壁をぶち破る少女
私は道と言うにはあまりにお粗末な道を走り続ける。地面は石ころがゴロゴロ転がっているし、波打っているのかと錯覚するほど凸凹していて、一瞬でも気を抜くと転んでしまいそうだ。実際、数え切れないほど転んでいる。きっと歩いて行けば安全に進むことが出来るのだろう。でも私は走り続ける。走るのを止める事は私が許さない。理由? それは私も知らない。正確には覚えていない。
やがて、私の目前に壁が現れる。壁はとても高く、強い威圧感を感じる。
……私はこの壁を超える事が出来るのだろうか? もしかして、無理じゃないのか? 一瞬そんな弱気な考えが頭を過ぎる。走り続けていた足の動きが鈍くなる。
「あっ!?」
地面の凸凹に足を取られて、派手に転んでしまう。
「うぅ……」
両膝がジンジンと熱い。どうやら擦りむいてしまったようだ。膝だけじゃない。体のあちこちが痛い。痛くてたまらない。だけど。
「ふー……」
私はゆらりと立ち上がる。そしてまた走り出す。転ぶ前よりずっと速く、力強く。強い痛みのお陰で頭がすっきりして、私の中にあった弱気な考えは消えた。
私は走り続けないといけないんだ。遠い昔。私にはなりたい者があった。なにになりたかったはもう忘れてしまったけれど、それでも私は進まないとならない。こんな壁に怯んでいる場合じゃない。
「ああぁぁぁぁぁあああっ!!」 雄叫びを上げながら、地面を一層強く蹴る。壁がどんどん迫ってくる。衝撃に備えて両腕を顔の前で交差させる。
ドカン、と凄い音を立てて、私は壁をぶち破る。砕けた壁の破片が腕に刺さり、衝撃が身体全体に伝わる。転んだ時とは比べ物にならない痛みだ。でも、なぜかとても晴れやかな気分だ。
私は体勢を整えたらまた走り始める。走るのを止める事は私が許さない。
(望みを忘れた少女は傷つきながらそれでも壁に挑み続ける)