愛真が妹だったら……。
たくさんの友達、友達一杯自慢が時々どこからともなく聞こえてくる……。
羨ましくなんか無い……と言えば嘘になる。
皆一緒に楽しく遊んだり、バカ話をしたりするって、凄く楽しそうだなって……ずっと教室でクラスのグループをじっと見ていた。
でもね、時々思うんだ。
そんなに一杯友達がいて、遊ぶ時どうするんだ? って……。
数人だったらつるんでどこかに行ったりするんだろうけど……。
何十人と友達がいる人は、予約しないといけないの?
友達の中にプライオリティ(優先順位)が付いてたりするの?
中には自分とは仲良いけど、自分以外の友達同士は仲が悪いとかあったりするじゃない?
そう言うのに気を使ったりしてるのかな?
本当にそれを友達っていうのかな?
無い物ねだり僻み根性なのかも知れない。
僕は今まで生きてきて、友達と、親友と呼べる人物は、一人だけ……目の前の女の子、ただ一人だけだった。
だから、いやいやながらも僕は、唯一の親友の頼みを、誘いを殆ど断った事は無い。
それが友達だと、僕は思っていたから。
「真ちゃん……突然……ごめんね?」
「……いや、いいよ……」
強気だった愛真は、一度深呼吸して、涙をハンカチで拭くと、すまなそうな顔でそう言う。
一生僕につきまとう宣言……ストーカーになるぞ、とも思える様な事を言われたのに、僕は何故か少し嬉しかった。
「それで……真ちゃん……私……泊まってもいい?」
「──いいも何も、父さんの許可貰ってるんだろ?」
「ううん……真ちゃんが駄目って言ったら帰るつもり」
「……そんな」
「──いいかな?」
そう言われ駄目なんて僕が言えるわけない……愛真の頼みを断る事なんて出来ない、ましてや未だ慣れていない家に高校生とはいえ一人寂しく帰れなんて言える筈もない。
「……しょうがないだろ……」
「えへへ、相変わらず優しいね、真ちゃん」
はにかむ様に笑う愛真、小学生の時と変わらないその笑顔に僕はドキドキしてしまう。泉だけって、もう僕は泉だけ……って思ったばかりなのに、愛真にドキドキしてしまうなんて……僕って気が多いのかなあ?
「──でも、泉さん怒っちゃったかなあ?」
愛真は泉がいるであろう2階を見上げ心配そうにそう言った。
「……うん、今から部屋に行ってくる」
「……そか……私は行かない方がいいよねえ、やっぱり」
「……うん、とりあえず二人で話してみる」
「……そか……じゃあ私はとりあえずお風呂借りるね」
「あ、うん、タオルは……って知ってるか」
「変わって無いならねえ~~」
「うん……変わってない……」
変わっていない……泉が泉と義母さんが家に来た以外は……なにも……。
幼馴染と言うには遅く短い出会いだった。
でも、ずっと一緒にいた。毎日毎日会えない日も電話をしていた。
僕にとって愛真は空気みたいな存在になっていた。
そこにいて当たり前の……家族の様な存在……いや、家族そのものだった。
でも居なくなって気が付いた……愛真は家族じゃなかったという事に。
皮肉なもんだ、僕は愛真と家族になりたかった。そして泉とは家族になりたくなかった。
しかし、当然愛真とは家族ではなく、泉とは家族になってしまった。
逆だったらよかったのに……愛真が妹で(姉ではない!)泉が恋人だったら。
そうしたら、今この場もこんな雰囲気にならなかったかもしれない。
愛真と泉が仲良く料理なんて作って、それを僕は後ろからニコニコと眺めて……なんて事が、そんな未来があったかも知れない。
「ほら真ちゃん、パンツは大人っぽくしてるからね?」
愛真はそう言ってボーッと考え事をしていた僕に……持ってきたバックから、着替えと一緒に取り出した、ピンクのリボンとフリルのついた白い光沢のある小さな布切れを見せ付けた。
「し、知らないよ!」
愛真の昔のパンツなんて……チラッとしか見てない……。
「えーーだってえ真ちゃん家に来たときよくベランダのお母さんのパンツ眺めてたじゃん」
「──ふぁ! な、眺めて……えええ!」
いや……ほら……僕お母さんを知らないから、世のお母様達がどんな…………うわあああああああ、違う! 違ううううううう。
「きゃははははは」
そう言ってはしゃぐ愛真を見て、僕は一瞬小学生の時に、毎日のように愛真と遊んでいた頃に、戻ったような気がした。




