花になりたい
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「リル、今日は悪いがアラシのペアにユヅハをつけてみたいんだ」
ダガーがやって来てそう言った
「はい、では私は…」
「リルは今日は二人についていってほしい」
「わかりました」
ユヅハは、2つ年上の魔法使いでアラシと同じく6つの魔法石をもつ強い魔法力がある。黒い髪と金の瞳が綺麗だ。
「ごめんねリルちゃん。どうしてもさ、アラシの力を間近で見たくって」
ユヅハはそう謝ってきた。
「いえ大丈夫です」
リルは釈然としないものを感じつつも微笑みを浮かべた。
同行して、リルはそのアラシとユヅハのコンビネーションに舌を巻いた。
今日の現場は魔法の歪められた建物の調査であった。
トウリとナルドもついているが、今回に関してはアラシとユヅハの二人に任せられた。
はじめてなのに、リルとは段違いに事が進んでいく。
扉には封印があったのだか、アラシが一瞬で現した封印の鍵をユヅハが瞬く間に開けてしまう。
防御を張る以前に、原因となっていた歪んだ魔道具を見つけた瞬間に二人して壊してしまった。
お互いにどちらが防御とか攻撃とかはないが、とにかく一瞬で方がついたのだ。
リル相手ではアラシはここまでスピーディーに事を運べなかっただろうと思わせるのだ。
「キミ、やっぱりスゴいね!私と組もうよ」
にこっとユヅハがアラシに言っている。
今は修行という事で、アラシとリルは組んでいるが本来は今いる魔法使いたちの中から選ばれるのだ。
「そうですね、やっぱり私ではここまで頑張っても速く出来ませんでしたから」
「ごめんね、リルはリルで良いと思うんだけど、やっぱり相性ってあるだろ?」
にこっと微笑みつつユヅハが言っている。
「はい」
リルは微笑んだが、こんなに誰かをいらだたしく思ったのははじめてだったし、無力感に苛まれた事もはじめてだった。
どこかに…。自分でもサポート的な魔法使いなら自信が持てるのではないかと思っていたのに。
実力の差を見せつけられたのだ。
ユヅハがアラシに話しかけている。魔法の構築の話は、リルには理解不能でますますリルを落ち込ませた。
(この場から…立ち去りたい)
リルはもう、アラシとユヅハを見ていたくなかった。
アラシの紫の瞳は、リルを映さない。ペアでない今日は、リルを見る必要さえないのだ。
建物を調べ続けている二人から離れた所で、リルは昔から悲しくなったときに慰める癖で、大好きな花を身の回りに踊らせた。実体はないけれど、花の香りが両親を思い出させてその柔らかな花びらに触れるとささくれそうな心が慰められる。
くるくるとリルの周りを回った花たちは、その風にのって高く高く空へ上がっていく。
「どうした?リル」
「ナルドさん、いえ…。単に私は花が好きなので…見たくなるのです」
「そう、綺麗だね」
「私…」
(花になりたい…)
「なぜ魔法使いなんでしょう」
こんな魔法…役にたたないのに…。
「落ち込むことはない。アラシやユヅハは別格だ、トウリや俺をみてそんな風に落ち込むか?」
「お二人ともとても息がぴったりです」
「そうだろ?魔法使いに正式になったら、リルに合う魔法使いと組めるから、安心しろよ、な?」
「はい、ナルドさん」
ナルドの慰めに、何も心は慰められなかったけれどリルは微笑んだ。
(私たちは、もう子供じゃない…)
こんな風に、訳のわからない感情を抱くほどに…。