三国同盟
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それはおとぎ話に出てくる、伝説の王。魔女の呪いを掛けられた王は何度も生まれ変わる宿命を背負っているとか、そういう類いのおとぎ話だ。千年樹の妖精王、ドルトリアン。格好よくて、魔法も使えて、千年竜とも慣れ合える私達ササーラの民の中では憧れの存在のようなもの。ユカリナでもおとぎ話として知られてるって聞いてた。
もうひとつ。爺から聞いた話では存在一つで国の存亡を揺るがすものだと聞いた事がある。
それが、ドルトリアンだった。そしてその最大の特徴が、緑髪に青眼なのだった。
もちろん、そんなおとぎ話を信じているわけではないけれど、こうやって目の前で同じような姿を見ると、私達でなくても動揺するらしい。場内は騒然となった。
――でも、なんでドル様がこんな姿に。
そんな事には構わず、マスラ王はドル様と剣先を合わせる挨拶を交わしてから、対戦を始めている。
それは遠慮一つない、剣の振るいあいだった。
響く鋼のぶつかりあう音が、済んだ音色を遠くまで届ける。一息でもつけば本当にその身に刃を受けてしまうのではないかと思う緊迫感だった。
その姿に見入って、場内は徐徐に静まっていった。
多分、皆みとれたんだと思う。
マスラ王とドル様の真剣勝負に。
それはどれくらいの時を過ごしたかも分からない程の時間だった。
終わりを告げたのは、マスラ様の剣がドル様の剣を弾き飛ばし、それが土に刺さった時だった。それと同時にマスラ様が膝をつき、大きく肩で息をしている。きっと、もう、とどめを刺す力もないのだろう。
そこへセイ様が分けいって、この戦いの終わりを告げた。
「それまで!」
静まりかえっていた場内が沸く。
それを見つめて、マスラ様とドル様は顔を見合わせ笑い合っていた。マスラ様が立ち上がり、静まりを待つ。場内に配置されていた兵士達が静まるようにふれてまわり、また静かになった。それを見計らって、マスラ様が声をあげた。
「我が国はドルトリアン王率いるファーラと同盟を結ぶ! 彼は私のかねてからの友人であり、私が王として起つ時にも大いに尽力してくれた。今見せたように大いなる力も持っている。これで、我が国は隣国の脅威に怯える事なく、復興に尽力する事ができるだろう」
クーデターを起こした大臣の息子という立場のドル様が、マスラ様のクーデターを手助けしたなんて、知らなかった。
いや、それでだけでなく、そもそもドル様の事をドルトリアンだなんて呼んで、マスラ様はどういうつもりなんだろう。っていうか、本当にアレはドル様なんだろうか。
「アル、これはどういう事なんだろう」
「――私には何も分かりません。ただ、ドルトラル様が以前、ユカリナと手を組むのに切り札があるという事はおっしゃられていたので、この事かもしれませんね。ドルトリアンの伝承は有名なので」
「でも、ドル様はドル様じゃない」
「……そう言える人は少ないと思いますよ。まして、民衆は」
ざわめきが波のように広がって、けれど、すぐにおさまる。マスラ様が手をあげたからだ。
皆がマスラ様の言葉を待っている。これが王の姿なのだと、なんだか芯からしびれた。
「我らは、伝説の妖精王と繋がる機を得た。この国はこれから間違いなく力を得る」
ざわめきはどよめきに代わり、それから歓声へと姿を変える。マスラ様はいっそう声高らかに叫んだ。
「古くからの共である、ササーラ王にも了解を得て、我が国はファーラ、ササーラとの三国同盟をここに締結する!」
三国同盟を宣言する。これがこの剣技大会を開いた意味だったのだろうか。これでユカリナと緊張状態にあったチモシは随分分が悪くなったはずだ。
「アル、知ってたの?」
「まさかそんなはずはありません。ただ、王自らが出向くからには何かあると思っていましたが」
だから、今回は父上の護衛についていたのだろうか。そうだとしたら、私が怒らせたからじゃなくて良かった。ほっと息をつく私の前で、父上が、闘技場へと降りてくる。
そして、父上も交えての三国同盟は成り、三王がしっかりと手を取って、この剣技大会は終幕を迎えたのだった。




