その車は蒼いそうで
―――1年と半年前―――
車のエンジン音が響くここサーキット場
今日ここで一つの伝説が生まれた
14歳にしてプロドライバーを、ちぎったドライバー
その愛車のカラーと車が銃弾のように速いことから
人々はこう言った蒼弾と。
しかし、この、レース以降彼女が走ることはなかった...
―――現在―――
東京オリンピックに向けて日本の技術革新は進められた。
電化製品はほぼ全てが自動化されているし、
医療だって昔は無理だと思われたことができるようになった。
その、技術革命は車の世界をも変えてしまった
自動運転技術も10年前は無理だと思われていたが、今では、殆どの乗用車が自動運転化されている。
そのため、車の免許取得制度も12歳を超えたら取得可能になった。
この事からモータリゼーションは更に加速をし、今では国民の数イコール車の数と言っても過言ではないだろう。
車は運転するものから本当の意味で乗り物に変わってしまった。
そしてもう一つ、車の革命があるそれはガソリンエンジンから水素エンジンへの革新だった。
ガソリンよりも、コスト、軽量化、環境への配慮。
この3つの有能さと、ガソリンエンジンの重税化により、日本の車の80%以上は水素エンジン搭載車になっている。
そして、恐らくもう一つ水素自動車のメリットがある
それは、旧車のマイナーチェンジ化だろう。
RX7などのボディに水素エンジンを搭載させたいわ『コンバートカー』これがスポーツカー愛好家から絶大な支持を得た。
もちろん、このコンバートカーが嫌だからガソリンエンジン搭載車に乗っている人もいる。
だか、スーパーGTなどのグランプリでは、もはやガソリンエンジンを見ることは無くなった。
この、水素自動車を開発するために各企業から優秀なエンジニアで構成された水素自動車開発チームは『Re.form』と呼ばれている。
私は、もしも『Re.form』が無かったらこの世界はどうなっていたんだろう?
と疑問に思ってしまう。
それは、今の世界に退屈しているからなのかもしれないし、私自身がひねくれているからなのかもしれない。
まぁ、取り敢えずこれだけは言っておきたい。
「すべてが自動化した環境は楽しいですか?」
これだけだ。
「いってきまーす」
誰もいない部屋にドアの閉鎖音とともに発せられた。
車がただの乗り物になってはや5年、今ではもう、車のステアリングを握る者も少ない。
リムジンやタクシーに乗ってるような優越感と何もしなくても
目的の位置にたどり着ける楽しく悲しい車の世界。
しかし、その車を作り、整備するたの技術を学ぶために作られた学校がある。
要は工業学校、市や県がお金を大量に使ってまでもが今は技術力が求められている。車の水素化、自動化これによってガソリンエンジンのノウハウはほぼ完全に無に帰した。
なので、今はまだ水素エンジンに切り替えてすぐの今は、就職率や条件が良いなどから自動車科に入る人が非常に多い。
自分もその1人、まぁ自分は推薦なんだけど...
詳しい話は聞いてないけど、自分が入学した工業高校『東雲工業高校』は生徒達が車をチューニングしレースに参加する。
と言う学生達の更なる技術、発想力の向上予測から全国の自動車科、自動車部で試験的に3年行われることになったSF活動の加盟校だ。
この活動が受験生にヒットし今年の工業学校自動車化の志願率は、都会だと20倍にもなったとニュースで見た気がする...
そして、自分はその改造された車のドライバーになるなら、学費免除と言うお金に余裕が無い我が家はこの条件を引き受けた。
ま、まぁ、ぶっちゃけ、もう車には乗りたくないけど...
所詮は学校行事、遊び、本気でやる必要はない。
特に通学中に思うことは無く、無意識に車道を眺めた。
水素自動車なので、ガソリンエンジンの様に「ブォォーン」みたいな音を奏でる事は無く、「シャァァァァーー」って感じの水を高速で吹き出す音が耳をすませば聞こえてくる。
着いた...
今年より、開校した東雲工業高校
自動車化はもちろん。ほかにも電気科、情報電子など
車に使えそうな科を1通り揃えた試験的学校
自動車科の生徒はたった36人。全校生徒320人のそこまで生徒はいないのに、やたらと広い学校だ。
自分達はこの新学校で3年間車を改造しレースする訳だ
入学式が終わり、早速だが、クラスごとに移動した自分達自動車科は車が眠る場所ガレージに集められた。
今思えば、この時から既に革命の狼煙は経っていたのかもしれない。
私達が、ガレージに眠る車に興味を持っていると、先生の話が始まった。
「皆入学おめでとう。お祝いの言葉を沢山並べてもいいが、早速本題に入ろう。まず、みんなにはこのクラスの設立理由と目指すもの、そして、レースがどのような形式で行われるか説明する。まずは、学生のフォーミュラレース。
その名の通り、Studentformula 訳して『SF』は、レースの内容によって多少は変わるがドライバー1、メカニック5人の6人グループでのレースになる。
当然、ピットインなどは有り、フォーミュラレースだから、馬力毎に違うクラスでのレースになる訳だが、グループのメンバーはもう決めてある。
まず、今のとこ定められている最高馬力でのレースには最高のメカニックとドライバーを当てることにする。 ドライバーは蒼井真夜、メカニックは...」
先生の話は相変わらず続いている、けど内容は全く頭に入らない。何故かって?だって最高馬力のグループのドライバーが自分だからだろう。
運転アシスト機能がかなり増えた現在でも、事故は当たり前に起こる。
まぁ、何が言いたいかというと...そんな高馬力な車に乗ったら事故りそうだよね...怖いわ。
だが、その時自分はまだ本当の驚きを知らなかったのかもしれない。
「...と言う構成になった訳だ、異論はよっぽどのことが無い限り認めない。そして、この学校、このクラスで目指すものは、このクラスの創設理由と同じだ、こっちに来てくれ。」
も、もう変えられない事実に絶望しながら、先生の後について行く。
流石は、新学校だ、ピット内なのにキラキラ輝いている。
第1、第2ピット...と合計で第6ピットまであった。
各ピット毎に布で覆われていたが恐らく、車だろう。
自分達の3年間の愛車となり、戦闘機になる車が眠っている。
「紹介しよう、これが君達Aグループで使ってもらう車だ。」
先生がそう言うと、謎の風が発生し車を覆っていた布が上へと飛んでいった。
布が開けて、眠っていた車が姿を現した。
その車は白の美しいボディに角度によっては蒼く輝いている。そう、ブルーパールが綺麗な...80スープラだった、それを見た瞬間自分達は驚いた。
スープラって、まだコンバートカーになって無いからである。
つまり、これって...水素自動車じゃない!?
「君達には、この車で、このガソリンエンジンでSFに優勝する。これがこのクラス、この学校の目的だ。」
「えええぇぇーー!!」
訳も分からず、ただ、叫んだ。
この車で、ガソリンエンジンでSF優勝...
言っていることが分からない、ガソリンが水素に?こんな旧車が、現代車に勝てるわけがない。
けど、そんな絶望や驚きよりも、何故か心中は喜びで満ちていることを認めたくなかった...
『80スープラ』
トヨタが1986年から2002年にかけて作ってきたスポーツカーである。全ての型式に直列6気筒エンジンが搭載されている。
スープラと言う名前の由来はラテン語で上へ、超えてなどの意味がある。
その中で、80スープラはスープラの最終形態とも言えるだろう。
サスペンションはシンプルながらの王道のダブルウィッシュボーン、ダブルウィッシュボーンとはスポーツカーなどで多く採用されているサスペンション方式で鳥の叉骨の形に似たA字型のアームが上下に2組で構成されている。
メリットは、カーブする時タイヤの動きを極力抑えて安定したコーナリングをしてくれるサスペンション方式だ。
更にこのスープラは見たところRZと言うグレードなので、エンジンは2JZ-GTEと言って3Lのツインターボ仕様、280馬力以上をたたき出す、まさにモンスターエンジンが搭載されている。
このようにスポーツカーとして高性能なスペックなスープラは
多く人を魅了しただろう。
...そんな車が目の前にある訳である。
それも、そこそこは改造されているがノーマルと言えばノーマルの色を濃く残しているだろう外装。
なんだが、何故か、懐かしい感じがある。
親がスポーツカーに乗っていたからだろうか、何に乗っていたのか思い出せないのだが...
「この、車を取り敢えず3週間でレースできるようにしろ。
3週間後、こいつでレース開始だ。」
先生のこんな無茶ぶりの、中から自分達の改革の火蓋は切られた。
絶望の中、見たこのスープラから放たれる輝きは蒼かった...
「よかったんじゃん。」
「良くないよ!」
ファーストフード店で絶望を吐露する。
笑いながら私の暴言を聞いてるのは、小学時代から中学時代まで一緒の学校だったのだが、残念ながら他の工業高校に行った友達、響子だ。
「とか、言いながら自分の学校もガソリンエンジンでSF出るんだよね。」
響子が、赤い髪をなびかせながらそう言ってきた。
「え?そうなの、車種は何なの?」
「んー見た方が早いと思うよ。」
なるほど、やっぱりガソリンエンジンで成し遂げようと思う学校はあるのかもしれないな。
しかし、ガソリンエンジンだぞ...水素自動車に勝てるのかな?
色々思うことはあるが、取り敢えず、響子の学校で改造される車を見に行く。
そこには、白く染められた、いかにも速そうな車が停まっていた。
そうこれは初代『NSX-typeR』
『NSX』
New,Sports,CarXの訳しであるこの車。
1990年から発売され水素革命が起こる少し前に新型を出し幕を下ろした車だ。
世界に通用するホンダを目指して開発されたこの車。
初代NSXはC30AというV6エンジンを搭載されており、280馬力を叩き出すのだ。
更にこのNSXはtypeRと言いベース車1型をさらにレーシーに軽く仕上げた車だ。
快適装備を減らしバケットシートと言う、一般のシートを軽く、固定力の強くしたものを搭載している。
更に、一部をチタン、アルミパーツを取り入れることにより、ベース車より120kgの軽量化に成功したこの車。
まさにホンダのスポーツカーの性能はこれだけすごいんだぞ
と表現したような車である。
「よ、よくこんな車が残ってたね。」
初代のNSX、更にtypeRとなれば、今では1000万円以上の価格で売買されている。
それを、学生がね...
「うん、先生がね、好きだった車を泣く泣く譲ってくれたんだ。」
...イヤイヤ、泣く泣く譲ってくれたってね。
こんな高級車を譲ってくれる人ってどんな神なんだろうか。
しかし、280馬力ね、280馬力か。
「あれ、280馬力ってさ!?」
そう、自分はふと280馬力で思い出した、この馬力はスープラと同じ馬力なのだ...と言うことはSFでは同じ土俵で戦うことになるのだ
「そうなんだよねーけど楽しそうじゃない?中学の頃は真夜に負けまくりだったけど、この車なら撃墜できちゃうよ。」
そ、そうだねと答えを濁すことしかできなかった。
撃墜ね...と言うか、響子は何でこんなモンスターマシーンに乗ることを喜んでいるのだろうか?
全然理解できない。
「それに、私だけじゃないかもよ。ほら、大阪の高校行った御幸とか東洋工業高校に行った弥生とかSFでるかもだし。」
「確かに、みんな、どんな車乗るんだろね。」
人それぞれが、色んな車に乗る。
それが、生徒によるフォーミュラレースなのだろう。
「御幸とか絶対スバル車だよね、中学の頃めっちゃこだわってたし。」
確かに確かにそうだうろ!と話が弾んだ。
やっぱり、同じ境遇者と喋ったからだろう気持ちが軽くなった。
「真夜、このNSX乗ってみる?」
響子が、ニヤッと鍵を見せつけながらそう言ってきた。
こんな夢とロマンが詰まった車に乗れる?
そんなの返す言葉は決まっている。
「勿論!」
OKと響子に言われながら運転席に案内される。
高級なバケットシートに身を預ける。
更に手にフイットするステアリングにテンションが上がりながら、アクセルを踏んだ。
ブォォーンと言う、水素自動車が奏でる音とは段違いの音にビックリしながら、圧倒的な加速に驚愕した。
―――舞台は広島高速に入る―――
自動運転化に伴いオービスは撤廃され、私達みたいな不良としては、かなり走りやすくなった。
そんな夜の高速道路に甲高い音が響く。
「うひょー速い速い!」
スピードメーターは180~200kmを保ちながら走っている。
ゲーセンにある〇岸かな?
と、思いながら運転するが、現実なのでガリとかしたら、軽く死んでしまう。
まぁ、そこらへん悲しいけどこれ現実なのよね...
としか、言いようがない訳なんだけどもね。
私が、そうボーット運転していると、バックミラーに何か影が映った。
「あれ、なんか後ろから速い車が来てるよ。」
ん!?ミラーをみる。後ろから来る車はどこかのヤン車だろうか、見た目が取り敢えずエグい。
水素エンジンを搭載したおかげて、騒音は消えてしまったので
ホイールのキャンバー角をめちゃくちゃにして生きがっている
尚...めっちゃ速いです...
280馬力もある、このNSXがパワー負けしている。
「あれあれ、真夜ちゃーん抜かれちゃうの?」
響子が煽ってくる。
イヤイヤ、このヤン車バリ速いんだよ!?
...しかし、ただ単純に私がこの車の性能を引き出せてない可能性が高いのだけれども。
「うぉー水素エンジンなんかに負けるかー」
必死に逃げて逃げて逃げまくる。
馬力では負けてもコーナーでは離せるしそれになにより
「ドライバーの差ってさ、案外気がつかないかもだけど重要だよね。」
響子が隣でボソッとそう言ってきた。
「うん...そうだと思うよ」
なんだってそうだ。速いものを作ってもその性能を引き出さないと何もかもが無に帰す
その性能を引き出すことがドライバーの役割なのだろう。
しかし、今の私にそれが出来るのか?
...無理だろうな。
「真夜ってさ、本当にお金が無いから工業高校に入ったの?」
響子がなかなか難しい質問をしてきた。
私だって分かっていない、動機を答えられるはずもなく...適当に答えるしかない。
「うん、そうだよ。本当は違う道で行きたかったけどね。車に乗るのは楽しいけど、取り込まれ過ぎたら..」
取り込まれ過ぎたら...どうなるんだろう?
「あ...」
私が考えていると、ヤン車に抜かれてしまった。
「嗚呼、真夜ちゃん抜かれちゃいましたねー」
「わざとだし、これわざとだから。ここから!」
「楽しそうだね真夜。」
「そ、そうかなーけど、選ばれたからには頑張るよ。」
「うん。そうだね、そいや真夜の学校ってどの車改造するの?」
あーまだ言ってなかったかな。
「えーとね80スープラだよ!」
「え、スープラ...」
今まで笑っていた響子はその瞬間笑顔を消した。
...なんか、地雷踏んだ?
「えーと、なんかあった?」
「い、いやーなんもないよ。」
「そ、そうか、よーし、とっとあのヤン車追い抜くぞ。」
結果論、NSXはやっぱり速いんだな。
ヤン車も勿論速かったけど、NSXの本気には遠く及ばない。
ガソリンエンジンの底力を見せつけれただろう。
しかし、何と言うか、NSXと私の波長は全然合って無かったなと、後悔が残る。
「今日は楽しかったよありがとね。」
「うん!それと真夜お互い頑張ろうね。」
「うん!それじゃあね。」
響子と別れて家に帰る。
...我が家に着く。まぁ安いアパートなんだけど、1人で暮らすには全然不便じゃないからいいや。
我が家は2階なので階段を上がる。
いつもは何の抵抗も無く部屋に入るのだが、私は足を止めた。
あれ、おかしいな...
自分の部屋の前に誰かいる。
茶髪ロングでとても可愛いく、そしてなんと言っても、瞳の色が蒼くて自分のなにかを見透している。
そんな深くて美しい蒼い瞳だった。
「久しぶり。お姉ちゃん!」
見知らぬ茶髪の子が、そう言ってきた。
「はぃぃぃぃぃ?」
今日は何回叫べばいいんだろうか
けど、叫ばなければいけないぐらいの事を言われた。
お姉ちゃん?おかしいな自分妹いないんですけどぉ...
謎の妹?の瞳の色はとても美しく、そして蒼かった...