ほのぼの3! あいさつまわり そんちょうかぞく!
ブラックさん家をあとにした俺たちは、再びもと来た道を戻り、村の中心部へと向かう。
我が家を通り過ぎて、しばらく歩くと、一軒の家が見えてきた。オレンジ色の三角屋根が特徴的だ。
「見てみて。ユウ君。喫茶店だって」
ハナが看板を見つけて、報告してくる。
「喫茶店pot&eggか」
なかなか、洒落た名前だと思う。
「きっさ……てん?」
すると、フタバが俺たちの会話を聞いていたのか、言葉を繰り返してこちらを見上げてきた。
「そう、喫茶店」
俺は、フタバにゆっくりと発音して言葉を教える。
「きっさてん!」
「きっさてん……?」
「きっさてん!」
「きっさて……?」
「きっさてん!」
すると、どんどん三つ子内にこの言葉が伝わっていく。
フタバが「きっさてん!」と連呼して、ミツバ、イチへと伝わり、しまいには、三人で「きっさてん!」と合唱だ。何か子供たちの中で、発音が面白かったのだろうか。
そんな子供たちのブームを見ていると、喫茶店を確認しに行ったハナが戻って来た。
「10時からの営業みたい」
ハナの言葉に、俺は腕の時計で時間を確認する。
「まだ9時前か……」
昨日は疲れていて早く眠ったため、今日は朝早く起きたからな。
「帰りにでもまた寄ってみるか」
「そうね。久しぶりに美味しいコーヒーでも飲みたいし」
「そうだな」
そして、俺たちは再び村の中心部へと歩き始める。
村の中心部に着くまでの間、子供たちの「きっさてん!」ブームは止まらなかった。
村の中心部と呼ばれるところは、シンボルであるでっかい大樹が生えている。そこを起点としてロータリーが形成されており、村の言わばショッピングエリアとなっている。商店街とでも言えばいいか。
そこには、昨日俺らを案内してくれた村長の家を始め、村長の奥さんが経営しているという宿屋兼食堂、雑貨屋、病院、少し離れたところに動物屋、学校など村の主要施設が建てられており、正しく村の中心部となっている。また、毎週日曜日には、村の農家さん達が露店を開き、バザール……朝市みたいなものが開催されるらしい。
俺たちは、まず、村長の家族に挨拶するべく、村長の家に向かった。村長の家の隣に、宿屋兼食堂があるので、ついでに朝ご飯も済ませたいと思う。決して、挨拶がついでではない。
「おはようございます。木村です」
案の定。村長宅のインターホンを押すと、帽子を被ったゾウガメが出てきた。これが村長である。ブラックさんやミロさんは、同じ動物でも二足歩行なのに何故村長は、まんまゾウガメ何だろうと疑問に思いつつも、挨拶をする。
「おお! ユウにハナ、それに三つ子たちか。おはようさん」
「おはようございます」
「「「おはーよーございまーす!!!」」」
村長が挨拶をしたところで、妻と子供たちも挨拶を返す。
「うむ。元気がいいことよ。して、ユウ。今日は何用か?」
「はい。村長の家族に挨拶でもと」
聞いてきた村長の問いに俺は答える。
「おお! そうじゃったか。だが、あいにく息子夫婦はもう仕事に出てしまっててのう。わしの妻と孫たちは、宿屋でご飯を食べているはずじゃから行ってみるか」
すると、村長が急にドロンと姿をゾウガメからウサギに変えた。
「わーすごーい!」
「ウサギさんだー!」
と、村長の変身に目を輝かす子供たち。
「では、行くかの」
「「…………」」
はしゃぐ子供たちを見て、村長はまんざらでもない顔をしながら歩いていく。
なお、俺たち夫婦は、顔を見合わせて、ただただ苦笑するしかなかった。
「木村ユウゴです」
「妻のハナです」
「フタバです」
「ミツバです…」
「イチノスケ…です」
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
俺たち家族はそう言って、一斉に頭を下げる。
「あらーこれまたご丁寧に。私がジョット…村長の妻のマネよ。あなた達が来るのをとても楽しみにしてたんだから。これからよろしくね」
「孫のモネです……よろしくお願いします」
「俺はレオ。よろしく……です」
村長家族は意外にも全員が人間だった。いや、本当はそれが普通のはずなんだけど。村長がゾウガメだったし、ブラックさんもミロさんも動物系だったし、てっきり動物だと思っていた。
って言うか、家族は人間って逆に村長がおかしいじゃねえか。某有名CMの家族と一緒である。
村長の奥さんは、優しそうなおばあちゃんという感じの人で、孫のモネちゃんは12歳。弟のレオ君は8歳という事だった。
挨拶をしたあと、まだマネさん達もご飯の途中だったので、一緒に食べる事となった。
そして、雑談しながら、ご飯を食べ終えると、ちょっとした事件……驚きの事実が発覚した。
「日本円が使えない?」
食事代を払おうした際に、あら両替しなかったの? とマネさんに言われたのだ。
いや、一応日本のはずですが、ここ。
通貨もファンタジーに合わせているらしい。
「もう、たぶんジョットったら、説明し忘れたのね。ちょっと待っててね」
と言って、マネさんは食堂の奥の方に入って行った。
ちなみに、ジョット村長は、ゾウガメの姿で甲羅にこもりお昼寝中だ。随分と早いお昼寝だが。
「お待たせしたね」
と言って、マネさんが持ってきたのは、普通のがま口財布だった。白い生地にオレンジの水玉がプリントされており、なかなか可愛らしい財布である。
「これはね。両替の財布と言って……というよりも、やって見せた方がいいね。ユウゴ君。そのお金、ちょっと貸しとくれ」
と、マネさんは言ってきた。
俺は食事代に用意していた千円札を二枚渡す。
「これをね。財布の口の上に持っていくと……」
マネさんが、俺が渡した二千円を財布に入れようとすると、その途中で、財布にお金が吸い込まれて消えた。
「「え!」」
俺とハナが驚きでハモる。
「これで完了さね。あとは、ほら」
と俺たちの驚きも気にせず、マネさんは、続けて説明していく。
すると、今度は、一枚の紙きれがマネさんの手元に現れた。そこには、2000と書いてある。
どうやら、これがこの村の通貨らしい。
いや、本当に通貨がファンタジーだった。
そして、その後、マネさんが財布の使い方を教えてくれた。
何でも、財布から出したい金額を頭に思い浮かべることで、その金額が書かれたお金…先程の魔法の紙が出てくるらしい。もちろん、財布に入っている額のお金しか出てこないので、先程のようにお金を入れる必要があるとのことだが。
うん。めっちゃ便利だ。
また、財布にいくらお金が入っているか確認したいときは、残金を調べたいと頭で思いながら、財布の口を開けると、自分にしか見えない魔法の文字で残金を表示してくれるらしい。
実際にやってみたが、財布の上、空中に文字が浮かび上がってきた。俺が凄いわけではないが、自分にも魔法が使えたことに喜びを感じる。
さらに、この財布には、本人、または本人が認めた人しか財布を開けない…お金を取り出せないという魔法も掛かっていて、盗難されても、その泥棒にお金は取られないという。
超すげぇ。流石、魔法のあるファンタジーな村。財布一つ取っても超すごい。
ちなみに、マネさんが持ってきたこの財布は、両替の財布と言って、外の通貨を両替できる財布らしく特別な財布らしい。村人が持つ財布は、両替の機能は無く、お金を出し入れできる機能だけが付いた財布とのことだ。
「じゃあこの財布。今日は預けておくから、雑貨屋で財布を買うまではそれを使っときなさい」
とマネさんは、この高価そうな財布を貸してくれた。
いや、雑貨屋で、新しい財布を買ったらすぐに返しに来ます。なくしたら怖いし。
それを言ったら、マネさんは、無くしても財布が勝手に帰ってくるから大丈夫だよ。と笑っていた。
もう、なんでもありなんですね。
とりあえず、買い物が終わったらすぐに返すことを約束して、俺たちは食堂をあとにするのだった。
挨拶回りなので、村の住人が沢山出てきますが、無理に覚えてもらう必要はありません。