王子たち ②
「ア、アイラさん…これは一体…」
「困るわよねぇ…」
ほわんと微笑みを向けるその顔がやっぱりとても胡散臭い。
「あ、魔法使い!こっちよ!手がつけられませんの」
侍女が走ってくる。
今度は一体なんだと思いながら、侍女に呼ばれて一室にいくと
「イヤー!」
と女性のけたたましい声が聞こえてくる。それと共にガシャーン!と音がしてくる。
「ああ、魔法使い!どうかお願いします!」
「まぁ、今日はまたどうされたのでしょうね?」
アイラは相変わらずの笑顔で部屋のなかに入っていく。
中には少年だか青年だか…まだうら若い男性と、そしてわんわん泣き叫び髪は乱れ、あられもない格好の女性。
「すみません止めさせてもらいますね」
にこにことアイラは
「暴れられては怪我をされますよ」
「わ、私が何をいたしましたの!?クオン様!も、もうお別れなんて…!!どうしてですの!…私を愛してると仰ったのに!」
女性はわあわあと叫んでいる。
クオンと呼ばれた青少年は夜着がはだけた鍛えられた上半身さらしたしどけない姿
「うん、もう飽きちゃったんだよね~君」
「そ、そんな…私だけだと…私で終わりにすると仰ったのに!」
べしょべしょと泣きじゃくる女性は、控えめに表現しても頭がよさそうに思えず、この態度からしてとても王子さまのお相手には相応しからぬと思えた。
よくもまぁ、こんな思い込みの激しい女性を遊び相手にしたのやら…。リルは顔がひきつるのを止めるのに必死であった。
「その時はそう思ったんだけどねぇ…」
リルはややげんなりとしてしまった。
クオン、つまりは第三王子。揃いも揃って、どうしたというのか…。
「リル、鎮静の魔法を」
シオンがリルに言った。
「分かったわ」
リルは紫の石の特徴でもある癒しの魔法を彼女に向かって放った。
ふっと女性の力が抜けてアイラの拘束の魔法も解かれる。興奮していた女性はそのまま崩れ落ちるように倒れ付した。
「それ、いいわね」
ニコッとアイラが笑ってくる。
「さぁ少しこのままお休みになりましょうか」
ぼんやりとしている女性は泣きじゃくった後で、ぐしゃぐしゃだったが、可愛らしい顔をしている。そのまま、部屋に控えていた騎士がガウンを掛けて抱き上げて部屋の外へと連れ出していく。
部屋の中はありとあらゆる物が荒らされていて、片付けるのは大変そうだ。
魔法の家なら簡単に片付くが…。
アイラは軽く首を振る。ここではその魔法を使う必要はないということだ。
「クオン様あの女性はいかがいたしますか?」
ユアンがクオンに聞いた。
「いつものように頼むね」
ニコッと笑う顔は罪が無さそうに無垢であるが、それゆえに残酷だ。美しい金髪と紫の瞳のまるで天使のような美しくてうっとりとさせられる容姿である。
いつものように…つまりは度々このような事を引き起こしているのであろう…。
ユアンはその女性を抱き上げると、騒ぎに駆けつけた騎士に託した。
そしてその後は後宮の端まで歩いて、魔法結界の装置に不備がないかをチェックして廻る。魔道具の一種であるが、魔法をこれで維持してくれるのだ。
「…揃いも揃って、面倒なご兄弟ですね…」
シオンが至極冷静に感想を述べた。
「そうね、困ったものだわ…」
「あともう一人、王子がいらっしゃるのでは…」
「第四王子のルルド様はもうここ何年も誰も姿を見ていないわ。生きてはいらっしゃる様だけれど」
「引き込もっていらっしゃる?」
「そう、困るわよねぇ~」
「…あと、もう一人…」
リルはポツリと言うと、
「それはもう、公的には亡き人と等しいわ。そうでしょ?」
アイラの言う通り、アラシは魔法使いとして生きている。
これでは…次の王位が難航しているのも仕方がない…。
リルの想像とはかなりかけ離れていたけれど…。




