ほのぼの7! はたけをたがやします!
家に戻り、雑貨屋で買ったものをカバンから取り出していると、ある忘れていたことを思い出した。
そう言えば、うちの家にも魔法のカバンと同じ機能を持ったモノがあったのだ。昨日は、色んな事が一度に起きすぎてすっかり忘れていた。
それが、この収納箱である。
村長の話を思い出す限り、大体、魔法のカバンと同じような機能だったはずだ。という事は、魔法の収納箱ということである。確か……収納数は、200個ほど。多いと思うかも知れないが、収納箱自体が大きく、カバンのように持ち運びが出来ないので、収納数は多いらしい。
ちなみに、この村の冷蔵庫もそんな感じらしいが、村長が手配してくれると言っていたので、まだうちにはない。
俺は、黙々とカバンから出したものを、収納箱に入れるものと入れないもので分けていると、ピンポーン! と家のインターホンが鳴った。
どうやら、お客さんらしい。
「大丈夫。私が出るよ」
俺が作業を止め、立ち上がろうとすると、ハナが俺を手で制した。
代わりに出てくれるらしい。
ちなみに、子供たちは今お昼寝タイムだ。
「あ! どうも。こんにちは!」
と、玄関のところからハナの声が聞こえるが、すぐに、ユウ君! とハナに呼ばれた。
玄関にいたのは、ゾウガメ姿の村長とお隣さんのご主人…ホワイトタイガーのブラックさんだった。
「今、時間大丈夫か?」
と、聞いてくるブラックさんに俺はハイと返しつつも、何だろうと頭の中で思案する。
「おーそりゃあ良かった。実はな、お主たちが作物を育てるのは、ほぼ未体験と言っておったからな。最初はこちらから基礎を教えることにしたのじゃ。土地だけあげてお主たちに丸投げするのも悪いしの」
と、村長が言ってきた。要するに、畑仕事を教えてくれるという事だ。
うん。これはありがたい。正直、雑貨屋で種を選んでいた時、どうしようかと途方に暮れていたのだ。
それは是非ともお願いしたい。というか、こちらから頭を下げてでもお願いしたい。
「それは、ありがとうございます。自分たちだけでは、どうしようかと悩んでいたところです……ん? えーと? それじゃあブラックさんは?」
と、感謝を述べていると、途中でブラックさんは? という事に気付いた。ブラックさんは、ブラックさんで、また別の用事があって来たのかな?
「おお受けてくれるか。それでな、ブラックを呼んだ理由は、ワシはほれ、こういう格好じゃろ? それにもう年だし、畑仕事をするのはかなわん。という事で、お主たちと年も近く、家も近いブラックにワシの代わりに畑の指導をお願いしたのじゃよ」
と、村長はゾウガメの体を理由にして、ブラックさんに俺たちの指導を頼んだと説明してくれた。
「村長…よく言うぜ。変身魔法で若い身体にもなれるって言うのに…」
違った。ただ、村長が楽をしたいだけだった。
「まぁ、俺としては、ユウたちに教えるのは構わないけどな!」
と、笑顔で言ってくるブラックさん。俺とハナはとりあえず、感謝の言葉を述べ、改めて、よろしくお願いしますと頭を下げるのだった。
「うむ。それじゃあ、ブラックよ。頼んだぞ!」
と、村長は、ドロンとウサギ姿になって去って行った。
が、すぐに戻ってきた……。
「おお! 忘れておったわい。ほれ、これはワシからのプレゼントじゃ」
と、言って村長は自らの帽子の中にガサゴソと手を入れ、俺たちに渡してきたのは。
作業用のオーバーオールだった。しかも、家族5人分だ。
何でも、この服には、汚れが付きにくい魔法、サイズ調整機能の魔法が掛かっているそうな。確かに、便利ではあるが…もう何でもありである。俺たちは、あと何回驚けばいいのだろう。当分の間は驚くんだろうな…。
と、言いつつ、村長にお礼を言うと、よいよいと上機嫌で村長は、去って行った。
が、すぐに戻ってきた……。
同じネタを何回すんねん。
「いやー最近もの忘れが激しくてのー。もう一つ伝えることがあったわい。ワイバーン便についてじゃが――――」
ワイバーン便。それは、農家が作った農作物を代わりに回収し、販売してくれる会社のことで、何でも、この村の農場経営者は全員が利用していて、農家の主な収入源となる会社らしい。
家の土地のどこかに出荷箱を設置することで、毎日夕方、ワイバーンが出荷物を取りに来てくれ、そして、出荷した分の代金とその明細書が翌朝届くとのこと。
と、村長は軽く説明をして、今日、連絡を入れとくから明日にでも出荷箱が届くじゃろ、と言って、今度は本当に帰って行った。
自由な人である。あ、今はウサギか。
気を取り直して。
「「よろしくお願いします」」
と、俺たち夫婦はブラックさんにお辞儀をする。
服装は、もちろん、先程のオーバーオールに俺もハナも着替えている。
「おう。よろしくな!」
と、ブラックさんがニコッと笑った。
善意で教えて貰えるのだ。こちらも善意で応えないとな。
俺たちは、家の玄関近くにある一番近い畑予定地に向かう。
「じゃあまずは、実際にやってみるんじゃなくて、ユウたちの知識の確認からしていくか。俺も何が分かって何が分からないのかを把握しないといけないからな」
と、ブラックさんは、まず、野菜が出来る過程を大まかに答えてくれ、と問うてきた。
「はい。えーと、畑を耕して、種を植えて、水をまく。それから、野菜が育ってくると、収穫でしょうか」
「あと、肥料も必要じゃないかしら」
俺の説明に、ハナが補足を入れた。
「うん。だいたいはあっているぞ。じゃあ、ユウ。この畑を見てくれ」
と、ブラックさんは、目の前にある俺たちの畑予定地を指さした。
「ユウはこの畑を見て、すぐに耕すかな?」
「いいえ。耕しません」
ブラックさんの問いに俺は答える。
「それは、なんでだ?」
「雑草とか、落ち葉で散らかっているので、このまま耕したら、良くない野菜が出来そうだからです」
と、答えた俺にブラックさんは、満足そうに頷いた。
「うん。そうだな。我々は人様の食べ物を作る立場の人間だ。こんな荒れた畑で育った野菜なんて、誰がお金を払って食べたいと思うだろうか」
うん。そりゃあそうだな。俺だってこんな畑で作られた野菜と知ったら買わないだろう。
「食べる人の気持ちを考えて作ることが大事ということですね」
と、ハナがまとめた。
「そうだ。では最初にやることは、もう分かるな?」
「はい。まずは畑の整備です」
と、俺たちは畑に入り、掃除を開始した。
~畑を整備中~
畑の整備は、雑草を抜くのが大変だったが、意外と早く終わった。それは、ブラックさんも手伝ってくれたというのもあるが、途中、昼寝から起きてきた子供たちが参加してくれたのも大きかった。
俺は、ひたすら雑草を抜き、子供たちは落ちてるゴミを拾ったり運んだりと、人海戦術だ。こういう時、家族の多さは頼りになる。
「さて、次がいよいよ、畑を耕す作業だ。まあ見本を見せるから、ちょっと離れてろ」
と、言ってブラックさんは、腰に下げていた小さい巾着袋から、クワを取り出した。おそらく長年使っている愛用のクワだろう。
「すごーい!」
と、フタバが歓喜する。
うん。魔法のカバンという事は、頭で理解しているが、やはり、あの小さい袋から倍以上の大きさを持つクワを出しているところを見ると、流石にまだ驚く。フタバが目を輝かすのも当然だ。
っていうか、魔法のカバンってやっぱり便利だな。いちいち、倉庫まで道具を取りに行かないでもいいし。もう一つ、道具とかを入れるように、収納数が少なくても小さいのを買おうかな。
そ、そうか……? と、フタバの言葉に若干照れながらも、ブラックさんはクワの使い方を教えてくれた。
クワの柄の先を左手で持ち、右手を添える。進行方向に右足を出しながら、左足を直角に置く。
進行方向に、クワを平行に出しながら、土を捉えて、土を落す。
ブラックさんが言うには、クワを身体の近い位置で使うと、身体を痛めたりしないらしい。あと、クワの重さを利用して、あまり力を使わずに耕していくそうだ。他にも、土のならし方や、削り方などを教えてくれた。
分かっていたことだが、間違ってもクワを上から振り下ろすことはしないらしい。
確かに危険だしな。