魔法使いの成人式
魔法使いの村で、すくすくと育ったリルは16歳になっていた。
背はすらりと伸び手足がすんなりとして女の子らしいシルエットの体つきになった。
金茶色の髪は豊かに伸びて、それを三つ編みにしている。菫色の瞳が綺麗な美少女に成長していた。
魔法学校の制服は12歳からは黒色に代わり、黒のボレロに白のブラウスと赤のリボン。それに黒のジャンパースカートと黒のブーツである。
男の子も黒のジャケットとベスト、それに黒のリボンとハーフパンツ、黒のブーツとなり魔法使いらしい物に変わっていた。
成長するにつれて、魔法の強さや上手さでみんながみんな魔法使いになれるわけではないと気づいたのは12歳くらいで、クラスが分かたれた時である。
リルは幸いな事に魔法使いのクラスとなりマユリたちと共に学んできた。
魔法使いとならない子供たちは魔法使いの村などでこのまま働き暮らす事となったり、魔法使いをサポートする仕事に就くことになる。
いわゆる、職業 魔法使いというのは、魔法使いの長の元で働き者魔法使いの事で、それ以外の魔法能力のあるものたちは魔法師と呼ばれている。
因みに、魔道具は魔法師たちの技である。
木の上の家は、幼い子供たちのもの。リルたち魔法使いの子供は12歳でそこを出て、魔法使いの村にある一軒の家を選んで、そこに習った魔法を行使して新たな暮らしをはじめていた。
材料を買い、料理もする。掃除、洗濯もする。そんな事がいつの間にか出来るようになっていた。
「シェリ」
呼ぶと、リルと同様に立派な竜に育ってきたシェリが降り立った。シェリも独り立ちして竜舎はすでに出ていて、今は仲間たちと竜の谷 (があるらしい)で普段は過ごしていて、リルが呼べばそこから翔んでやって来る。
鞍をつけたシェリの背に乗ると、空を駆けて村のお城、そこに向かう。そこがリルたちが魔法を学ぶ学舎である。
魔法使い村の城 リュティアン城。
そこにはリルたち16歳の魔法使いたちが勢揃いしていく。
みんな黒の制服を着ている。
「おはようリル」
「おはようマユリ」
リルとマユリは昔と変わらず、仲良しである。
「いよいよ、ね」
マユリがリルに話しかける。
まだ独り立ちとはいかないが、大人、と見なされ魔法石が授与されるのだ。これを持ってリルたちはお城に行き本格的な修行を始めることとなる。
「呼ばれたら取りに来て」
魔法使いたちがずらりと並ぶ中、リルはその時を待った。
そして…。
「リシェル・リーナ・エーメ・クロイツェル」
「はい」
「白と紫、ブレスレット型」
左の手首に白と紫の石がしゃらしゃらと揺れるブレスレットがそこにはめられる。
それはリルの魔法能力に合わせて作られたリルの為の物である。
「アランシェット・サフィリス・ルーン・シン・ランカスター・ディナンシア」
「はい」
「赤、青、緑、黄、白、紫、ベルトチェーン型」
アラシだった。アラシはなんと6つの石で、しかもその一粒ずつが大きい、それがベルトチェーンに加工されて美しい装飾となりジャケットの下からちらりとのぞいている。
しかし……名前の凄さとその魔法石にみんながザワリとしている。
「すげ……あいつって何者?」
「6つの石があんだけ大きいし…」
アランシェット・サフィリス・ルーン・シン・ランカスター・ディナンシア………。名前の多さは身分の高さと能力の高さを表している。
子供の頃からアラシは他の子供たちと違った。やはりなとみんなそう納得している。
「アラシの名前、なっが」
マユリはぼそっとそう言っただけである。
くすっとリルはマユリらしいなと笑った。
「リマリュール・ユリア・ルーサ・アルフェンナ」
「あ、はい!」
「赤と黄、ネックレス型」
マユリのはすっきりとシンプルでペンダントトップに2つの石がついている。
全員の分を配り終えると、次は修行に向かうにあたっての説明がされる。
「ペアを発表する」
先生が名前を読み上げていく。ペアになるとこれから修行をするにあたって、二人一組で行動することになるのだ。
「マユリとジル」
「「はい」」
ちょっと豪快なマユリと冷静なジルは良いペアだとリルは思った。
「シオンとディオン」
「「はい」」
シオンは正確でディオンは緻密なタイプ。お互いに良いように行動できそうだ。
「ティナとキリオン」
「「はい」」
ティナはちょっとそそっかしいが、キリオンは慎重すぎる位のタイプ。派手と地味。真逆過ぎて上手く行くのだろうか…。
まだリルは呼ばれてなかった…。
「最後、アラシとリル」
「はい」
「え…」
リルは驚いた。だって…あまりにも実力差がありすぎる。
アラシにジロリと見られてリルの心臓は跳ね上がった。
もう何年もアラシと満足な会話をしてこなかった。
「おい、いくぞ」
低くなった声がより迫力を増していてリルはビクッとしてしまった。紫の眼も鋭くて、背もリルよりも高く男の子らしくなっている。子供の頃とはあまりにも違う……。
「ど、どこ、に」
「………聞いてなかったのかよ。ボケッとしてんな」
「ごめんなさい」
「城だ」
当たり前の事なのに、リルは動揺していたらしい。
「あ、そ、そうね」
ひさしぶりに話すアラシにリルはドキドキしてしまう。
「リル」
「はい!」
「いちいちビクビクするな、目障りだ」
そんなやり取りに、ボソボソと
「リル、かわいそう。アラシ最低」
「あんな言い方ないよね」
と聞こえてくる。
「あ、ごめんなさい」
リルは慌ててアラシの後に続いてリュティアン城を出て、シェリを呼ぶ。
シェリとアラシのリドールが仲良く翔んできた。
「いくぞ」
急かすように良いながらも、アラシはリルが乗るまで待ってくれている。
やはりアラシは変わっていない。とリルは少しホッとする。
「ちょっとアラシ!リルを苛めたら許さなぁい!」
マユリが同じように、竜のギンを呼んで乗ろうとしながら叫んだ。
「マユリ、喧嘩の相手は選んだ方がいいぞ。アラシにはもうちょい冷静にならないと絶対に瞬殺される」
ジルが冷静にそういっている。やはりマユリとは良いコンビである。
「それはわかってるけど、あの態度はないと思うでしょ!?」
「お前が怒ってどうする。リルがちゃんとアラシにそれは言わないと、ほら。いくぞ」
バサッと翼を広げてジルとマユリが飛び立つ。
「……いくぞ」
再びアラシがそう言ってリルを促す。リルはシェリの鞍にしっかりと乗ると、アラシと共に空に飛び立った。
村から城までも竜に乗れば瞬く間に着いてしまう。
前を行く仲間たちの乗った竜を追うようにリルも向かっている。
やがて大きくなっていくミルトルド城にリルはこれからの事を考えると、不安と期待でドキドキが止まらない。
ちらりと横を翔ぶアラシを見ると、何を考えているのか全くわからない。しかし、そのストイックな顔は凛々しくて美しい。
襟足だけを伸ばしてくくっているのは男性では魔法使いならではの特徴でもある。
リルはアラシをずっと見てきた。話せなくなってからもずっと…。アラシがリルを嫌ってるから、リルは近づくのをやめた。
(よりにもよって………トロい私とペアなんてアラシは腹立たしいだろうな…)
しかしなぜシオンじゃなくてリルだったのかな?と思う。他の生徒たちならアラシと喧嘩腰になったり逃げ出したりして無理だっただろうけど、幼い頃よりアラシに誰よりも近かったシオンなら上手くいっただろうに…。




