ほのぼの1! まほうのせんめんだい!
コケコッコー!
翌朝。四月一日。どこかから聞こえるニワトリの鳴き声で目を覚ました。
おそらく、近所の農家さんが飼っているニワトリだろうなと思いながら、壁の時計を見る。
朝の6時ピッタリだ。随分、時間に正確なニワトリさんである。
ニワトリの鳴き声を聞いて朝起きるなど、都会では絶対出来ない体験だな。これからは、毎日これを聞いて起きるのかも知れない。
そう思いながら、ふと隣で寝ている家族たちを見ると、妻のハナも起きていた。
「おはよ。ふふっ。ニワトリさんに起こされちゃったね」
そう言って、ハナはこちらを見てニコッと微笑んだ。
どうやら、同じことを考えていたみたいだ。
まぁ、もう結婚して6年。付き合い始めて10年近く一緒にいたら考え方も似てくるのだろう。
「おはよ」
と、俺は返しながら、子供たちを起こさないように、リビングに向かい、ハナと同じことを思ったと話をするのだった。
「今日の予定はどうするの?」
子供たちが起きてくるまでは、暇なので、二人で引っ越しの荷ほどきをしていると、ハナが聞いてきた。
「うーん。とりあえずは、村の人たちに挨拶周りをして、必要な物の買い出しかな?」
「そうね。でも、朝ごはんはどうする? 昨日の今日だし家には何もないよ?」
そうだった。昨日は、引っ越しという事で、ファストフードを買って食べたからな。
「あ、村長さんの奥さんは宿屋をしながら、食堂をやってるって言ってなかった?」
と、俺は昨日の村長さんの話を思い出し、答える。
「そういえば、言ってたかも!」
と、ハナは手をポンと叩く。
「じゃあ、挨拶回りしながら、そこでご飯も済ませちゃおうか」
「そうだね。そうしようか」
と、俺の提案にハナが同意する。
それから、荷ほどきをしながら、会話をしていると。
「パパ、ママ、おはよ……」
と、次女のミツバが起きだしてきた。
三つ子の中で、いつも一番早く起きてくるのが、ミツバだ。3人の中で一番おとなしい子で真面目な頑張り屋さんである。
「ミツバ。おはよー!」
「おはようミツバ。ほら顔洗っておいで」
俺は、荷ほどきをしている手を一旦止め、ミツバに声をかける。
「うん……」
と、うなずいて、ミツバは眠たい目を擦りながら洗面所へと歩いていった。
それを見送りながら、再び荷ほどきを再開する。
「パパー」
が、すぐに、ミツバに呼ばれた。そうだった。洗面台の説明をするのを忘れていた。
俺は、再び手を止め、洗面所へと向かうのだった。
昨日。家の機能を説明してくれた村長に、ただただ私とハナは驚いてばかりだった。ちなみに、その時、子供たちは既に眠っていたので説明は聞いていない。
その時、驚いた機能の一つは、電気、ガス、水道といったライフライン設備についての説明だった。
それは、家の電気、ガス、水道といった設備すべてが、魔法の石、魔石というもので代用しているという事だった。うん。俺も最初、聞いててはぁ? と思った。だけど、最終的には、便利だし、ファンタジーな村だという事で納得した。
という訳で、洗面台の説明だが、水を出すのに少し手順があるので、それをミツバに説明していく。
洗面台は、普通のどこにでもある洗面台なのだが、一つ変わっている部分は、蛇口の横に窪んだ基盤……蛍光灯を取り付ける際のはめ込む部分、或いは、電池をはめ込む部分とでも言うのだろうか。それを丸くした感じのやつが取り付けられている。
そこに取りつけるのが、赤の魔石と青の魔石だ。これが、熱の役割を持つらしく、それぞれ熱いのと冷たいのとなっていて、これを丸い基盤に取り付け、蛇口をひねる事で、水が出てくるという仕組みになっている。
魔石を基盤にずっと取り付けて置かないのは、何でも取り付けているだけで、魔石の魔素が空気中に自然と出ていくからとかなんとか村長が言っていた。
さらに、排水管だが、一般に、排水管に付いている場所には、何やら魔法陣のようなものが描かれていて、この魔法陣に、出てきた水が触れると水が消えるという仕組みになっている。
村長は、またもや、空気中に魔素がどうたらこうたらと言っていたが、今まで科学を習ってきた人間にファンタジーな説明をされても理解できるはずがない。
ちなみに、お湯を溜めたいときは、タライに水を入れるしかないのが、ちょっと不便だ。だけど、排水管が無い事で、掃除も楽に出来るし、誤って指輪やコンタクトなどの小さい大事なものを落しても、排水管に入らないし、排水管も詰まらない、というメリットの方が大きいだろう。
と、一連の使い方をミツバに教えたら、ミツバは目を輝かせて、魔石を取ったり付けたりしていた。
子供にとっては、どんなことも遊びに変わるから不思議なものだ。
あんまり、やり過ぎるなよと注意しつつ、俺は荷ほどきの作業に戻る。
しばらくして、ミツバも洗面所から出てきて、荷ほどきの作業を手伝ってくれる。5歳にもなると、こちらが言ってることもキチンと理解できるし、簡単なお手伝いも出来るようになる。と娘の成長に喜びながら作業をしていくと。
「おはよ……」
と、ミツバと同じように、眠たい目を擦りながら、フタバも起きてくる。普段は、活発で行動派なフタバだが、朝は少し弱い。
「フタバ。おはよー!」
「おはようフタバ。顔洗っておいで」
と、ミツバにも言ったことを繰り返し、作業に戻る。
「うん」
と、言って洗面所に向かったフタバだが。
「パパー」
と、すぐに、呼び出されるのだった。
もちろん。洗面台の使い方についてだ。こりゃあ、あと2回は説明しないといけないなと思いながら洗面所の方へ向かうのだった。
案の定、イチノスケは、フタバへの説明が終わった頃に起きだしてきた。
「おはよう。イチ」
もう少し早く起きてくれれば、フタバと一緒に説明できたのになと思いながらも、イチノスケにも、また洗面台の説明をしていく。
イチノスケは、次女のミツバとは、また違ったおとなしさを持っている子だ。消極的と言うか、何と言うか、好奇心はあるみたいなんだけど、基本、恐がり屋さんなので、じっとしている感じだ。その性格もあってか、上の姉二人には振り回されている。だけど、自分の考えはちゃんと持っているようなので、この新しい環境で少しでも積極的に成長してくれたら嬉しい。
俺は、イチノスケに説明した後、再び作業に戻る。
そして、イチノスケが洗面所から出てきたところで、ハナに声を掛ける。
「イチも起きたことだし、そろそろ挨拶回りに行こうか」
「そうね。みんな準備して! 出かけるよー!」
ハナは俺の言葉に頷くと、布団を片付けている子供たちに声を掛ける。
子供たちは、わーとか、きゃーとか言いながら、嬉しそうに準備を始めた。
さて、昨日は二足歩行の牛さんや、羊さんを見たが、今日はどんなファンタジーな住人たちに会えるのだろうと、若干、ワクワクしながら俺も着替えて外出の準備を始めるのだった。
タイトルコールは、三つ子たちが一斉に言っている感じです。