吐き気を催す程に……。
薄暗い部屋にバスタオル一枚で立つ凛ちゃん。
凛ちゃんは、恥ずかしいのか、赤い顔でうつ向いている。
僕はどうしたら良いのだろうか? 凛ちゃんの前で何も出来ずに呆然としていると、凛ちゃんは徐に顔を上げた。
「……これが……私……よ」
凛ちゃんは思い詰めた様な表情で真っ直ぐに僕を見ると、そう言って胸元の結び目を緩め、バスタオルを足元に落とした。
「ひ!」
僕はその瞬間奇声を上げ凛ちゃんから目を背けようとした……でも、僕は目を背けられなかった。
そこには、僕の前には裸の凛ちゃん……ではなかった……。
そこには、純白の下着を身に付けた凛ちゃんが真っ直ぐに僕を見つめて立っていた……でも……僕はその姿に、その凛ちゃんの姿に息を飲んだ。
「……そ……それって……」
「……そう……私の身体に、価値は無いって言ったのはこれの事よ……」
中学の時、凛ちゃんは悪いグループに入っていた。虐めから逃れる為に。
そしてそこで、そのグループで凛ちゃんは最後には身体を売る事を強要された。 でも凛ちゃんは自分にそんな価値は無いって……それを拒否した。
その理由は、胸の所に火傷の跡があるって……火傷の跡とケガの跡があるって言っていた。
そしてその跡は、虐待でつけられたって。
正直僕はそんなの気にならない、って思っていた。
でも……その傷はその跡は……吐き気を催す程に……とてつもない程に……酷かった。
「……ふぅっ、う、うえ、うえええ……」
「……ふふふ、でしょ? 気持ち悪いよね……こんな……こんなの」
「う、ち、ちが、ふ、うえ……うえええっ……」
「……良いのよ……わかるから……酷いでしょ? 醜いでしょ? 最悪だよね……もうこんなの……女の子じゃ……」
そう言うと凛ちゃんはその場にしゃがみこんでしまう。
「うえ……ち、違う! そ、そうじゃない!」
えづいてしまう……止めようとしても……。
でも……だ、駄目だこのままじゃ凛ちゃんを傷付けてしまう……僕は最後の力を振り絞り、吐き気をこらえた。
「良いの……いいの……」
そう言って涙を流し塞ぎ混む凛ちゃんに僕は駆け寄りそして、強く抱き締めた。
「……ち、違う……凛ちゃんの身体を気持ち悪いなんて一つも思ってない! 違うんだ……そんな、そんな事をする人間がいる事に……そんな親がいる事に……そんな事を平気でする奴に……僕は……気持ちが悪いって……そう思ったんだ」
そう……吐き気がする……こんな事を、子供に、子供だった凛ちゃんに……こんな事をする人間がいるなんて、こんな事をする親がいるなんて……怒りを通り越して、僕はそんな人間に、そんな奴に吐き気を催した。
「……う……うそ……嘘よ……」
「う、嘘じゃ……う、うそ……う、ふう、うえ、うえええええええん、うええええええええええええええええええええええええん」
「し、真くん?」
「うええええ、い、ふぐ、うえ、い、痛かったよね……辛かった、よね……ふ、ふぐうえええええええええええええええん」
そして今度はどうしようもなく涙が止まらなくなった。その時の凛ちゃんの事を考えたら……そして今でもそのトラウマを背負ってるって考えたら……深く深く刻まれているこの傷の事を考えたら……僕は……悲しくて悔しくて……涙が、感情が抑えられなくなっていた。
「な、泣かないでよ……そんな為に見せたんじゃないんだから!」
「うえええええええええええええええん」
「泣かないでってば、泣かない、泣か…………ふ、ふう、ふ、ふえええええええええええええええええええええん」
「うえええええええええええええええん凛ちゃんんんん」
「ふえええええええええええええええん真くんんんんん」
「「びええええええええええええええええん」」
僕達はそのまま抱き合いながら、部屋の真ん中で座りながら、抱き合いながらずっと泣いていた、子供の様にただひたすらずっと、ずっと泣いていた……。
ずっとずっと……凛ちゃんと……ただひたすら一緒に泣き続けていた。




