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洞窟と、ふたりごはん

 例え竜がいるとはいえ、こんなにあちこちに文字通り飛び回るなんて魔法使いはなかなか大変な仕事である、とリルは身をもって体感していた。


次の仕事は森の迷う道か……。

「迷うだけで、実害はおきていない。厄介ではあるが、迷いにいってみるか」

トウリがそう言い、ナルドもそうだなと同意した。


洞窟のは違い結界も何も張らずにトウリとナルドが森に足を踏み入れて、リルとアラシも後に続く。

森は迷うという話があるために、通行止めの札がたてられていて行き交う人は誰もいない。

足を踏み入れた森は、なんて事ない小動物があちこちに姿を現すいたって平穏そのものの森の様子である。


人が行き交う事で出来た道は分かれ道もほとんどない一本道で迷いそうもない。


すると…しばらく進んだ所で魔力を帯びた霧が出てきた。

視界を遮るほどではない。薄く沙がかかったように、朧気に風景を隠す。

「これか…」

アラシが呟くと、リルとアラシはこれまで歩いていた道と全く違う道を歩いていることに気づいた。

「なんだ…」

ピタリと足を止めた。ついさっきまでと向きが違う?太陽の向きが変わったのだ。

そして前を歩いていたはずのトウリたちともリルははぐれてしまった。

「はぐれたな……」

リルは呆然とした。

「そんな――」


「手、かせ」

ぶっきらぼうにアラシはそうリルに言う。

「手?」

唐突過ぎてリルは思わず聞き返した。


「これ以上はぐれたら探すのが面倒だ」

つまりは……。手を繋ごうと言っているのだ……。と理解するのに一拍かかる。

またトロいと怒られてしまいそうだ。


リルは伸ばされた、そのリルよりも大きな手を握った。


(手……繋いじゃった……)

リルはその大きくて暖かい手にドキドキするのになぜか安心してしまう。


「なかなか厄介だな」

アラシはそう言うと、木に印をつけた。迷った時にちょうど出てきた道である。しかし歩き出すとまた道は転じて、さ迷っている。一体道は、どれくらいあるのか…。


「迷ってるな……完全に」

アラシは仏頂面なのに面白そうに目を輝かせている。


「魔法の霧…迷う道…」

リルはそう呟いた。

魔法石を胸に当てる。魔法石は、使用する魔法の精度をあげて、意識的に使う魔法での体力の消耗を助けてくれる。

自分に合わない魔法石は効果も薄く、また石の力が大きすぎても扱いづらくなってしまう。その為に一人一人に誂えるのだ。


「晴らせ霧を………」

リルがそう唱えると、ほわっと道に歪みが見えた。少しだけ本来の道が現れたようにも見えた。


「あそこか」

アラシがそこに歩み寄ると、緑の蔦のようなムチを具現化させて凪ぎ払った。

さぁ、と一瞬霧が晴れて、本来の道が表れる。


そして再びその道にの先に、トウリとナルドを発見する。彼らもどこかに迷っていたようだ。見えなかっただけで近くに居たようである。

彼らと合流すると

「どうやら古い魔術が残っていてそれが年月をへて歪んだようだ。それを正せば道は正常になるだろう」

とトウリが言った。

「さてやりますか」

ナルドがおどけて言うと、虚空に腕を向けて

「歪みを戻せ」

と、魔力を込めた。


するすると、歪んだ道がなくなっていく。霧がふわふわと漂い小さくなっていく。

「トウリ、頼む」

「任せとけ」

トウリが天に向けて、光を放つと森は清々しい空気を取り戻した。


「…すごい…」

リルはさすがだと感動した。トウリとナルドの二人の息のあった魔法はペアだからこそだと感じさせない。


「うへ…疲れたなもう」

ナルドがぶつくさと呟いた。

「さぁー帰って一杯やろうぜ」

ポンポンとトウリがナルドの背中を叩いた。


繋いでいた手が、温もりを失って少し切ない。


シェリが今日何度目かの呼び出しにも文句も言わずに応えてくれた。

「ありがとねシェリ。後で(たてがみ)といてあげるね」

『ヨロシク、リル』

とそう聞こえる。

そっと鞍にのって首を撫でる。


「二人はもう帰っていいぞ。明日また城に来い」

「アラシはちゃんとリルを送るんだぞ」


アラシははぁ、と生返事をしてトウリとナルドを見送った。

「帰るか…」

薄暗くなってきている空に、リルとアラシは並んで飛び立った。


「アラシ、今日はありがとう。足を引っ張っちゃってごめんね」

緊張しつつリルはアラシにそう言ってみた。


「ちゃんとやってただろ?真面目にしてたんだから謝る事なんてない」


アラシはそう言ってくれた。

その事が舞い上がりそうになるくらい嬉しい。

「……ご飯、一緒に食べるか?」


「いいの?」

まさかアラシがそんな事を言うなんて… リルは驚きすぎて瞬きを忘れた。

「明日倒れたら足手纏いだからな」

アラシらしい言い方だなとリルは微笑んだ。コレがなかったら、ものすごく人気者になるだろうに…。

「ありがとう、アラシ」


魔法使いの村に戻ると、とっぷりと夜は更けていた。

いくら魔法使いとはいえ、食べるものを無から現す事は出来ない。どうするのかと思っていたら着いたのはアラシの家である。


アラシの家は、とてもシンプルできちんと片付いている。

「待ってろ」


調理は魔法であっという間に完成する。

さすがアラシはなんでも速いなと、リルは感心してしまう。

「簡単なのだけどな」

パンと煮込み野菜と焼いた肉料理。


「ありがとうアラシ」


(信じられない………昨日まで何年も…話していなかったのに…今日1日で何年分話したのかな………)


「悪いな…俺がペアで」

ほとんど食べ終わった時点でふいにアラシがそう言った。

「え?」

「嫌がってただろ?」

「まさか……アラシの方が私の事、嫌ってたでしょ?ずっと…避けられてたし………」

「嫌ってる?俺が?」

「私、トロいし。アラシこそ、シオンがペアだったら良かったんじゃないかなって…私で悪いなって思ってた」

「…嫌いじゃないし。嫌だとも思ってない」

「そっか」

嫌いじゃない。と言われてリルは少しだけ心が軽くなる。


アラシの作った料理はとても美味しかった。

「ありがとうごちそうさま」

「送っていくよ」

「村の中よ?」

「そういうものだろ」


女の子扱いが何となくくすぐったくて、リルは微笑んでありがとうと素直にお礼をいい、送られる事にした。


家はそれほど離れていない。魔法使いの足なら、すぐに着いてしまう。けれど珍しくリルもそしてアラシもゆっくりと歩いた。

見慣れた村の中、夜道を二人並んで歩くけれど、何の言葉も話さない。

「じゃ、おやすみなさいアラシ」

「ああ、じゃあな」

アラシは帰りは跳ぶように帰っていった。

相変わらずのそっけなさだ。その事が残念でもあるが、アラシらしいなとリルは思った。



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