蜜月
夜討ち朝駆け、泉は献身的に僕の世話をしてくれる。
泉と僕の蜜月の時が続いている。
朝食の準備をして僕を起こし、一緒に登校、お昼休み泉の作ったお弁当を一緒に食べ一緒に下校、家で一緒にまったりした後、僕が部屋でのんびりしている間に、家事全般をこなし、お風呂に入っている間に夕飯の準備、そして一緒に食事をし、僕が寝るまで、僕を寝かしつけるかの様に、部屋で話したりする。
そんな毎日が、そんな幸せな日々が続いていた。
僕は家でも学校でも、泉に甘えている、甘えきっている。もう人の目を周りの目を気にする事なく……凛ちゃんの目さえも……。
ただそんな泉との蜜月の中で、僕は最後の一線だけは越えない様にしていた。
兄妹という一線……。
泉は何でもしてくれる。僕が頼めば何でもだ。
でも……それはあくまでも兄妹だから、僕が兄だから……。
この間のキスで思った。このままエスカレートしていったら兄妹じゃなくなるかもって……。
もう僕は泉しかいない……ずっと泉と一緒にいる為には、兄妹で居続けるしかない。
だからキス以上は……いや、キスだってもうしない……。
だって……もしそれで泉が気付いてしまったら……兄妹でこんな事しないって気が付いてしまったら……僕を兄って思わなくなってしまったら……。
怖い……怖い……怖い……嫌だ、嫌だ、嫌だ……。
泉を失うなんて……嫌だ……。
もう……僕には泉しかいない……、だから一生このまま泉と一緒に居られればいい……それで僕も泉も二人で幸せになれるんだから……。
◈ ◈ ◈ ◈
「お兄様、お買い物にお付き合いして頂けますか?」
「うんいいよ」
今や僕と泉は片時も離れない、常に一緒に行動する。
部屋で一人になる時はあるけれど、同じ家にいれば安心する。
その為日々の買い物はネットで済ます事が多いけど、すぐに欲しい物もあったりする。
だからその時は一緒に出かける。殆んど誘って来るのは泉の方からだけど。
僕と泉は寒空の中コートを着こんで家を出る。
泉は僕の腕にしがみつく、そして僕は泉の頬に自分の頬を当てる様に密着する。
さらに僕がしていたマフラーを泉にかけ二人で一つになるように道を歩く。
コートを着ているので泉の柔らかさがあまり伝わって来ない。
早く買い物を終わらして、家でイチャイチャしたいなあ……なんて思いながら泉を見つめると、泉も僕を見てニッコリ笑う。
この笑顔を見ているだけで癒される。周りの目なんて何も気にならない……。
前から歩いてくる女子が僕達の事を不思議そうに見ている様だけど……学校で散々同じ目で見られているので全く気にならな……。
「真ちゃん」
「え? ……あ……」
僕は自分の名前を呼ばれ、目線を泉からその女子に移す。
かなり近くで泉と見つめ合っていたので、目のピントが合わずボヤけていた為その女子の顔がすぐにわからなかった。しかし、僕はその声に聞き覚えがあったので、すぐに名前を呼んだ
「え、愛真……」
「──真……ちゃん……」
愛真は驚いている様な顔で僕を見ていた。
久しぶりの愛真の姿に僕は何も言えない……愛真も何も言わない、僕達は無言で見つめあっていると、その状況を打破するかの様に泉がやや大きな声で言った。
「愛真さんこんにちは!」
僕の腕を掴む力を少し強め、僕と密着していた距離を、コートの厚みを潰す様にさらに近づけながら、愛真に挨拶をする。
私の物、もう私だけの物と言わんばかりに僕を自分の身体に引き寄せる。
「……こ、こんにちは……」
愛真は戸惑いつつも泉の挨拶に返事をした。
僕は愛真をずっと避けていた。
あの告白からずっと……。
時々来るメールやラインも全部無視をしていた。
勿論電話も……。
久しぶりに見る愛真の姿……可愛らしいフリフリのピンクのコート、ハートの散りばめられたマフラー、ピンクのふわふわの手袋……昔とは全く違う、小学生の時とは全く違う可愛らしい格好に一瞬ドキッとしてしまう。
小学生の時は短パンにTシャツ姿ばかりだった。冬でも薄着でスカートなんて履いた事が無かった愛真。
僕と再び会った時に、女子だって認識して貰う様に可愛なる様にく努力したって……そう言っていた通りに可愛らしい姿の愛真。
思えば愛真と再開した時も泉と二人だった。
その時も僕は泉とイチャイチャしていた……。
でも今は……今の僕と泉は、あの時と比べ物にならない程密着し、そして……イチャイチャしていた。
愛真は僕と泉を交互に見つめると、至極当たり前の事を当たり前の様に言った。
「兄妹で……それは……無いんじゃないかなあぁ?」
うん……まあ……そうだよね……もう……一線……越えてるよね……。




