて自分から言ったんでしょ友達になってくれって言ったんだよね? それって私がメイドだから?……でも……ごめんね……私はメイドじゃないの……私はただのメイド喫茶の店員なの……」
凛ちゃんはそう言うと目の前のコーヒーを一口飲み、そして姿勢を正して真っ正面から僕を見つめる。なにかを期待して、自分の意見の反論を期待して……
でも僕は……何も言い返せなかった……だって……だって全部…………図星だったから……




