最近某眼鏡キャラも覗かなくなったのに……。
僕は階段を掛け上がり父さんの書斎に向かう、父さんの書斎は2階の端にある。
書斎と言っても忙しくて殆ど使っていなく、今は押し入れとして荷物が乱雑に置いてあるだけ。
僕は電気を付けずにそっと窓を開けた。
そう……お風呂の窓を開けるといつも見えていた窓は、この部屋の窓だった。
お風呂場の窓との距離も近く窓を開けると相変わらず愛真のキンキンとした声が良く聞こえる。
ちなみにお風呂の窓は開いていなかった。
そもそも見るつもりなんて無いよ、ただ聞くだけ、愛真が僕の黒歴史を言うのかを聞くだけだから……。
僕は自身にそう言い聞かせ、ゆっくりと小さく息をし、耳を澄まして二人の話を聞いた……。
「それで……泉さんは、真ちゃんの事どう思っているの」
「お兄様の事は敬愛し、お慕いしてますが?」
「うーーーーん、そう言うんじゃなくてさあ……」
今一話が噛み合っていない様な様子……そもそも愛真と泉って、住む世界が違うイメージ……同じ学校の同じクラスなら全く違うグループにいる様な……クラスカーストでも別の山にいる様な……そんなイメージだった。
愛真は僕とは違いコミュニケーション能力が劣る事はない。でも小学生の時はそれほど多くの友達はいなかった。今思えば……僕と一緒にいたからかも知れない。いや……僕に付きまとっていたからそんな時間は無かった、他の人と遊ぶ時間が無かったから……だと。
「愛真さんはお兄様の事……好きなんですね?」
「……うん……真ちゃんの事大好き」
「そうですか……愛真さんは、お兄様のどこが好きなんですか?」
「……真ちゃんはね……スッゴク寂しがり屋なの……でもいつも強がり言って、一人が良いって……だけど私が帰る時だけ素直になって……帰っちゃうの? って……可愛かったなあ……」
「……そうですか、お兄様は寂しがり屋ですか……」
「うん……スッゴク、だから普段は色々言うけど、でも友達として、唯一の友達として、私の事を大切に思ってくれていた……だから内面はスッゴク優しくて……」
「そうですね……お兄様はとても……優しい」
「うん……小学生の時お母さんがお父さんを会社まで迎えに行かなきゃならなくて、夜に二人で家にいたの……そしたら急に天気が悪くなって……凄い雷で……私……雷苦手で……お母さんも心配で、泣いちゃったの……そしたら普段はオドオドしている真ちゃんが、大丈夫だって、僕がいるから大丈夫だって……ああ真ちゃんも男の子なんだなあって……私、その時そう思ったんだ」
「そんな事が……」
「うん……他にも一杯一杯知ってる……真ちゃんの良い所……」
「……はい」
泉がそう返事をすると、暫く愛真が喋らなくなった。
そろそろお風呂から出たのか? そう思い出した頃、突然愛真が大きな声で泉に聞いた。
「泉さん! 真ちゃんの事どう思ってるの? 付き合っているの?」
「ちょ、ちょっと愛真さん!」
バシャバシャと水の音が聞こえてくる。見えないので状況がわからない、僕は窓から身を乗りだし曇りガラスの中向こう側の二人の様子を伺う……。
「私は真ちゃんが好き……泉さんよりも好き!」
「……わ、私もお兄様が好きです!」
「でもお兄様って呼んでるって事は兄妹としてって意味でしょ!」
「愛真さんも姉って言ってました」
「でも私は本当の兄妹じゃないし、そういう関係の夫婦だっているし」
「それは私も」
「じゃあ……もし、もし真ちゃんから……求められたらどうする? 兄妹なのに身体を求められたら?」
「ちょ、愛真さん! どこを触って」
「真ちゃんからこうやってこられたら?」
「あ、愛……わ、私は……お兄様が求めてくるなら……全てを捧げます……」
「それって兄妹としておかしいんじゃない? そうなったら兄妹じゃ無くなるでしょ?」
「いえ、私とお兄様は永遠に兄妹です!」
泉がそう言うと愛真の声の大きさがトーンダウンする……そしてやや迫力があり愛真らしくない真剣な声に変わった。
「……ふーーん……じゃあさ……泉さん……将来…………真ちゃんの子供産める?」
「え?」
「真ちゃんと兄妹のまま子供産めるの? 真ちゃんの子供産めるの?」
「それは……」
「結婚しないで子供産んで……勿論結婚してないなら、法律的には真ちゃんの子供って事には……多分出来ないよね……そしてその子供にパパとママは夫婦じゃなくて兄妹なのって言えるの? その子供は皆に、学校の友達とかにうちのパパとママは夫婦じゃなくて兄妹なんだって言わせるの?」
「……別に……悪い事じゃないって……今時私生児だって珍しくは……」
「その子供を……真ちゃんみたいに……孤立させたいの?」
「孤立……」
「真ちゃんだって好きで孤立したわけじゃない……お母さんが居なくて……お父さんが忙しくて、そんな家庭環境で……そんな家庭をそんな子供を真ちゃんと作るつもり?」
「それは!」
「そんなの許さない……お父さんもお母さんも居るのに普通の家庭に出来ないなんて……私の好きな人の将来をそんな事にするなんて、そんなの許さない……貴女の、泉さんのエゴに真ちゃんを巻き込まないで!」
愛真は泣いている様な声で泉にそう言った……泉のエゴ……僕と兄妹で居続けるってのは泉のエゴだと……僕はその言葉が、その愛真の言葉の意味が、愛真の思いが突き刺さる。自分の胸に深く突き刺さっていた。




