臆病者だけど
「ストーカー君、こんな所で待ち伏せ?」
僕は凛ちゃんのお店には入らずに、店の裏口で凛ちゃん出てくるのを待っていた。
凛ちゃんは笑いもせず、怒りもせず……その目は、表情はまるで興味の無い物を見ているかの様だった。
「ごめん……」
逃げたくなるのをこらえ、僕はなんとかそう、言葉を発する。
「……で?」
「……あ、あの……ちょっと話したいんだ」
「いいわよ……うちに来る?」
断られるのを覚悟で僕はそう言ったが、凛ちゃんはあっさりと了承し、さらには家にまで誘ってくれる。
「……ううん、今日はその辺りのお店で」
この状況、この状態、この関係で、凛ちゃんの家に二人っきりになるのはさすがに駄目だと判断する。そもそも僕の心が耐えられない。
「……そう、じゃあ、お腹空いたからファミレスでいい?」
「あ、うん……ごめん」
泉と愛真は今、家に居る。僕は二人に内緒で家を出た。
凛ちゃんと話したくて……。また怒られるのを覚悟でスマホの電源をそっとオフにした。
◈◈◈
「それで?」
席に着くと凛ちゃんはメニューも見ずに、ドリアとドリンクバーを頼む。僕はドリンクバーのみ。
荷物があるのでバラバラにドリンクを入れに行き、席に着くと、凛ちゃんは急かす様にそう言った。
そんな凛ちゃんの態度に僕は泣きたくなったが、そもそも悪いのは僕なのだからと、涙をこらえ凛ちゃんを見つめる。
「この間は……ごめん、ごめんなさい」
僕はそう言って凛ちゃんに謝る。
「何が? 貴方は私に何か悪い事をしたの?」
相変わらず凛ちゃんの態度は冷たい……そしてその言葉は吹雪の様に冷たい、まるで雪女の様に僕を殺しに来る。
「…………」
なんとか反論を、凛ちゃんに返そうと思ったが、言葉が出なかった。
「…………」
「…………」
「お、お待たせしました」
沈黙する二人……そしてその間に凛ちゃんが頼んだドリアが到着する。
凛ちゃんは黙ったままドリアを黙々と食べ始める。
熱いものが苦手なのか? ゆっくりと食べ進んでいく。
その様子を見て、僕は思った。熱いものが苦手なのに……ドリアを頼む理由……つまりはこの間に考えろ? と言う事かと。
この人は何でも見透かす……この人と一緒に居ると自分がいかに駄目かがわかる。
考えろ、考えろ……僕はどうしたいんだ? 凛ちゃんと、どうなりたいんだ? なぜ凛ちゃんは、僕と凛ちゃんはこうなったんだ?
食べ終わったら帰ってしまう。そうしたら、もう僕とは……。
嫌だ……僕は……凛ちゃんが……。
「えっと……好きです……好きだから……凛ちゃんの事が……」
「……はい?」
「……僕は……僕は……凛ちゃんが……好きなんです! だから、だから……仲直りしたい……」
「……はあ……」
凛ちゃんは食べる手を止め、僕の顔を見るなりため息をついた。
「ぼ、僕は」
「ハイハイ、わかったわかった」
凛ちゃんは持っていたスプーンを僕に向けて振りながら呆れ顔でそう言う。
「凛ちゃん、が! じゃなくて、も! でしょ?」
「いや、えっと……」
「はあ……何でこんなのに美女が3人もねえ」
「いや、自分で美女って……」
「なんか言った?」
呆れ顔から一転、眉間にシワを寄せ牙を剥く。
「い、いえ……何も……」
「まあいいわ、それで、愛真さんと、泉さんはどうするのか決めたの?」
「えっと……うん……愛真にはちゃんと言うよ……好きだけど……今は付き合えないって」
「ふーーん、今は……ねえ……」
「泉にも言う……いや、言ってはいるんだ、兄妹になんてなりたくないって……」
「それで?」
「聞いてもらえなかった、そもそも本当に兄妹だし……」
なんか色々あったけど、最終的にキスで誤魔化された様な……僕も襲う寸前だったし……。
「ハア……次々と、それで最後は私? へーー随分とチャラくなったわねえ」
「いや! あ……まあ、そういう……意味になっちゃうよね……」
「人生初のモテ期に戸惑っちゃうよねえ」
少しバカにするかの様にケラケラと笑いだす凛ちゃん、まあそうだよね……笑っちゃうよね……。
「モテ期……」
「まあ、前にも言ったけど、私は貴方とは付き合えない、ううん誰とも……ね」
「それって……どういう」
「…………知りたい?」
「え? う、うん」
「知ったら後悔するわよ?」
「後悔……」
「貴方なら必ず後悔する……貴方の今の気持ちは必ず揺らぐ……私はそれがわかってたから言わなかった……それがわかってるから……でも今ならいい機会かなって……それで、どうする?」
ニコニコしながらそう言うが、凛ちゃんの目は笑っていなかった。
以前に少しだけ聞いた凛ちゃんの過去……凛ちゃんの傷……。
「……知りたい……凛ちゃんの事は何でも」
好きだから……知りたい……例えどんな事でも……。
「そ……じゃあ行きましょう」
凛ちゃんはそう言って最後の一口を平らげると席を立った。
「ど、どこへ?」
「……私の家よ」




