5人の王子
「ゴーント侯爵の姫のエメリだ」
華やかなレースのドレスを着ている女の子だ。金髪と青い瞳のいかにも貴族といった雰囲気の美少女である。
優雅にお辞儀をするその姿は洗練されていて品がある。
…この少女はつまりは、ジルの妹だ。
「まだ14歳と若いが、将来的に王妃となってもらうつもりで蘭の宮に入ってもらう。エメリ、後宮で王子たちのなかから誰か一人選べ」
「わたくしが、ですか?」
「それでよい」
コウガば平静にみえるが、イライラとしているようにも思える。次の王を選ぶというのに少しばかり無責任に思える。
エメリは瞳をしっかりとコウガに向けている。意思の強そうなエメリは、容姿は後ろに控えている母親と良く似ている。父のゴーント侯爵はジルとどことなく似ていた。
「アラン王子は選ばせてもらえないのでしょうか?」
エメリがふいに言った。
「なんだと?」
「噂では、どなたも問題があるとか…。それならばアラン王子を呼び戻せないのですか?」
「出来ない。四人から選べ」
不快そうに眉をひそめた。
コウガはマントを翻して立ち上がる。
「なんども言わせるな。アランはもういない」
「陛下、ここはそれを変えられるべきでは?昔、魔法使いを保護するようになったように、魔法使いも魔法をもたない人と同じ世界に生きていけるように」
「ケネス」
「私も息子をこの手に取り戻したい」
「くどい。そんな事をしてみれば、また保護する前の状態に戻るだろう」
「だからこそ、少しずつ魔法使いと街で暮らす人との距離を縮めるべきでは?その為にもまずはアラン王子を再びお城に戻されて、魔法使いに免疫のある貴族たちから交流させるべきではありませんか?」
「…魔法使いによる戦争が始まっても構わないと?」
コウガの厳しい声がケネスに落とされる。
「誰だとて我が子は愛しいものだ。しかし何年たとうと自分達と違うものには人は厳しい。そして…この魔法使いたちを野放しにしてしまうのは…」
ちらりとコウガの目がリルたちに向けられる。
「あまりにも危険だともいえる」
リルは目を伏せて、その言葉による衝撃から声をあげてしまうのを必死に押さえた。
(危険…)
「その昔…。魔法を持つものは、隠されそして殺されていった。その方が良かったとでも?」
「…いいえ、しかしそれからもう時は過ぎ、魔法使いが危険だとは思われておりません」
「ケネス。それは貴族たちの発想だ。民衆たちはそうではない、魔法使いなどお伽噺だからいいのだ。私もお前も、子供を亡くした…それは不幸な事だ。しかし、起こり得ない事ではない」
「わかっております。しかし、アラン王子も息子も…どこかで生きています」
「止めよ、ケネス」
「…は…」
「蘭の宮はすでに準備を整えている。あとは魔法使いたちにまかせよう」
いけ、と手で払われる。
ゴーント侯爵一家と魔法使いたちは、後宮へと向かう。
蘭の宮に歩く途中、エメリはリルに話しかけてくる。
「ねえ、あなた名前は?」
「リルといいます」
「その服…魔法使いの見習いなの?」
「そうです。もうすぐ、正式に魔法使いとなる予定です」
「そう、今何歳なの?」
「16歳です」
このやりとり…つい最近も…と嫌な予感がしてくる。
「そっちの彼も?」
「そうです」
シオリも笑みを浮かべて言う。
「あのね…私の兄も…魔法使いなの。知ってる?」
「そうでしたか」
シオリはエメリに笑顔を向けた。
「それでは私たちもどこかでお見かけしているかも知れませんね」
と言い、この話しは打ちきりという雰囲気である。
「そうでしょ?兄はね16のはずよ、同じ歳でしょ?ね、アールお兄様…知らない?」
「申し訳ございません。わかりません」
リルもシオンも首を振った。
(…アール…それが元の名前…)
シオンに至っては本当にわからなさそうである。
リルにしてもジルから聞いていなければわからなかったと思う。
蘭の宮は後宮でも中心からは少し離れた所にある宮である。
侍女達が侯爵一家をみて、一斉に腰を折ってお辞儀をして出迎える。
ここにはエメリと、侯爵夫人のマロリーが共に住むのだ。
10年月日がたとうと、皆が忘れずにその存在を求めている。王子たちも、この侯爵家の人達も。
アラシはこの事をどう思うだろうか…。ジルはどう思うだろうか…。




