聞き耳
二人の事が気になって仕方ない……。
二人はお風呂に向かい、僕は一人リビングに残されボーーっとテレビを見ていた。
見ていたと言っても、後から何の番組かを聞かれても多分答えられないだろう……今、僕は廊下から微かに聞こえ漏れてくるお風呂場からの声に全勢力を傾け聞き耳をたてていた。
「きゃああ……いず…………きれい……」
リビングまで聞こえてくる愛真の明るく大きな声、泉の声は全く聞こえて来ない……僕は頭の中で今のシチュエーションを妄想する。
『泉さんのおっぱい綺麗~~』
『愛真さんに言われても……嫌味にしか聞こえない……』
『えーー私のは大きいだけだよおお』
『何を食べたらそんなに……』
『食べ物というよりも、子供の頃から真ちゃんに見つめられたからかなあ?』
『な!』
『真ちゃんて結構エッチなんだよねえ、ムッツリって言うのかなあ?』
『……そうですね……あんなハレンチな本とか持ってたし……』
『えーーーー? どんなどんな?』
『……い……言えません!』
『あーーでもなんかわかる……真ちゃん、子供の頃にテレビでメイドさんとか出ると目を輝かせて見てたからねえ』
『……お兄様……そんな頃から……』
「なんて事を話してるかも……愛真の奴……後で愛真の子供の頃の話をバラす……」
リビングでは殆ど二人の会話は聞こえて来ない……あくまでも想像の会話。
僕はいてもたってもいられず、ソファーから立ち上がり廊下にそっと出た。
そう……別に聞くつもりは無い……僕はトイレに行くだけ……。
誰も見ていないのに、いつも学校でしている様な何気ないアピール……僕はちょっとトイレに行くだけ……教室内の和気あいあいとした雰囲気に耐えられなくなって出ていくんじゃないよ……的な動きで廊下に出る。
長年染み付いた技を意味なく使いゆっくりと目立たない様にバスルームの前に……ちょっと格好良く言ったけど、まあ脱衣場の前にたどり着く。
「そう……真ちゃんて…………胸ばっか…………結構…………エッチ……」
お風呂場からエコーがかかりながら聞こえて来る愛真の声……予想通りの単語がちょこちょこと聞こえ漏れてくる。
しかし泉の声は殆ど聞こえて来ない……愛真はキンキンとした高音域の声質なので外まで声は聞こえてくる。しかしかえってお風呂場だと反響してしまい加えて結構早口なしゃべり方の為今一何を言っているのかわからない……。
そして気になるのは泉の反応……泉も愛真程ではないが高い音域の声質なのだが、やはりそこは育ちの違いなのか? 愛真の様に大きな声や奇声を上げる事はまず無いので……。
「えええええぇぇぇ……!」
「そう、そうなの! 真ちゃんて……」
「……えーーーーーー……」
そう言っていたそばから泉の大きな声がお風呂場に反響して聞こえてくる。
一体愛真は何を喋っているのか? 僕の黒歴史を色々知っているだけに、戦々恐々となる。
子供の頃って、特に小学生の高学年の時って……色々あるじゃない? その……恥ずかしい思いとか勘違いとか……しかも愛真は僕の始めての友達、始めての親友……。
愛真との恥ずかしい過去が頭の中で甦る。
しかも僕は愛真を男友達として認識していた。
いや、勿論女の子ってのは理解してたよ? スカートなんて殆ど履かない、男の子っぽい格好をしていたとはいえ、小学生の高学年ともかくなるとやはり……男の子とは色々違って来る……。
でね、ちょっと考えて欲しい……自分の友達に男の娘が居たらって……もしだよ、もしもの話……大人なら聞けない様なセクシャルな話でも、子供だったら聞いちゃうよね?……色々と興味津々な年頃なんだし……色々と遠慮しないで聞いちゃうよね? そして……見ちゃうよね?
しかも愛真は結構色々と……僕に構わず赤裸々に話してくる。
まあ……つまり……簡単に言うと…………僕は愛真で女の子の事を知った……と言うこと……。
だからこそ……僕は愛真を信じていた。家族と思っていた……。
まあそれはもういい……もう過去の事だ……。
問題は今……その僕の黒歴史を、昔の僕の事を泉に話されていると言う事。
この過去の事は……良くない……しかし今、僕がお風呂場に乱入して愛真の口を塞ぐ事は出来ない……くっそ……愛真め……だからお風呂に入って話そうって言ったのか……。
愛真にまんまとしてやられた感……こうなったら……何を話しているかしっかりと聞いて……対策(言い訳)を考えなければ……。
ここは僕の家……長年住んでいる僕の家、誰よりも二人よりも知り尽くしている。
僕はゆっくりとその場を後にする……。
そして……いつも……お風呂場から見える窓の外の景色を思い出す……。
そう……その景色の場所に行けば……会話が……二人の会話が聞けるかも知れない…………。
僕は足音をたてない様に忍者の如く素早く移動した。
お風呂好きだなあ自分(笑)




