一緒なのね
何の変哲もない荘厳とした平野に佇む一件の家。
いや、家と言うよりも露店に近い、十数年間は立っていそうなこの幻家は、相変わらずの平和な雰囲気を醸し出していた。
「起きろー!」
「うう、もう朝か。」
現がトリを、いつもの大声で目覚めさせた。未だ夢の中をさまよっていた少年は、布団を求めて止まない体を無理矢理起こさざるを得なかった。
キッチンに降りると、そこにはいつもの食卓テーブルがあり、いつもの3人の顔が少年を見ていた。
カチャカチャ。パクパク。
「トリはいつここを飛び立つの?」
カチャ。
宝の質問に、トリのフォークを持つ手が止まった。
「今日にもクラニズムを出て行く予定です。」
トリの一言がキッチン一体をシーンとさせた。
「...そう、行ってしまうのねトリ。」
現とトリのやりとりが終わるとその日の朝食は終わりとなった。
それぞれが自分の部屋に戻ると、トリは幻家の玄関を出て陽の光を浴びた。トリが目をつむって微笑んでいると、
「ばあー!驚いた?トリ?」
現が自分の部屋の窓から顔を出した。
「現...。もうすぐお別れだな。旅はどうだった?」
「最高に面白かったよ。お母さん見つかったし。また冒険したいな...。無理か。」
「...また会えるさ。」
翌朝、トリは出発の挨拶をしようとしていた。
現と械と宝達3人は家の前で出発を見送ろうとしていた。
「御世話になりました。」
「達者でな。トリ。」
「気を付けてね。」
現だけが無言だった。
「おい現...。元気でな。」
トリはペコリと一礼すると、幻家に最初にやって来た方向へと向き直り、去って行った。
トリは星と星の間を移動する転移装置を持っていた。それがトリの星間旅行を可能にしていた。
誰も居ない山中で、それを空へとかざした。
「あれ?反応しない。」
トリは装置を軽く叩いたりして見たが、反応はなかった。
そのとき、山中を眩い光が高速で移動して、トリのそばまでやって来た。
光が人の形に変わっていく。
「ヒヨリノトリですね?」
全身スラッとした黒い戦闘用スーツに身を包んだ男がトリの前に現れた。
ビクッ
トリは、男のオーラに少し気圧された。
「ポートプログラムより参りました、サマです。突然ですが、転移装置管理機関が非常事態で、転移装置が作動しなくなりました。しばらく、この星に滞在してください。」
「一体、なにがあったんだ?」
困り果てる旅人の問い掛けに、サマは述べた。
「今は答えることが出来ません。追って連絡致します。では。」
シュッ。
サマが消えるとトリは立ち尽くした。
トリは途方に暮れていた。
現は庭でしゃがんで花を見ていた。
トリが去ってからちょっとへこんでいた。
視界に誰かの脚が入った。
トリだった。
「もう少しいさせてくれないか?ちょっと訳ありなんだ。」
「トリ。また一緒なのね。」
こうしてトリは幻家に世話になることになった。