メリークリスマス
今日はクリスマスイブ……クリスマスは僕にとってイベントと言うよりは、そろそろ年末、1年を振り返る日という位置付けだった。
と言うわけで振り返ると、今年はとんでもない1年になった。恐らく僕の人生で1番凄い1年だった。
まず最大の出来事は、あの憧れの天使、薬師丸 泉が僕の義妹になった事だ。
入学試験の日に出会い、ろくに話も出来なかった、とてつもなく遠い存在の泉とまさかの兄妹に……
さらに大ファンのメイドアイドルみかんちゃんが実はクラスメートの凛ちゃんだった事は泉に次いで驚異の出来事だ。しかもまさか友達になれるなんて
最後に愛真が帰って来てくれた事も凄い出来事だった。もう一生会えないと思っていただけに凄く嬉しい出来事だ。
僕は今年二人の友人と一人の家族が出来た。しかもタイプは違えど三人共に可愛くて美人だ。
僕には勿体ない位の友人と義妹、この三人と今年関われた事は僕の人生にとって最も劇的に変化した事だった。
僕は今こんなにも幸せなのに、今までと比べたらとんでもなく幸せなのに、これ以上の幸せを求めてしまった。
『クリスマスに誰かと過ごしたい』
そんな分不相応な事を考えてしまった。
いや、今までだって父さんと過ごした事もあるし、愛真の家に招かれた事もある。ずっと一人だったって意味ではない。
でも今年は……この中の誰かと一緒にクリスマスを祝うんだろうって……そう思っていた、また勝手に思い込んでいた。
結局、僕は部屋で一人某掲示板にて書き込みをして、一人クリスマス廃止運動を行っていた。
「もうそろそろ泉が帰ってくる頃かなぁ?」
パソコンに向かい真剣書き込みをしながら、頭の片隅ではそんな事を考えていた。
そうなんだ、そうは言っても朝までずっと一人じゃないってのが僕の唯一の救いだ。
いや、……僕はまだひょっとしたらって思っている。
そう、泉だ、泉が何かサプライズ的に僕とクリスマスを過ごしてくれるんじゃないか? と言う淡い期待を抱いている。
『クリスマスとかマジでケーキ屋の陰謀、そもそもなんでイブに祝ってるの?』
等々夢中で某掲示板に書き込んでいると、スマホにメールが、僕にメールを送る人なんて限られている。慌てて確認すると泉からメールが……
『お兄様、少し帰りが遅くなり、お友達の家に泊まるかもしれません、お食事は冷蔵庫に入れて置きましたので食べてください、お兄様の好きな物をお作りしておきました、時間が経つと味が落ちるのでなるべく早く食べてくださいね』
「え、ええええええええええええ」
ほ、本当に? 帰りが遅く……いや、泊まりって……イブに泊まり……そんな……まさか……
ひょっとしたら友達って……嘘では……そ、そんな……
泉にひょっとして彼氏が、僕は一瞬そんな考えが浮かんだがそれを打ち消した。それは無い、仮にそう言う人が出来たなら僕に報告するはず、それだけは信じられる。それだけは兄として、僕の後ろにいるだろう僕を通して見ているはずの亡くなった泉の本当の兄として……
しかし、ショックだったのは間違い無い……やはり僕は一人なんだ……って思わされた。
「そんな……そんなあああああ」
最後の望みも消えた。泉と二人きりのクリスマス……でも、でもこれで良かったのかも知れない……だって泉は……僕を見ていないんだから……
「――うん……そうだね……クリスマスイブに泉と二人きりって、ちょっとハードル高すぎだよね……」
僕はパソコンの電源をオフにして席を立つ。夕飯を食べないと……せっかく泉が用意してくれたんだから。
冷えきった家の階段、12月24日クリスマスイブ、家に一人……僕は冷たい階段を一歩づつ慎重に降りていく、だいぶ良くなった膝も下りではまだ若干の痛みが走る。
1階に降りると僕はそのままキッチンに向かった……そう言えば僕の好きな物ってなんだろう? 早く食べないと味が落ちる?
泉のメールに疑問を持ちつつそれが一体なんなのか? 考えながらキッチンの扉を開けた。
「「メリークリスマス! ご主人様!」」
開けた途端にキッチンの電気が点灯し、僕の目の前にメイド姿の美少女が三人…………え?
「真ちゃん! メリークリスマス、クリスマスパーティーと真ちゃんの快気祝いだよ~~~」
「お兄様……騙してごめんなさい、お二人がどうしてもと言うから……」
「あははははははは、何その顔、キモ~~~い」
「え? ええええええええええ!」
「あはははははははは、二人にうちのお店のから借りてきたメイド服貸したの、佐々井君の大好物でしょ~~~♪」
「お、お兄様……どうですか? 似合います?」
「凄いねこれ、なんか本物って感じで、どう? 真ちゃん似合う?」
3人がみかんちゃんのお店のメイド服を着て僕の前に立っている。前に泉が着てくれたなんちゃってメイド服ではない本物のメイド服……僕の好物って……これ?
「――うん……似合う……に……ははっ、あははは、あははははははは」
僕が笑うと三人は同時に微笑んだ……クリスマスイブに三人……さっきまで一人寂しく過ごすと思っていたクリスマスイブ……に……
「はははは、はは、は…………ふ、ふええええええええええええええええん」
僕は笑いながら泣いていた、泣いてしまった。 やはり僕は一人なんだって思ってたから、今後もずっと一人って思ってしまったから、だから嬉しいのと同時にホッとしてしまった。
「お、お兄様?」
「真ちゃん!」
「あーーーあ、また泣いちゃった……」
「だっでええ、皆……酷いよおおおお、でも、でも、嬉しい、凄く……う、嬉しいよおおおおおおおおお」
僕は三人に構わず泣き続けた。だって、だって、また三人と一緒に居られるから、あの楽しかった遊園地の時の三人、僕の大切な大事な三人……またこの三人で一緒に遊べるなんて、しかもクリスマスイブに、しかもメイド服で、僕は唐突に来たプレゼントに、サンタクロースからの贈り物に涙が止まらなかった。
僕への贈り物、メイド姿の三人の天使達は、そんな僕を慈しむ様にじっと見つめてくれた。
僕が泣き止むまで暫く何も言わずに見つめてくれた。




