血の繋がり
「余計なお世話です」
「お世話じゃなく、おかしいって言ってるの!」
「おかしくなんかありません!」
「おかしいでしょ? 兄妹で腕組むとか無いって!」
「そんな事、貴女には関係ありません!」
「あ、あるもん!」
泉は僕の腕にしがみつきながら、愛真は僕達の目の前で立ちはだかりながら二人で言い争いを始める。
僕たちを通さないとばかりに腰に手を当て仁王立ちする愛真……。
家から駅に向かう途中の閑静な住宅街に響き渡る二人の声に、僕は何も言えずに、ただただ二人と、そして周囲を見回していた。
「私のお兄様と貴女がどんなご関係だと言うんですか?」
「……私は真ちゃんの……お姉ちゃんだもん!」
「それは貴女が思っているだけなのでは? そもそも法律的に貴女とお兄様はなんの関係もありません」
「法律が何よ!」
「ここは日本で法治国家です、私とお兄様は国で認められた兄妹なのです!」
泉はそう言ってどや顔をする。
「国って……だ、だからって、兄妹でイチャイチャしていいわけじゃ」
「ですからそれは貴女には関係無い話です」
「……うう、で、でも、おかしい、兄妹でそんなのおかしい」
「おかしくなんかありません、そもそも何故ならば兄妹でしては行けないんですか?」
「そりゃ、おかしいもん、そ、そうだ、兄妹って言ってるけど、血だよ、二人は血が繋がっていないからそんな事してるんだ」
「──血縁なんて関係ありません!!」
血の繋がりを愛真に指摘されると、泉は今まで聞いたことの無い程の大きな声で愛真を怒鳴り付ける。その鬼の様な形相を見て愛真はたじろぐ……そして凄く不安そうな顔で僕に聞いてくる。
「……真ちゃん、泉さんと付き合ってるの?」
「え?」
「だって……私の……」
「いや……付き合ってはいない……よ」
愛真の言葉に被せる様に僕はそう言った。
「……そ、そうなんだ」
僕がそう言うと愛真の顔がパッと明るくなる……何も嘘は言っていない、泉と僕はそういう関係では決してない……。
しかし、泉は安心した愛真の顔が気に食わなかったのか? 更にとんでもない事を言い始めた。
「私とお兄様はその辺の数多いるカップルとは違うんです、もっと高尚な関係なんです!」
「高尚って……」
「そして……お兄様は私の事を……愛していると言ってくれました。私もお兄様を愛しています……私達は……愛し合っています」
「……へあ?」
「い、泉……」
「愛し合っている者同士なんですから、誰に迷惑をかけているわけではないんですから、何をしても構わないんです。さあお兄様行きましょう」
「あ、うん」
泉の言葉に呆然とする愛真、泉は愛真に構わず僕の腕を引っ張り愛真の横を通り抜ける。
「……ま、待って、し、真ちゃん……今のは……泉さんの言葉は……本当なの」
愛真から数歩歩いた所で、背中越しに愛真からそう言われ僕は一度立ち止まる。
「お兄様……」
立ち止まった事で不安そうに僕を見る泉の顔を一度見て、僕は安心してとばかりに微笑み、僕の腕を掴む泉の手に自分の手を添えながら、振り向かずにそのまま……頷いた。
「……そか」
愛真は僕にギリギリ聞こえる位の声でそう呟く。
ごめん……こんな形で告白の返事をして……僕は込み上げてくる物を押さえそのまま泉と一緒に歩き出す。
これで僕はまた一人友達を失ってしまったかも知れない。
これでもう、本当に泉しかいなくなってしまった……。
もう……僕には泉だけしか……。
そう思いながら泉と歩いていると……。
「血の……繋がり……」
暫く考え事をしていた泉は、ポツリとそう呟く……。
僕は泉のその言葉を聞いて、一抹の不安が心をよぎった。




