彼は王子
リルは、先輩の魔法使いのアイラとユアンに後宮入口近くにある魔法使いの詰所で対面した。
「リルね」
にっこりと微笑むアイラは、穏やかな表情の女性で柔らかなその雰囲気はほっとさせられる。ユアンは同じような雰囲気の男性魔法使いである。
リルとそれからもう一人、幼馴染みのシオンが一緒に後宮で修行をはじめる事になっていた
シオンとはここに来るまでに、少しだけ話をしてきた。
「後宮か…これからが大変か…」
「何の事?」
「リルはこの後宮にお住まいの方々の事は分かってるよね?」
シオンがヒソヒソと話しかけてきた。
「国王のコウガ陛下、第一王妃のメルサ様、第二王妃のセリーヌ様、第三王妃のユナリア様、第四王妃のシオリ様 それと王子様、王女様たちよね?」
「そう、それぞれに王子様たちも成長されているが…その分…次の王位継承を狙ってそれぞれが争う可能性があるんだ」
「…兄弟なのにね…」
リルは習っただけの知識にため息をついた。
「トウハ様とカイル様は18歳同士で同じ年だ。それにクオン王子とルルド王子も17歳だから、僕らとも年頃が近いからこうしてここに派遣されたのかもしれないね」
シオンは少しばかり厳しい表情である。元々王子様的にきれいな顔をしているのでそういった顔をしていてもとても絵になる。
「リルは…気づいてたかな…。アラシの名前の事」
「アラシ?」
その名を聞くとドキリとしてしまうのは、やはりアラシがリルに特別な感情をまだ持っているからだろうか…
「アラシはね…第五王子アランだよ。ディナンシアは王族の名前だ」
「…あ…」
「僕は…名前を聞いて気づいた。魔法使いたちの中には気づいた人もいるだろうね」
「どうしてシオンはその事を知っていたの?」
「僕は地方領主の息子だから、多少はその頃の知識がある。それだけだよ」
「…最近…みんなの出自を聞くと…やっぱり私とは違うものなのね」
魔法力と関係はないはずなのに、やはりリルのように、エリートに属する魔法使いに庶民は少ない気がしてくる。
「私は本当に庶民だから」
「関係ないでしょ、元の身分なんてさ。6歳から一緒に暮らしてるのにそんなに違う人間に思える?」
くすっと笑われてリルは頭をふった。
「リルは魔法使いだ、その事実は変わらないよ」
シオンのその言葉にリルは、少し目線が上にあるシオンの顔を見上げた。
「シオン」
「なに?」
「…頼りにしてます…」
「はい」
クスクスとシオンは笑いながら答えた。




