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魔法使いの掟

お城の竜の庭で、ジルと通りすぎる事もあったけれど、ジルもリルも目線すら合わさなかった。

ジルは優しいけれど、プライドも高い。リルから話しかけなければ、きっと赦さないだろう。


「ねぇ、リル。どうしたの?」

マユリがこそこそと話しかけてくる。

「ラブラブなリルとジルはどうしちゃったわけ?」

「…もう、関係ないの」

リルが言うと、

「なんだかわからないけど、早く仲直りしたら?話ならいくらでも聞くし。あ、今度の休みにうちにくる?」

「考えておく。ありがとうマユリ」


リルはいつものように、後宮にシオンと向かう。

「…元気ないね?」

「そう?いつも通りよ?」

リルは笑顔を向ける。


「そうは見えないけど?何年の付き合いだと思ってるわけ?」

「シオンは心配性なんだから…だから、アラシの事もほっておけなかったのよね」

「と、言うよりは…近くで見たかっただけかな…。アラシには邪魔だっただろうけど」

「仲良しに見えたわ」


「うん。やっぱりさ…同じ年で男だと、凄いなって思うと共に、負けたくないって思うわけ。それで、なるべく近くにいようって思った」

「そうなんだ…。なんだか、ジルも同じような事を言ってたかも」

「ジルもかなり頑張ってたよな、今もだけど…アラシとジルは、俺たちの年で断トツの実力だと思う」

「そう、だよね…」

ジルの名を聞いて、リルの思考は彼の事で埋まりそうになり気のない返事になってしまう。


「何があったか、知らないけど、俺でよければいつでも話して。これでもたぶん、少しくらいは頼りになるはずだから」


そんなリルの様子にシオンは慰めるように言う。

「悪いのは、私だから…優しくしないで」


泣き笑いのような顔になってしまうから、リルはうつ向いた。


「おはよう、シオン、リル」


いつものように、華やかなドレス姿のカイルが前から歩いてくる。

「おはようございます、カイル様」

「おはよう、リル」

カイルの後ろから、フェンナも顔を覗かせる。

「リル、お昼過ぎにはお茶にこれる?ヤーナとエメリも誘うから」

「わかりました、ご一緒させて頂きますね」

リルは笑顔で応じた。


「…こうして、お茶をするのももう、最後かも知れないよなぁ」

シオンの何気ない言葉にリルはドキリとする。

「え?」

「ほら、一人前になったら…また変わるかも知れないだろ?」

「あ、そうね…もうすぐ…」

「やっとおたまじゃくしじゃなくなる」

くすくすとシオンが笑ってる。


いつものように、見廻りを終えてお茶の時間には蘭の宮にリルは行く。

「リルももうすぐ、こんな風に気軽に誘えなくなっちゃうのね」

エメリが残念そうにいう。

「気軽に、出来ません?」

「だって、魔法使いってやっぱり近寄りがたいわ」

確かに、みんなキリリとしていて隙がないように見える…。

「そうね、魔法使いは臣下じゃないって育てられてるものね。魔法使いは魔法使いっていう、別世界なんだもの」

フェンナがお菓子を食べながら呟く。

「確かに…従うのは王だけと、言われますね…」

だからこそ、こんな風に同席も許されるわけなのだが…。その分魔法使いの掟と長には従わないといけない。

「リルはあの制服似合わなさそう!」

「確かに、リルにはもっと柔らかな色の方が似合いそう」

ヤーナがそうリルを見つめていう。

華やかな少女たち。

リルとは違う世界にいる少女たち。

この出会いが…リルを変えた、そのうちの一つなのかもしれない。

フェンナ…。カイルと、そしてアランことアラシの妹…。


別れ際にリルはそっと手紙を渡した。

「フェンナ様…これを、カイル様にお願い出来ますか?」

まっすぐな目がリルを見つめている。

「必ず渡すわ」


カイルと、フェンナの気持ちは同じであるとその瞳が語っている。



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