キリギリスとアリ
イソップ先生、ごめんなさ…い…ガクッ。
あるところに、たくさんのキリギリスたちとたくさんのアリたちが暮らしていました。
アリたちは、春になるとせっせと働き始め、夏の間も、秋の間もずーっと働き続けて、食べものを巣の中にため込んでいきました。
それに対して、キリギリスたちは、自分たちが食べるとき以外は、ずーっと歌を歌って遊んでいるように見えました。
あるとき、アリの一匹がキリギリスの一匹に忠告しました。
「そんなに遊んでばかりいないで、少しは食べものをためるために働いたらどうだい?」
それに対して、キリギリスは答えました。
「ぼくたちは、ただ遊んでいるわけじゃないよ。ほかの虫たちから、話を聞いているのさ」
キリギリスたちは、歌を歌ってほかの虫たちを楽しませる代わりに、いろいろな話を聞かせてもらっていたのでした。
「それが何の役に立つんだい?」
「遠くを旅するイナゴくんたちの話だと、北の方の寒い所が、毎年毎年どんどん広がっていて、冬が長くなってきているらしいよ。このあたりも、今年の冬は長くなりそうだって言っていたんだ。それで、渡りチョウさんたちに聞いてみたら、遠い南の方にはもっと食べものがたくさんある土地があるらしいよ。ぼくたちは、そこを目指して旅に出ることにしたんだ。どうだい、アリくんたちも一緒に行かないかい?」
キリギリスの誘いに対して、アリはちょっと考えてから答えました。
「なるほど、話を聞くことが大切だというのは分かったよ。だけど、南の食べものが豊かな土地は遠いんだろう? みんなで無事にたどりつけるのかな? 途中で死ぬ仲間も多いんじゃないかな? そんな危ないことをするよりは、ぼくたちは今まで通り食べものをためて冬に備えるよ。でも、冬が長くなりそうなら、もっとたくさんの食べものをためないといけないだろうね。教えてくれてありがとう。旅の無事を祈っているよ」
アリたちは、新しいことに挑戦するよりは、今までのやり方を変えずにもっと頑張ることにしました。
「そうかい、残念だなあ。アリくんたちが一緒なら、行き着くまでの食べものの心配は無いと思ったんだけどね。じゃあ、ぼくたちは出発するよ」
そう言うと、キリギリスたちはイナゴたちや渡りチョウたちの後を追って南に向けて旅に出ました。
旅は困難を極めました。今まで見たこともないような敵に襲われたり、途中で力尽きて倒れ、死んでいくものが何匹もいました。途中ではぐれて行方不明になるものもいました。しかし、大部分のキリギリスは、何とか南の食べものが豊かな土地にたどりつくことができました。
そこには、先に住んでいた虫たちもいましたが、キリギリスたちが歌を歌って楽しませると、こころよく仲間に入れてくれました。食べものが豊かなので気持ちに余裕があったからです。
そして、冬が来ました。元のところに残ったアリたちは、いつものように巣の中にこもって冬が過ぎ去るのを待ちました。
しかし、今年の冬は、いつもなら春になる頃になっても、まだ立ち去ろうとしませんでした。いつまでも、いつまでも冬が続きました。外は寒く、アリたちは食べものを探しに出かけることはできません。また、出かけたとしても既に食べものは何一つ残っていないでしょう。
アリたちは、キリギリスの話を聞いていたので、いつもよりも多くの食べものをため込んでいましたが、それでも食べものが足りなくなってきました。食べる量を少なくしても、どんどん食べものが減っていきます。
やがて、食べものは底を尽き、飢えて死ぬものが出始めました。
そして、いつもの年に比べて、とてもとても遅くなってから、ようやく春が来ました。
しかし、そのときには、もうアリたちはみな死に絶えてしまっていたのでした。
そのことを、南と北を毎年旅している渡りチョウたちから聞いたキリギリスたちは、
「勇気を出して旅に出てよかったなあ」
と言い合ったのでしたとさ。
おしまい。
女房が子供のために童話の朗読CDをかけていたのですが、その「アリとキリギリス」を聞いていたときに、ふと思いついてしまいました。
いくら真面目に働いたとしても、時代の転換点に歴史の流れを読み間違えると、その努力が報われないこともあるので、情報収集は大事だよ、という教訓話にならないかなあ、と思って書いてみました。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




