43 追手を撃破し、レムリルと合流しました!
林の中から草原に飛び出したレムリルは、丘の上に陣取った船坂たちの位置を確認できたらしい。
そこに向けて、林の中から殺到するのは邪教徒どもの追手だった。
当初は八名だった敵も、船坂がレミントン狙撃銃のバレルを向けて引金を引くたびにひとりまたひとりと田尾エレて行く。
「残りの騎兵の一騎が邪魔だ。あれを先に処理して、レムリルの時間稼ぎをしろ!」
「わかっている、任せろ騎兵だな!」
敵味方の距離は八〇〇メートルを切ったあたりである。
草原に飛び出した事で追跡しやすくなった敵から、草原を横切る様に走っているレムリルを援護しなければならない。
ダアンと銃口から弾丸が射出された音が響いて少し。
時間差でレムリルに急接近しつつあった騎兵にそれは吸い込まれた。
問題なく危険度の高い敵は処理できた。
「す、すげえぜコウタロウさま」
「いくら女神様の祝福を受けた武器とは言え、この距離で仕留めるとは……」
「さすがだべ」
チルチル村の猟師のみなさんが口々に驚いたり賞賛したり。
けれどまだレムリルの安全が確保できたわけではない。
『コウタロウさま、まだ横に走っていたら、いいですか?!』
「いやこちらに一直線に走って構わないぞ。残りの処理は上手くこちらでやる」
荒い息のレムリルの声が、無線を通して聞こえる。
この間にもコーソンサー卿の率いる白馬美従から数騎が飛び出して、レムリルに追いつこうとしてた敵を打ち払うべく小高い丘を迂回する形で接近しているところだった。
そちらにまで船坂は注意を払う余裕が無かったけれど、そこはシルビアが確認してくれる。
「白馬美従の迂回が終了した、丘の陰からまもなく飛び出すぞ」
「残敵はきっちりと倒すか捕まえるかしておきたい。ここの位置を敵に教えたくないからな……」
ボルトアクションによって次弾を装填しながら、残敵の歩兵に狙いを付けた。
少し離れた場所から、何やら一瞬だけ立ち止まった人間がいる。
「まずいぞ、あいつらふたりは魔法詠唱をするつもりだ。コウタロウ貴様、何とかしろ!」
「何とかしろって?! 言われなくてもやるよ」
どうやら最後に残った連中は、魔法使いか何かだったらしい。
白馬美従のみなさんも剣と魔法を左右の手で上手く使いこなしながら騎馬で斬り込み戦闘をやってのける。
しかしあれは魔法専従の使い手らしく、
「詠唱に時間はかかるが、そのぶん威力は大きいはずだ」
シルビアがまるで他人事の様にそう説明してくるのだ。
連中はこちらから攻撃にさらされているのを理解しているのだろうか。
ただの馬鹿ではないらしく、岩陰の様な所に姿を隠しながら魔法詠唱をはじめたではないか!
「くそ、厄介だな。連中隠れやがったぞ。上半身ぐらいしか見えてない!」
「コウタロウさま、ユーリャも、お手伝いする?」
「ドラグノフ狙撃銃ではちょっとキツい距離かも知れないけど、いけるか?」
「やってみ、ます!」
言葉を区切りながらだが、力強く頷いてみせたゴブリンのようじょだ。
しっかりと狙いを付けながら船坂はバレルの先端を微調整した。
隣でも同じように寝そべったユーリャが、銃口をふたりいる魔法使いの片方に狙いを付けたらしい。
普通、現代的な狙撃兵が相手を狙う場合は、できるだけ命中させやすい様に体の中央に定めをつける。
戦場のような場所で距離がかなり離れている場合は、顔や手といったピンポイントは狙いにくい。
意を決してしっかりと狙いを定めた船坂である。
自分がゲーム能力を引き継いだチート能力の持ち主だと信じ込ませる様に、ゆっくり行きを吐きながら引金を引く。
タアンという射撃音とともに弾丸が飛び出すと、その直後に隣でもユーリャが呼応して狙撃した様だった。
ふたつの弾丸は勢いよく敵の隠れている岩肌付近へと飛来する。
そこで魔法を練り上げていたふたりの敵兵は、わずかに体を露出していた場所を射ち抜かれたのである。
頭部と腕。
どちらも魔法詠唱によって周辺の空気を蜃気楼の様に揺らしオーラを纏っていた。
それが着弾と同時に飛散して、敵兵は倒れた様だった。
「やったか?!」
「やりました、コウタロウさまっ」
「でかしたぞ!!」
シルビアの上ずり声に、ようじょも船坂も声に出して歓喜した。
度重なる狙撃によって残った兵士も地面に伏せて退避しようとしたらしいけれども。
そこに草原を疾走する白馬美従の十数騎が駆けこんだ様で、勝敗は決したのだ。
『コウタロウさま、オールクリアです! 美人の騎兵さんたちが残りの敵を一掃してくれましたよー。これからそちらに向かいます。早くコウタロウさまの顔を見たいですっ』
先ほどまでの緊張感を打ち捨てた様に、快活なレムリルの声がヘッドセットから聞こえてきた。
それは、まるで鼻歌でも歌う様な柔らかなありさまだ。
もしかしたら彼ら遊撃部隊に、何かの朗報をもたらしてくれるのではないかと船坂たちは予感したのだった。
「フン、わたしの顔を見たいと言わないあたりが気に喰わんな。どうしてわたしではなく、貴様なのだ?!」
上体を起こして手を振った船坂に、横から難しい顔をした白銀の騎士シルビアが腕を伸ばしてきた。
船坂の首をロックする様に腕を回したところ、防弾ジャケットの上からでもそのボリュームがわかる胸が押し付けられる。
せっかくならその防弾板は余計だ、などと考える余裕が今の船坂にはあった。
「ま、待っているよレムリル。無事で何よりだ!」
こらやめろと悲鳴を口にしながらも、悪い気はしなかったのだ。