安らぎと香
不思議なもので、ジルとつき合うになってからというものリルの魔法の力はとても安定して思うように使いやすくなっていった。
リルの魔法石は白と紫。紫の石というのは、闇の力とも評されていて人に安らぎや癒しをもたらすと共に扱いづらい一面も持っている。そのためか、この石を持つ魔法使いは少ない。
リルが大人になりつつあるからか、その紫の石の力が出しやすくなってきたのだ。
ちなみに赤は炎、青は水、緑は大地や植物、黄色は金属、白は風や光と言われていて、そのイメージで魔法を構成することが多いのだ。
「リル…なんか匂い…強くなってるな」
アラシがそう言ってきた。
「…そんな事を言われても、何もしてないから」
リルは少しむっとして言い返した。
「アラシ、またそんな事言って」
トウリが呆れながらそう言ったが
「あ、でも確かに…なんかいい匂いがするよ。リルちゃん」
「え?本当ですか」
自分では全くわからないけれど、
「なるほど、確かに花みたいな匂いがする」
「隠密行動は出来ないな」
ははっとナルドが笑った。
「アラシもいい匂いがするってこういう時には言うもんだよ」
そう言われると気になってきて、リルはお城で見つけたマユリに駆け寄って聞いてみた。
「ねぇ、私って匂う?」
「あ、なんかいい匂いがする、香水?」
「…やっぱり匂うんだ…どうしてかな…」
「つけてないの?」
「仕事なのにそんなのつけないわよ~」
くんくんと鼻を動かして嗅いでくるマユリにリルは幼馴染みの気安さで抗議した。
「気になるならダガーさんに聞いてみたら?あれでも長なんだから」
マユリが人差し指を立ててくるくるさせてそう言った。
「なーんか、香りのせいかな?そのピアスのせいかな?なんかリル、ものすごく女らしくなったね」
「そう?」
「うん。なんかムラっとしちゃう」
「なに言ってるの~」
プッとリルは吹き出して笑ってしまった。
マユリに言われて、リルは思いきってダガーの執務室へ訪ねていった。
「あれ?どうかしたの」
「私、なんだか匂うみたいなんですけど…」
ん?と首を傾げてダガーはリルを見た。
座って、と促されてリルはそこに座った。
「…うん、確かにいい香りがしてくるね。嫌なの?」
「…気になります…アラシは、なんだかとても嫌そうにするし」
「うーん?なんでいやかな、アラシは」
ダガーは目の前の椅子に座ると
「その匂いは、君の多分魔法の力みたいなものかな。たぶん、なんらかのきっかけで香をそうやって身に纏ってるんだな」
「魔法…」
「もしかしたら、大人になりつつあるということかも知れないね。花がちょうど蕾から咲くように、リルもそういう時なんだろう」
「そういえば…花になりたいって思ったりもしました…」
「多分その時に、知らず知らず魔法を使ったんじゃないかな?放っておけば治まるはずだよ」
ニコッとダガーが笑ってくる。
「男が花の香りを纏ってると変だけど、君は女の子なんだから気にしなくていいんじゃないかな?」
「そういう、ものですか…」
何となく納得のいくような…いかないような…。
「なんにせよ、長としては魔法使い同士の恋愛は歓迎したいところだな」
「…歓迎なのですか?」
「うーん。どういうわけかね、魔法使いには恋愛音痴が多い。こちらとしては、魔法使い同士の間に魔法使いが生まれやすいのか、そうでないのか知りたいところなんだが、何故か女性の魔法使いもみんな魔法に拘り出すし。ただでさえ、一緒に育ったせいか、みんな家族みたいになっちゃっててさ…。まあ、俺もまぁ恋人もいないんだけどなぁ…」
とポリポリと額をかいた。
「…でも、それと私がどう、関係しますか? 」
「だって、恋してるんじゃないの?リルは」
「…そう、なんでしょうか…」
リルはくすっと笑ってしまった。
恋なのかどうなのか…。もしかしたら、雰囲気にあてられているのかも知れないし。
「それは、置いておいて。リルに提案があるんだが…」
「はい、なんでしょうか?」
「ナルドたちの話も聞きつつでの判断なのだけどね…君、内勤してみないかな?」
「内勤、ですか?」
「つまりは…通称、後宮での仕事だ。王妃や王子、王女達が住まう所であるんだが、まあ、だからこそ、といってはなんだが…とても魔法使いの必要としている場所でもあるんだ。君はとても繊細な魔法を使うと聞くし俺もそう思っている。後宮での仕事の方が向いているかと思ってね」
「私は…」
ふとアラシの顔が浮かぶ。
「わかりました」
リルはそううなずいた。




