魔法使いのデート
ジルと約束をした休みがやって来た。
リルはクローゼットの中から、街を歩くのにふさわしい女の子らしいピンク色のワンピースを身に付けた。
マユリと一緒に買ったリップクリームをつけると、少し明るく顔が彩られる。いつもは1つに三つ編みにしている髪も、下ろしてサイドを編んで後ろで1つにくくる。
『リル、外で待ってるよ』
ジルの声がリルに届けられた。
「すぐに出るわ」
アラシのユヅハのペアは一日だけだった。
それでもリルの意識に、アラシがリルとのペアだと本領が発揮出来ていないのだ、ということをまざまざと焼き付けさせて、その日からのリルは修行が全く楽しめなくなってしまった。
しかし、皮肉なことにアラシの言いたいことはわかるようになってきたからか、ペアとしては以前よりも今何をしなくてはいけないのか、というのが分かるようになってきていた。
リルはそんな日々を過ごしての、ジルとのデートを迎えていて、仕事でない、初めての村の外を楽しむ事にするしようと思っていたのだ。
「お待たせジル」
ジルは、ジャケットとズボンでも少し碎けた感じの服装で、お洒落な雰囲気でそれを着こなしていた。
少年から青年へと移り変わる、首もとには喉仏が出来て、手足はすらりと長くなり、細いながらも肩幅もしっかりとしていている。
一方のリルも、胸のしたで切り替えのあるワンピースは少女らしい胸の膨らみとくびれたウエストを強調させていた。
「なんだかお互いに、制服以外はひさしぶりにみるね」
ジルが上から下までリルを見つめた。リルもまたそんなジルをしっかりと目に焼きつけた。
「そうね、本当に」
クスクスとリルも笑った。
思えばここ何年も、学校でしか会っていなかった。だから制服しか知らないのだ。
「一緒に乗ろう」
ジルは、ジルの竜 フリードをすでに呼んでいて頭上を旋回している。
「え、一緒にって」
「行くよ」
ジルは有無を言わせずに、そっとリルに近づいて腰に腕を回すとそのまま二人で浮遊してフリードの背に乗った。
その力強い魔法にリルはジルが見た目だけでなく、魔法も成長したのだと感じさせた。人二人を浮遊させることは簡単ではない。魔法の強さも、そしてそれを使いこなすだけの能力が必要になる。
「二人分も…」
「男だからね、アラシには負けてられない」
キラリと青い瞳が煌めいて、意思の強さがリルにも伝わる。
「たくさん、頑張ったんだ…」
ジルは微笑むと
「…目の前に、あんなやつがいるとね。正直敵わないと思うと同時に負けてられるかと思うよ」
ジルはそういうと、リルを後ろから支えつつ鞍をしっかりと持つと
「じゃあ今日はマルルートに行こうか」
腕と背中に触れる体温が、リルに鼓動を速くさせる。
(どうしよう…)
1つの鞍に二人で乗ったのは本当に子供の頃の事。
リルの腕に微かに触れるように回された腕は力強く鞍を持っていて、骨ばった手がリルの細く繊細な手との違いを感じさせる。
「リル、緊張してる?」
「…してる、と思う…」
ぶわっと顔が赤らむのが分かる。
声が…近いのだ。それも耳から近くて…低い響きが耳を刺激してぞくりとさせられる。