僕に孤独を教えた人
『さいしん~~』『真ちゃん~~』
二つの呼び方でいつも僕を呼んでいた。
特に決まりは無い、愛真はいつも気分屋だ。
『お花見に行こうよ~~』『ねえねえ真ちゃん、明日一緒に花火見に行こう』
『えーーもう宿題やったの? 見せてええ』『プールにいこう、私の水着姿見せて上げる』『紅葉狩りしに行こう!』『焼き芋焼き芋~~』『雪合戦だあああ!』
たった数年だったけど、常に僕は愛真と常に一緒にいた。
僕の初めての友達、初めての親友……って言っても当時はそうは思っていなかった。
『うざい奴……』
僕は心のどこかでいつもそう思っていた。
ずっと一人だった、誰に気兼ねする事なくずっと一人。
一人の世界は寂しいと言うけれど、その世界しか知らなければ、寂しいって感覚なんて無い。
母さんが死んで父さんは男手一つで僕を育ててくれた。
といっても、まだ僕が小さな頃は家政婦さんに来てもらったりしていたけど……。
他人が、家政婦さんが家に来るのは苦手だった。優しくもない、淡々と仕事をして帰っていく家政婦さん。
嫌だった、自分のパーソナルスペースに他人が入り込むのは本当に嫌だった。
だから僕は自分の事は自分でやる子供になった。家事も全部やる子供になった。
そして家政婦さんなんていなくて良いと、一人で平気だと父さんに言った。
家事だけでは無い、勉強もしっかりやった。勉強さえしていればあ、それなりの成績を出していれば、父さんも、そして先生も何も言わない。
僕は自ら一人でいる事を、選んだのだ。
そして、そこに、僕の一人の時間を邪魔しにきた人物が現れた。僕の家に、僕の部屋にずかずかと上がり込む。僕の僕だけのプライベート空間にパーソナルスペースに容赦なく侵入してくる奴……。
佐々木愛真
佐々井 真
兄妹の様な名前の違い、彼女は僕の姉になると言ってきた。
何を言ってるんだこいつは? 僕はそう思った。
そして何かにつけて僕に付きまとう、僕のプライベートに踏み込んでくる。
うざい、僕は一人が良いんだ、一人が好きなんだ。
迷惑……ってずっと思っていた。
愛真居なくなるまで、常にそう思っていた。
そして愛真が突然居なくなった瞬間、また一人になった瞬間、迷惑と思っていたのに、嬉しい筈なのに、何故か僕の心に大きな穴が開いた、開いてしまった。
愛真が居なくなるなんて考えた事もなかった……いや、考えた事はあった。愛真と喧嘩や言い争い等をした後、やっぱり友達なんて居なくていい、愛真なんてうざいだけ。
今までずっと一人だったんだから、愛真が居なくなっても友達じゃなくなっても、なんとも思わない、ただ元に戻るだけだ……そう思っていた。
でも一度楽しさを知ってしまったから、贅沢を知ってしまったら、もう元には戻れない。
そう、僕は楽しかったんだ、愛真と一緒にいる事が楽しかったんだとそこで知ってしまった。
友達という物を、愛真の家庭で、家族の温かさを知ってしまった。
孤独という事を、僕は孤独だったという事を知ってしまった。
僕は一人になってしまった、その寂しさで、どうにもならなくなった。
一人で過ごす時間が、永遠ともに感じられる様になった。
いつまで進まない時計の針に恐怖を感じた。
そして思った。
愛真がいなければって、出会わなければって、絡んで来なければって。
孤独を孤独の辛さを僕に教えた愛真を恨んだ。
そして……そのポッかりと開いた僕の心を埋めてくれたのは、メイド様と、そして……泉だった。
愛真の様に居なくならない、裏切る事のない仮想のメイド様達、そして出会った時から天使の様な美しさだった泉、遠くから眺めていればその美しさ可愛さは僕を決して裏切らない裏切る事が無い。
僕はメイド様と泉に救われた。
心に開いた大きな穴を埋めて貰い、そして孤独から救って貰った。
家ではメイド様を堪能し、学校では泉を見て癒されていた。
だからもう今は愛真を恨んではいない、あれは仕方の無い事だったと今はそう思っている。
でも……あの恐怖は……あの喪う事の辛さは今でも覚えている。
愛真を見る度に、あの辛さがよみがえる。
ニッコリと笑う愛真を見て、僕はほんの少しだけ……身体が震る。
あの辛さ、孤独の恐怖……を思い出してなのか?
それとも、愛真も見ると愛真のお母さん、優しいお母さんを思い出し、母が死んだ日の事を、僕は覚えていないが身体が覚えているから震えるのか?
それはわからない……ただ再会してから、僕の身体はほんの少しだけ震えている。
ただ一つだけわかった事は……僕が今震えている事を泉が知った事。
恐らく見てもわからない、自分にしかわからない程度の身体の震え。
泉は震えを感じ僕を見て一瞬不思議そうな顔をした後、少し考えそして僕の頭をポンポンと2つ叩いた。
子供が母親に安心しなさい……と言うように僕の頭を軽く撫でる様に2度叩いてくれた。
ブクマが減るなあ……( ´-`)




