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ほのぼの6! きっさてん!



 雑貨屋での長い買い物も終わり、新しく買った魔法の財布にお金を移し、すぐにマネさんに財布を返しに行った。

 当のマネさんは。

「あらー。明日でもよかったのにー」

 と、言っていたが、雑貨屋で、この両替機能の付いた魔法の財布は、最低でも10万からだったのを見た後では、とても明日返そうなどとは思わない。ってか、そんな高価なモノをサラッと人に貸さないで欲しい。


 そのあと、俺たちはようやく家に戻る事となった。

 みんな、買ったばかりのカバンを背負っている。もちろん、他の買った商品は、この魔法のカバンに仕舞っている。買い物した後だというのに、手がふさがっていない、何も持っていないと言うのは、少し変な気分だが、だんだんとこの感覚にも慣れていくんだろう。


 と、帰路を家族5人。仲良く手を繋いで歩いていると。


「あ、ユウ君。喫茶店!」

「「「きっさてん!」」」


 と、先程のオレンジ色の三角屋根が見えたところで、ハナが思い出したように言うと、それに反応した子供たちが一斉にハモる。


「ふふっ。忘れてたね。せっかくだし、休憩がてら入ろうか」

 またもや、合唱しだした子供たちに苦笑しつつ、ハナに答える。


 もう、12時も過ぎているし、店も開いているはずだ。




「こんにちはー」

 カランコロンと白い扉を開くと、まず、鼻から胸いっぱいに広がるコーヒーの香ばしい匂いが。


 店内を見渡すと、品の良いイスやテーブルが綺麗に並べられていて、お洒落な空間を演出していた。どれを見ても一つ一つ丁寧に選んだであろうインテリアが程よく室内に並び、テーブルごとの間隔も席と席が近すぎず、離れ過ぎず丁度いい。何と言うかこれぞ、理想の喫茶店だ、というのを正しく体現している。お店に入っただけで、この店の主人はセンスのとても良い人だと分かる。それと、絶対にコーヒーが上手いであろうことも。



 そして、そんな店内のカウンターにいたのは……。



「わー! クマさんだー!」

「クマさん…!」

「クマさん!!!」


 クマの被り物をした人だった。


 丁寧にコーヒーを入れている。

 頭だけがクマなだけで、身体は着ぐるみ姿ではなく、如何にもカフェのマスターですといった服装で、エプロンをしているので、おそらく人だろう。


 いや、どう見ても場違いだが、それでも、コーヒーを入れている様は絵になっている。



 俺とハナが呆気に取られ、子供たちがクマさん(仮)に嬉しそうにはしゃいでいると、騒ぎを聞きつけたのか、奥の部屋から上品な格好をした黒髪の女性が出てきた。


「あら、いらっしゃいませ。随分と可愛いお客さん達ね」


「あ、えーと。この村に新しく引っ越してきた木村ユウゴです」

「つ、妻のハナです」

「フタバです!!!」

「ミツバです!」

「イチノスケです!!」


 俺はクマさんへの好奇心を押し殺し、自己紹介をする。ハナも慌てて自己紹介をし、子供たちは興奮からかいつもより元気良く挨拶をした。


「あら。あなた達がそうだったの。私はシャルよ。よろしくね。そして、こっちが夫のダン。見ての通り、喫茶店をしているわ」

 と、シャルさんが挨拶をすると、隣のクマさんがこくりと軽くお辞儀をした。どうやら、この人がシャルさんの夫のダンさんらしい。


「あ、あのーこれは……?」

 挨拶もほどほどにして、俺はついに好奇心が抑えきれず、ダンさんの格好を聞いてしまう。


「あぁ、これはね。本人曰く、お客さんに恥ずかしくて接客ができないから、そうしているらしいの。だけど本当は、彼が無口な人だから喋らなくてもいいように、これを被っているのよ。ふふっ。面白い人でしょ」

 と、シャルさんは、上品に笑いながら答えてくれた。


 いや、面白い人っていうか、変な人ですけど。


「まぁ、でもうちのコーヒーは美味しいから、ぜひ飲んでいってね」



 と、シャルさんの勧めもあり、俺たちはとりあえず、カウンター席に座ることになった。テーブル席もあったが、子供たちがダンさん……クマさんを近くで見たいと言ったためカウンター席である。


「……」


 席に座ると、サッと丁寧にダンさんがメニュー表を渡してくれた。


 俺はそれを受け取り、メニューを見ていく。子供たちを挟んで反対側にいる妻にもメニュー表は渡してくれたみたいだ。というか、子供たちにも、メニュー表を渡している。


 コーヒー一杯300円というのは、個人経営店では、安い方なのではないだろうか。

 とりあえず、初回は、純粋にこの店のコーヒーを楽しみたいのでブレンドコーヒーを俺は頼んだ。ハナもどうやら同じのを頼んだようだ。

 そして、子供たちは、メニュー表を眺めているが、流石にまだ字を完璧には読めない。なので、代わりにホットミルクを三つ頼んだ。コーヒーも飲めないしな。


「……」

 ダンさんは、相変わらず無口のままクマの被り物でコクッと頷くと、さっそく作業に移り始めた。

 子供たちは興味津々、キラキラとした目でそれを見ている。

 かく言う俺たち夫婦も、ダンさんのコーヒーを入れる所作に釘付けである。何と言うか、洗練された身のこなしだ。


「……」

 店内には穏やかなBGMが流れているだけ。


 そこに、コトリと、コーヒーカップを置く音が響く。


 そして、間髪入れず襲ってくるコーヒー独特の香ばしい、いい匂い。俺は一度コーヒーの香りに溺れ、胸いっぱいに匂いを味わってから、一口、コーヒーを頂く。


 あぁ~。美味い。


 その美味さに体中から力が抜け、自然と笑みもこぼれてしまう。


 ほど良い酸味と苦みのバランスのとれた味。これぞ、コーヒーという感じだ。

 と言っても、実はあまり詳しくはないんだけどね。ただ、美味しいか美味しくないかの違いは分かる。



 一口を満喫して、ふと隣を見てみると、ハナも幸せそうな顔をしてコーヒーを飲んでいた。


 うん。やっぱり、こっちに来て正解だったな。と、俺はハナのその顔を見て、密かに思う。


 都会では、日々迫りくる時間に追われ、こうした感動もいつの日か忘れてしまっていた。仕事仕事とそうするうちに、家族との会話も次第に減っていき、だんだんと笑顔もなくなっていった。この村に来て、こうしたゆったりとした時間を過ごすことで、改めてこうした感動を日々の幸せを実感できる。


 と、俺が密かにそんなことを考えていると、子供たちの前にコトリとカップが置かれた。


「わー!」

「すごーい!」

「すごい……」

 と、子供たちが歓声を上げるので、どうしたと子供たちの方を見てみると。


「おー!」

「わぁ。凄いね!」

 俺とハナも思わず、声を上げてしまう。


 頼んでいたのは、ホットミルクだが、そこの上には、ココアパウダーでクマさんの絵が描かれていた。

 いわゆる、ラテアートというやつである。しかも、かなり完成度が高い。


 フタバとミツバには、ハートの縁取りの中にクマさんが、イチノスケには、星の縁取りの中にクマさんがいる。


 うん。

 ダンさんは被り物をしているけど、恥ずかしくて喋らないけど、プロなのだ。職人なのだと改めて感じる。最初は変な人と思ったけど、コーヒー、そして、お客さんへの愛は本物である。そこには、お客さんをただ喜ばせたいというダンさんの思いがあるのだ。喋らなくても分かる。ダンさんは良い人だ。それは、このコーヒー、このホットミルクから伝わってくる。

 本当にこの村の人たちは良い人ばかりだ。



 そして、子供たちがホットミルクを飲むか飲まないかと、飲んだらクマさんが崩れてしまうと悩んでいる姿を眺めていると、子供たちを挟んだ向こう側の席にいるハナと目が合う。


「ふふっ。幸せだね」


 そう、微笑んで言ったハナを見て、俺は、あぁやっぱり引っ越してきて正解だったと改めて強く感じるのだった。


「あまーい!」

「はちみつ…」

「あまい!」


 そして、ホットミルクを飲んで、蜂蜜が入ってることに気付いた子供たちは、さらに喜んだ。



 うん。幸せだ――。






飯テロver.コーヒー(笑)

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