僕の嘘、愛真の嘘
深夜寝ている時に僕の部屋の扉をそっと開ける音がした。
来るのはわかっていた……いつもそうだったから……。
「愛真……」
「……うん」
僕は扉の方を見ずに天井を見上げながら愛真の名前を呼ぶ。
愛真は驚きもせずに返事をした。
愛真は男勝りで、繊細の欠片も無い様な性格……の様に見えるけど……実は全く逆……まあ、いつも考えすぎて逆に考えて無い様な対応をしてしまうけど。
「……やっぱり……来たか……」
僕はそう言ってゆっくりと起き上がると愛真を見た。
「うん……」
部屋入口に昔と違う可愛いらしいパジャマ姿の愛真が物言いたげに佇んでいる。
「言いたい事はわかってるよ……」
「そか……」
「……嘘はダメだよね……」
「……うん」
僕は昔嘘ばかりついていた。いや、それは今でもかも知れない。
一度愛真に思いっきり怒られた。愛真と知り合って直ぐの事だ。
僕は常に嘘をついていた、人にではなく……自分に……。
寂しくなんか無い、友達なんていらない、愛真と遊ばなくてもいい、愛真のお母さんにも興味無い、僕は一人が好き……大丈夫……等々……全部……嘘……自分を自分の気持ちを偽っていただけ。
それは、その癖は今でも抜けていない……もう性みたいな物……。
でも愛真は、愛真には全部お見通しだった。
だから怒られた、泣きながら怒られた。
『私の前では……せめて私の前では嘘はつかないで! そのままの真ちゃんで、素の真ちゃんで居て!』
初めてだった……僕の嘘を見抜いた人は……。
父さんにも見抜かれた事は無かったのに。
そう……僕の特技は透明人間になる事じゃない……自分を偽る事……それが僕の本当の特技。
自分に嘘をつければ、何でも出来る。寂しくないと嘘をつけば寂しくなんかなくなる。
自分に嘘をつく事こそ、が僕の本当の特技……僕はそうやってずっと一人で自分を騙して生きてきた。
愛真は、僕の嘘を初めて見抜いた人……まあ、最近凛ちゃんにも見抜かれたみたいだけど……。
あの時愛真は泣きながら僕に言った。せめて自分の前では嘘をつかないでと……。
だから僕は愛真にだけは、言いたい事を言える様になった。
信頼できる友達、憎まれ口をたたきあえる親友になれた。
それは今でも続いている。だから愛真は来るってわかっていた。
さっき僕はまた……愛真の前で嘘をついたから。
「真ちゃん……本当は……嫌なんでしょ? 泉さんと兄妹でいるのは」
「……………………うん」
愛真は僕に近寄りベットの脇に背中を向けて座った。
僕はベットから降りて愛真の横に同じ様に座る。
小学生の頃、深夜に時々こうやって話をした。
たわいも無い話から、将来の夢まで、夜通し話をしていた。
「嘘はね、結局嘘でしか無い……嘘は真実にはならない」
「……うん」
「嘘を付くとね、嘘を嘘で塗り続けないといけなくなる……結局最後は破綻するの」
「…………うん」
「わかってるじゃん」
「うん……」
「でもねえ……泉さんがあれじゃねえ」
「……ははは」
僕は力なく笑った。
「好きなんだね……泉さんの事が」
「………………うん」
「そか……」
愛真は僕の手の甲にそっと自分の手を重ねた。
「じゃあ……嘘はダメだよね、好きな人に嘘をついちゃ……駄目だよね?」
愛真はそう言って僕の手を握る……。
「……うん」
「そか……」
そう言うと愛真は僕の頬に……唇を付けた。
「……ええええ!」
「おまじないだよ」
はにかみながらそう言うと、愛真は立ち上がる。
「頑張れ……真ちゃん」
愛真は笑ってそう言った。
でも……その愛真の顔は、その笑顔は……嘘だって……僕は直ぐに思った。
「じゃ、じゃあお休み」
愛真はそう言って慌てる様に部屋から出ていく。僕に顔を見られない様に、涙を隠す様に……。
愛真が出ていって直ぐに僕は呟く。
「嘘つき……」
そう言った瞬間気が付いた……そう……僕と愛真はもう昔通りの関係ではなくなった事に。
もう親友同士ではなくなったという事に……僕は気がついてしまった。




