表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/48

48 ワンマンアーミー2

 無線通信は感度良好。

 船坂は司祭少女の御座所らしき天幕をスルリと抜け出すと、腰を低く保ちながらM-4カービンを構えた。

 前後左右を確認した後、銃口を引き上げながら足早に動き出す。

 テントを出た後に、そのまま左手に前進。

 その先を指示に従って資材置き場になっているらしい場所を抜けたところで、ピタリと足を止める。


「……コツコツコツ」

『到着ですねー。了解です! そこから何が見えます?』

「……見張りの兵士がひとりだ」


 はじめ船坂は、最小限物音を発てないためにインカムのマイクを数度叩いて合図をした。

 そこでレムリルからの指示を待ち、わずかに身を乗り出しながら質問された敵の数を報告したのだが。


『こちらからも目視できるのはひとりですよー。周辺に他の兵士さんの姿は見当たりません、あっ……反対側、二〇歩ぐらい進んだところにも、反対側を向いてテントの中と会話している方が見えます』


 レムリルはいつもの元気一杯の声音を押さえ込む様にして教えてくれた。

 ただし「ユーリャちゃん出番かも」という声が無線を通じて漏れ聞こえてきたので、もしかすると船坂の手を煩わせる事なく、眼の前の敵を排除するつもりなのかと思った。


『そこが生贄になっているひとが囚われている天幕の場所ですねー。こちら待機オッケーなので、それじゃあいきましょうか』

「ま、待て、そちらは消音装置(サプレッサー)を装備していない狙撃銃だから、まずいぞっ」

『コウタロウさま、ユーリャ、わかってます。もしものときは、狙撃、します!』


 すると、舌足らずなようじょの声がレムリルに代わって耳に届く。

 船坂らはそれで状況を理解した。つまり彼が敵の処理に失敗した、あるいは複数の敵に発見された時はおりこうさんようじょスナイパーがサポートしてくれるというわけだ。


「わ、わかった。焦って済まない」


 M-4カービンを背中に回しながら謝罪した彼は、静かにホルスターから拳銃を抜き放ちながら前進だ。

 天幕の前には、気だるそうにダラリと立っているひとりの兵士がいた。

 邪教徒同士ひと眼見てわかる様にだろうか、片腕に布を巻きつけているのがわかる。

 その色まではナイトビジョンを通して知る事はできなかったが、今はどうでもいい事である。


 天幕の中にも人間の反応があった。絨毯の上にでも座らされている様で、みじろぎもしない様だ。

 手は後ろに縛られているのだろうか? そんな推測をする。


「ふあ~あぁ! 首がだりぃなおい」


 P226拳銃のスライドを半分引いて、本当に装弾されているかどうかを確認しつつ、不意にその兵士の横へと船坂は急接近したのだ。


 体はまるで産まれた時から特殊部隊の戦闘員だった様に、しなやかに船坂の頭上に描いた理想的動きをトレスした。

 消音装置つきのそれを兵士の頭に突き付け、トリガーを二度搾る。

 ドゥルンドゥルンとくぐもった銃声を二度鈍く響かせると、兵士は意味不明な何かを口から漏らしつつ崩れそうになったのだが、


「うおっぱっぴ?!」


 頭蓋を二発撃ち抜かれた兵士の首根っこを掴み、有無を言わさぬ勢いで天幕の中に引きずり込んだ。

 そしてテントの隅に放り出しながらも、奥で固まっている人物を確認すると。


「………う゛う゛う゛っ」


 天幕にはどんよりした腐敗臭の様なものが漂っていた。


 年齢は欧米系なので理解できない。だが欧米人の様で間違いない。

 振り乱した様な長い髪の毛は、しばらく手入れをしていなかったが故のものだろか。

 表情は明らかに怯えの色がるもので、飛び込んで来た船坂に困惑しながらテントの奥へ奥へと下がるのだ。

 服装はレムリルの報告にあった通り、船坂の職場に勤めていた会社の総合職の女性みたいなもの。

 つまり女性のスーツ姿という事になる。


「大丈夫だ安心してくれ、と言っても伝わるわけがないか、参ったな。俺の言葉がわかるか?」

「……」

「俺は船坂幸太郎、日本人だ。あんたこの世界の住人じゃないよな?」

「……?!」

「この土地の人間がパンストみたいなものを着ているはずがないし。いいか、触るからな。詳しい説明は後だ。よし、今から後ろ手に縛られているロープを解く」

「…………!!」

「時間が無いから大人しく指示に従ってくれ、騒げばあんたを拉致してここに連れてきた邪神教団の連中に見つかってしまうからな。離れの丘で仲間が射撃援護についているから安心してくれ」


 口早にそう説明をしながら、一瞬驚き嫌がった女性の背後に回り込みながら軍用ナイフを引き抜く。

 そしてズブズブ! と縄に突き立ててそれを切る作業に入ると……

 かなりの異臭が眼の前の女性から漂っている事が理解できた。


 天幕を支配する腐敗臭の正体、その半分は彼女自身が発しているのだろう。

 怯えた表情もさる事ながら、嫌がっているのはもしかすると自分の状態をひとに見せたくない、なんて考えが発露しているからなのかも知れない。

 などと考えたところで、長らく拉致されている人間がそんな事を考えるよりも先に、恐怖を浮かべない方がおかしい。


「……あなたは、何者なのですか」

「タクスフォース・ジャンキー04、世界の警察を自任する国家の軍人さ」


 擦れた声音で、はじめて女性が言葉を投げかけた。

 すると船坂はどう答えていいのかわからずに、ピースメイキングカンパニー上の設定を口走っておく事にした。

 詳しいことは後回しだ、まずはこの女性を敵陣から連れ出して安全地帯に向かう事!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ