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ワールドウォーズ  作者: ブラックシュミット
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7

ヘルウイングに乗った疾風に俺達は完全に気圧されていた。

『おいおい………今、疾風って言わなかったか?』

『疾風って言うと、ヘルウイングに乗った時は一騎当千の強さとか聞いたことあるぞ』

クラスメイト達は早くも逃げ腰になっている。

その存在だけで勢いづいていた味方の士気を落とすなんて…………疾風がいかに恐れられているかがよく分かる。

『もう一度言う。

Eー000を置いていけ。 く

そうすればお前達の命は助けてやる』

疾風がもう一度繰り返す。

俺達に向けているようだが…………

「(なあ、Eー000って何なんだ?)」

「(さあな、俺には分からん)」

「(わ、私も…………)」

そもそも俺は司令部に突入させられて、戦って、レオ(バカ)を助けて、すぐに捕まったんだ。

何かを取っていくような暇はなかった。

それに疾風がここまで食い下がるということは、余程重要な物と見る。

帝国兵器の設計図とか…………もしくは、秘密開発中の兵器だったりしてな。

だが俺達の中に当然、そんな物を持っている奴はいない。

疾風にもそれは分かっているはず、なのにどうしてここまで食い下がる?

疾風に聞こうと思ったが、口を開く前に疾風がヘルウイングのスピーカー越しに口を開く。

『それともう一つ、そこの双剣使いもだ』

疾風がヘルウイングの指で指したのは…………俺?

「な、何で俺?」

『お前がEー000を拾ったんだろう?

アレは我が軍の最高機密、それと短くない時間、一緒にいた者を野放しにはできん』

俺が拾った!?

バカな、俺は何も見てないぞ!?

もしかしてユキとクロが実はEーなんとかだったりするのか!?

《生憎、ワシにそんな記憶はないのう》

《……………私も。

………そもそも私達は帝国ができる前から存在していた》

そうだった。

しかしそうなると俺にはもう思い当たる物はない。

だが………ここは疾風の条件に乗るか。

そうすれば俺一人捕まるだけで皆は助か

「だ、ダメです!!

ルー君は渡しません!!」

疾風の提案に乗ろうと口を開きかけた俺を止めたのは、滅多に聞かないリリィの大声だった。

リリィの言葉を皮切りに、皆が口々に

『そうだ!委員長の言う通りだ!』

『帝国なんかに仲間を差し出すか!!』

と疾風に叫ぶ。

「お、お前ら………」

クラスメイト達の言葉に不覚にも胸を打たれる。

正直リリィはともかく、他の奴らまで言ってくれたのは考えてもなかった。

疾風はしばらく沈黙した後

『…………ならば仕方ない。

力ずくで奪わせてもらう!』

と言い、ヘルウイングを一気に戦闘態勢へと切り替える。

三対の翼が広がりヘルウイングが動いたかと思うと、上下左右に俺達の周りを動き、狙いを絞らせない。

『は、はええ!?』

『魔法を唱える隙すらねえじゃねえか!!』

動揺する味方。

あれだけ速かったらクロの能力で斬ることもできない。

“疾風”とはよく言ったものだって感心してる場合じゃねえな。

『どうした?

来ないのならこちらから行くぞ』

ヘルウイングが高速飛行から急停止し、直後に加速して右腕のブレードを構える。

ブレードは人ぐらいの大きさはあり、当たるどころか、かすっただけでも致命傷になるだろう。

ヘルウイングの狙いは―――俺かっ!!

だが好都合だ。

疾風の目の前の空間を切断して、ヘルウイングを真っ二つにしてや―――

『貴様の手の内は知れてるぞ』

「っ!?」

クロを振ると、突如疾風急停止した。

疾風の目の前の空間が切り裂かれるが、疾風の乗るヘルウイングは無傷。

「(まさか、分かってたのか…………?

……いや、まぐれだ!!)」

俺はもう一度クロを振る。が

『無駄だ』

疾風はヘルウイングを少し動かすだけで、斬撃をかわす。

まるで何が来るのかが分かってたかのように。

『その剣は離れた所にあるものを………正確には空間と空間を切り裂き、斬撃を直接叩き込んだり、空間に生じた隙間で攻撃を防いだりする………そうだな?』

な、何で…………!?

『だが………一度に複数の空間は切り裂けず、空間を切り裂くには数秒のラグがある』

疾風がすらすらと述べていく内容に俺は驚愕を隠せないでいた。

クロの能力を………把握している………!?

『それと甘いもの………特にお前の作った菓子が好物だそうだな?』

「誰から………聞いた?」

俺は震える声で疾風に問いかける。

俺と戦った部下から聞いたにしては内容が具体的すぎる。

それにクロの好物なんて、ごく限られた一部の人しか知らないはずだ。

疾風は俺の言葉には答えず

『…………喋りすぎたか。

とにかく、そっちの白い剣の能力も把握している。

抵抗は無駄だ、大人しく投降し』

「見つけたぞ疾風ううぅぅぅ!!」

疾風の言葉の途中でヘルウイングに斬りかかったのは

「隊長さん!?」

さっき会った人間離れした能力を持った部隊長さんだった。

「貴様との因縁、ここでつけてくれる!!」

『貴様は………風剣か!?』

隊長さんは明らかに自分より大きいヘルウイングに生身で向かっていく。

ヘルウイングのブレードと、隊長さんの剣が激突し―――なんと拮抗している。

それどころか、隊長さんの剣が徐々にヘルウイングのブレードを押し返し始めていた。

『ちっ………相変わらずの化け物ぶりだな』

「そんな木偶人形に我が剣が破れるとでも!」

隊長さんは、さらに力を込める。

そのままヘルウイングを両断せんとする気迫を込めた必殺の一撃。

しかし、疾風もヘルウイングの体勢を整えると、ブーストを吹かしその勢いのままブレードを振る!

「くたばれ疾風ううううううぅぅぅ!!」

『貴様が死ね!風剣!!』

そして二人の剣がぶつかり、辺りに凄まじい衝撃が撒き散らされる。

『うわあああああ!?』

『なにこれ!?怪獣大戦争!?』

クラスメイト達が叫ぶ。

「怪獣はどう考えても隊長さんの方だろうがな………」

ポツリと呟く。

そもそも生身で兵器と渡り合ってるのがおかしい。

二人はしばらく剣をぶつけ合い距離を取った。

『………そろそろ潮時か』

疾風が呟く。

「逃げる気か!?」

『部下達は脱出した、それに時間稼ぎに付き合う気もない』

疾風はそう言うと、顔を俺に向ける。

『Eー000を守った気だろうが、お前はことの重大さが分かってない。

今日よりお前はこの疾風だけでなく、全帝国兵を敵に回したも同じ………』

そう言うと疾風は一度言葉を切った。

『………覚悟しておくんだな。

せいぜいナイトを務めるが良い』

「待て!!」

隊長さんが地を蹴り、ヘルウイングとの間合いを詰め剣を振り下ろすが

『さらばだ』

それより早く疾風がブーストを吹かし、隊長さんの剣を避け見る間にその姿が遠くなりやがて完全に見えなくなった。

「くそ………逃がしたか………」

隊長さんが悔しそうに呟く。

それにしてもさらっと不吉なことを言われたな………冗談………だよな?

「ふう………まあ良い。君達もよく頑張ってくれた」

隊長さんは俺達に向き直って言った。

共和国での英雄に言葉に思わず笑みをかわし合う俺達。

「だが………」

隊長さんは剣を俺達に向けた。

「君達みたいな子供の部隊など聞いたことがない。

君達は……どこの所属だ?」

………あれ?なんか洒落にならない殺気が…………

「い、いや俺達は………」

「そこまでだ」

慌てて事情を説明しようとすると、聞き覚えのある冷たい声が聞こえた。

「………む、鮮血のブラッドプリンセスか」

「その名は捨てた。

それよりそいつらは私の下僕だ、別にスパイとかじゃないから安心しろ」

ちょっと待て、今この人ナチュラルに俺達を下僕と呼んだか?

「ん?不満かルーク。

不満があるなら存分に拳で語ろうじゃないか」

「いえ、滅相もございません不満などと!!」

教官がにこやかな顔でこっちを向いたので慌てて言う。

「…………お前は相変わらずだな。

今はアカデミーの教官だったか」

隊長さんは俺達を一瞥し

「…………同情する」

と、憐憫を込めた声で呟いた。

「同情するなら助けてください………」

「………すまない」

隊長さんは顔をそらした。

どうやら、教官と関わりたくないらしい。

すごく納得はできるが、既に関わった俺達には救いの手はないのか………。

「というわけでだ、お前らよくやった。

これで、首都は守られ、被害も少数に止められ、独断でお前らを戦場に投入した私の面子も保たれるというわけだ」

「まあ、確かに被害が食い止められたのは良かったですが………」

ん?ちょっと待て、今かなり聞き捨てならない言葉が聞こえたんだが。

「すみません、教官。ちょっと今の話で理解できない所があったんですけど」

「なんだできの悪い教え子よ」

「今、俺達を戦場に投入したのは教官の独断と言いませんでしたか?」

俺の言葉に教官は一瞬黙りこみ

「………何か問題が?」

「大有りだろおおおおおおおおおおおお!!」

ひよっこも良いとこのアカデミーの生徒を戦場に出すからおかしいとは思ったんだ!

「いや待て、お前は一つ勘違いをしている」

「何がですか!?」

「お前は私一人の独断だと思っているようだが」

教官は言葉を切り

「学院長以下、他の教官達もノリノリで賛成したからな」

「もうやだ、この学校!!」

トップからして狂っていた事実に涙が出そうだ。

そして、それはつまり俺達の味方は誰もいないということだ………本当に涙が出てきたぜ…………。

「まあ、おかげで良い経験になっただろう?

訓練と実戦で得るものは違う、そして実際にお前達が戦場に立ったとき役立つのは実戦の経験だからな」

教官の言葉に皆が納得した顔で頷く。

「って、だから簡単に言いくるめられてんじゃねえ!」

「あー、それとルーク」

「何ですか!?こうなったらこの件はアカデミー連盟に…………」

俺が振り向くと、教官は笑顔でーーーーー拳を握りしめていた。

「約束した一発だ、ありがたく受け取るが良い」

「俺こんなんばっかかあああああああああ!!」

教官の凄まじいストレートを腹に受け、俺は意識と記憶を失った。

―――――――――END―――――――――





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