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ワールドウォーズ  作者: ブラックシュミット
20/20

19

「くそ、あの鬼教官…………手加減って言葉を知らねえのか………いてて!」

「あ、ご、ごめんルー君、痛かった?」

「いや、大丈夫だ、気にしないでくれ」

教官に教育、という名の体罰を受けさせられた俺、というかクラスのほぼ全員は本当に教官に一発当てるまで家に返してもらえず、朝まで教官に殴られ蹴られ投げられ続けていたのだった。

おまけに最後には『まさか一発も当てられないとはな、おかげで私は残業代をあいつに請求しないといけなくなったじゃないか』と、言葉の割りに嬉しそうに言った教官が中断してやっと終わったのであって、俺たちの誰も教官には一発当てるどころかかすりもしなかった。

最初は横暴な教官に日頃の恨みを返すチャンスだと息巻いていた俺含めるクラスメイト達だったが、一時間経ち、二時間経ち、全く攻撃が当たる気配すらしてこなくなると徐々に絶望に包まれ、あとはなす術なく殴られ続けたのだった。

クロとユキがいれば話はまた違ったのだろうが、あの二人は教官との戦闘中、一度も手を貸しやがらず。まあ『マスターの自業自得なのじゃからワシらが手を貸す義理はなかろう?』と言われてはぐうの音も出なかったのだが……………。

ともあれ、そんなわけで朝になってようやく解放された俺たちだが、教官より『ああ、それと授業はサボるなよ、サボった奴は後日また私と訓練だ』と無慈悲な命令を下され、ボロボロな体のままこうして泣く泣く教室に来ているのだった。

教室に来て俺の惨状を見るなり回復魔法をかけてくれたリリィには本当に感謝だ、でなければ俺もクラスメイト達のように机に突っ伏してピクリとも動かなくなっていただろう。

「うん、もう大体回復は終わったよ。

でも無理しないでね、傷は治ったけど私の魔法じゃ疲労は回復できないから…………」

「痛みが消えただけで本当にありがてえよ、ありがとなリリィ」

「ううん、どういたしまして」

俺の言葉にリリィは微笑むとクラスメイト達にも回復魔法をかけにいった。

人数が人数なので逆にリリィが倒れないか心配だがあのお人好しは止めるように言ったところで聞きはしないだろう。

幸いリリィは魔力量が高い上に回復魔法との相性が良いのか、魔力量をそこまで消費しないみたいだから大丈夫だろう。

クラスメイト達が起き出し教室が賑やかになる中、ユニが教室に入ってきた。

ユニはボロボロの姿の俺に気づき、近づいてきて口を開いた。

「ルーク、生きていたのですね」

「…………それが昨日帰ってこずしかもボロボロの姿の同居人に対する言葉か」

「いえ、昨日帰ってこなかったのでもしかしたら………と。

生きてて良かったです」

「普通なら笑ってすませられるんだが、あの教官に限っては冗談にならないんだよな…………」

実際訓練から解放された時は、生き残れた…………!!という思いが心の奥底から湧き出たもんだ。

「そういえばナギサちゃんも心配していましたよ。

『帰りが遅いけどもしかして何か犯罪を起こしたんじゃ…………!』と」

「…………何でそんなに信用ないのかな俺」

「普段の行いでは?」

「お前はそろそろ自分の言葉の暴力に気づいた方が良い、そろそろ泣くぞ俺?」

ユニとそんな話をしていると、ガラッと扉が開かれ教官が入ってきた。

この人も俺たちと同じ時間、戦っていたはずなのだが疲れを全く見せていない、どういう体力してんだ。

教官は起き上がっているクラスメイト達を見て何故かドヤ顔で頷いた。

「お、全員起きているな。

まあ、ギリギリ授業は受けられるよう手加減はしたからな、当然か」

手加減できてねえよ!リリィが回復してくれなけりゃ今ごろ死屍累々だよ!という言葉をグッと呑み込む、見ればクラスメイト達も概ね俺と同じようなことを思っているような顔をしていた、流石はあの地獄のような訓練を共に生き延びた戦友たち、俺たちの心は一つのようだ。

そんな俺たちの心の内を察することのない教官は、いつものように号令をかけ、連絡事項を話していく。

ほとんどは帝国との戦況や授業予定だが、これはいつものことだ、ただ、その日はいつもとは少し違い、いつもなら連絡を済ませるとさっさと退室する教官がまだ室内に残っていた。

「さて、連絡はこれで以上だが……………貴様等、特に男ども喜べ、良い知らせがある」

教官のその言葉にフォンを除く男子全員がビクッ!と肩を震わせる。

教官はそんな俺たちを見て眉をひそめた。

「……………良い知らせだと言っているのに何故ビビる?」

「いや、教官の『良い知らせ』だと聞くとつい……………それに俺たち男子名指しで言うと特に……………」

一人のクラスメイトがおずおずと言ったことにまたもやフォンを除く男子全員がうんうんと頷く。

教官はそんな俺たちに「………………………」と何か言いたそうな沈黙を返していたが

「……………まだ?」

「あ、ああ、すまん。

このバカ達とは後でゆっくり話し合うからとりあえず入ってくれ」

さらりと不穏なことを言われたのはともかく、今の声、どっかで聞き覚えが…………?

そう思っているとガラガラと扉が開き

小柄で銀色の髪を肩の辺りで揃えた短髪の、眠たげな少女がーークーデリカが教室へ入ってきた。

周りのバカどもが「ひゅー!可愛いーー!」「ねえねえ、彼氏は?いる?いないよね?」「冷たい声で罵られたい………!」などとのたまってる中、クーデリカは一切反応を示さず教壇へと歩いた。

「えー、諸事情により異動となった、クーデリカ・サフィリアだ。

みな…………ああ、男どもはバカが移るからフォン以外関わらなくて良いが、よろしくしてやってくれ」

「「「ちょ、それクラスの9割以上否定してるんですけど!?」」」

「席はあそこだ、周りにいる男どもはカカシと思え、どうせ中身がないという点では一緒だからな」

「「「酷い!!?」」」

「…………ん」

教官とクラスメイト達との漫才も気にせず、クーデリカは言われた通りの席へちょこんと座った。

「さて、これで嬉しいニュースは終わりだ。

1限目は帝国の支配地域、及び我が軍の展開状況について、をやるため予習しておくように」

そう言うと教官は教室を出ていった。

さて、ここのバカどもが女の子、しかも美少女が来たとなると何をするか?明白である。

「クーデリカちゃん、出身どこ?」

「クーデリカちゃん、好きな食べ物は?」

「武器なに使うの?」

まあ質問攻めである、これ自体は珍しくもない風景だろう、ただ血の気が多い連中が多いうちのクラスではそれだけでは終わらずーー「てめえ、好きなもん聞き出して抜け駆けする気だろ?」「ああん?そういうてめえは住所聞いて何する気だ?」「もちろん、今まで培ったスニーキング技術を駆使して秘密裏にクーデリカちゃんを守るんだよ!」「このストーカーめ!」「てめえこそなにちゃっかりクーデリカちゃんのスカート覗こうとしてんだ!後で変われ!」「断る、この場所が欲しいならてめえで勝ち取れ!」「やってやろうじゃねえか!」「俺にもよこせ!」「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」

ボコスカボコスカ

変態どもの会話を聞いていたら瞬く間に殴り合いへと発展していった様を見ながら、俺は呆れ気味にため息を吐く。

「全く…………クラスメイトながら嘆かわしい。

俺たちはもう軍属だぞ?

そんなチンピラみたいなことをするんじゃない」

「「「お前に言われたくないわー」」」

「てめえら上等だこら!どっちが下か今ここで思い知らせてやらぁ!!」

ボコスカボコスカボコスカ!

さらに激しくなる殴り合いを、フォンは予習をして無視し、リリィはおろおろと、止めたいが割って入れないといった様子で困惑し、騒ぎの元でもあるクーデリカは窓からぼーと外を見て眼中にも入ってなく、そしてユニはふと時計を見、ぽつりと呟いた。

「あ…………もうすぐ、1限目ですね」

この後、入ってきた教官の指導(物理)によって黙らされたのは言うまでもない。

ーーーーーーーーーーーーー

「私はお前たちの能力を過信していたようだ、まさか一晩中私からリンーー訓練を受けてもなお、こんなバカを起こせる体力が有り余っていたとは。

分かった、貴様らの熱意は買った、今日も私が特別訓練を強いてやるからありがたく思え」

「「「「「すいませんマジ勘弁してくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」」」」」

喧嘩開始から数分後、教官に一撃で吹き飛ばされた俺たちは、全員で土下座をし教官の死刑宣告に全力で命乞いをしていた。

「遠慮するな、私も金をまんまとあいつから騙しとれ気分が良いんだ、お前らが元気ならばいくらでも訓練してやる」

「いや、本当に死にますから!

俺たち、昨日家に帰ってないんですよ!?教育委員会とかで問題視されたらどうするんですか!?」

「大丈夫だ、教育委員会は基本的に軍部が根回し済みで「訓練のためなら一週間、二週間、一ヶ月の山籠りだろうと許可する」と明言している」

「最悪だ、本当に教師から教育委員会までロクでもないなこの学校!」

「というわけで、何も心配はいらない、安心して訓練を受けると良い」

「なあ……………俺、この訓練終わったら今まで迷惑かけてた母さんに孝行するんだ…………」

「俺、改心するよ…………もう二度と喧嘩なんてしない………だから神様、助けてください………!!」

ついに死亡フラグを立て始め、懺悔しながら神様に助けを求め始めるクラスメイトも出る中、教官はそんな俺たちをふう、とため息を吐き

「全く、これに懲りたらその有り余っている体力を別のことに使え。

ほら、授業時間がなくなるからとっとと席につけ」

その言葉で許してもらったと判断したクラスメイト達は、互いに涙し肩を抱き合いながら席へと戻っていく。

俺も生き残った喜びを噛みしめながら席へと戻り、全員が戻ったところでリリィが号令をかけ、教官が授業を始める。

「さて、1限目は帝国軍と我が軍の展開状況だと言ったな。

貴様らも知っている通り、現在我が国の半分以上の都市や鉱山などの重要施設は帝国に奪われている。

図に表すと…………」

そう言うと教官は黒板に国を簡略化した図を描いた。

「これが我が国の大体の領土、そしてここが首都、今私たちがいるガリウス」

教官は図の中心よりやや下の辺りに点を描く。

「そして帝国の支配圏は………」

そう言うと教官は、国を真っ二つにするように線を引き、帝国側の方を帝国支配圏と書いた。

帝国支配圏の中には燃料を排出する鉱山町や、港、共和国有数の都市までもが多数含まれている、もちろん、その他の町や都市など数えきれない。

さらに線の中にはこの間、俺たちが奪還したアダザーナ改め、ルリクユフォを始め、首都に肉薄する都市も幾つかある。

「改めて見ると……………酷い状況ですね」

「そうだ、ハッキリ言うと我々は現在劣勢だ。

資源を供給する施設はそのほとんどが敵の手の内、加えて戦線が広いため数で劣る我々はどうしても相手より数が少ない状態で攻略しなければならない。

地の利はあるとはいえ、元々は攻める側が圧倒的に不利、身体能力の差も兵器の大量投入によってカバーしている。

本来ならば一つ一つの都市に狙いを定め、戦力を集中させて一つずつ奪還していくのが望ましいが…………奴等は自分達が不利になると平気で街を焼き払い、住民を虐殺しながら退却していく。

よってこちらはどうしても、奇襲などによる短期決戦を望まざるを得ない」

それが共和国軍が、首都に肉薄されてもなお、大っぴらに反抗できない理由だ、と教官は一旦話を止めた。

奇襲にはそれなりの準備と計画が必要になるし、相手に悟られてもいけない、だがあまり悠長にしている時間もない…………。

教官の話を聞き、誰もが頭によぎっただろうーーこのままでは負ける、と。

しかし教官は「だが」と続けた。

「我が軍もやられるばかりではない。

現在、各師団毎に首都に近い都市を中心に奪還作戦を実行中であり、さらについ先日には第5師団のミラウェル大佐率いる部隊が、アダザーナ、現在はルリクユフォとなった都市を奪還している!」

教官の言葉に、クラスメイト達が「おおー!」と声をあげる中、俺とユニ、リリィは互いに目線をかわした。

こいつらもまさか、その奪還作戦に俺たちが参加したなど夢にも思ってないだろう、守秘義務があるため言えないが、事実を知ったらどんな顔をするだろうか、少しはいつも貶してる自分達を省みて俺を崇め奉るかもしれない。

『それは…………ない………』

『大方、逃げまくってたんだろうとか言われそうじゃな』

うん、分かってはいたけど0コンマで否定しないでくれるかな君たち。

「ーーーそしてルリクユフォの奪還を果たした第5師団は、一部をルリクユフォの防衛に回し、残りはレクルーンへと向かった。

以上が、帝国の支配圏、及び我が軍の展開状況だ。

何か質問はあるか?」

俺が奪還作戦の時のことを思い出している内に、今日の内容を話し終えたらしい。

何だか、共和国がとてつもなく不利、ということしか分からなかったな、何で今さらこんな授業をしたんだろう。

「ルーク、何か言いたそうな顔だな?」

「え、ま、まあ…………。

俺たちが不利であることを教えて何の意味があるのか、と思って…………」

「ふむ、お前にしては鋭いじゃないか」

「えっ?」

教官が俺を褒めたのに驚き、思わず声をあげるも、教官は気にせず話を続ける。

「確かに私たちは不利だ、それを知ってお前らも、多かれ少なかれ気分が落ち込んだだろう。

だが、これが共和国の現状だ。

普通の学校に通う学生なら、現状を知らず、過ごしていれば良いがお前達は学生ではあるが今は軍に所属しており、実際に作戦に参加することもある。

我々、普通に暮らしている奴等を守る軍人が、都合の良い情報だけ聞いて呑気に過ごす訳にもいかないだろう?」

教官の言葉は…………反論のしようがないぐらい、珍しく正論だった。

「良いか、今一度言っておくが、貴様らは学生であるが軍人だ、今は卵としてもだ。

貴様らは、守るべき市民の盾となり、市民を傷つける敵を排除する矛とならなければならない。

そのためには、自分達の現状を把握、理解し、それを呑み込むことが必要だ。

動くべき我々が、現実から目をそらしていては、守るべき市民も、排除すべき敵も見えないからな。

以上が、共和国の現状を説明した理由だ。

お前達全員が今日の授業の内容を真剣に捉えてくれていると信じている」

教官の言葉に全員が頷くのを見て、教官は満足そうに口を歪めた。

「さて、堅苦しい話はここまでだ。

転科生も入ったことだ、今からの授業は全て訓練に当てる、内容は3VS3のチーム戦、武器魔法使用ありのデスマッチだ。

場所は第四訓練場、二時限目開始十分までに集合だ、復唱!」

「「「第四訓練場、十分前までに集合!」」」

「よし、私は今から訓練場貸し出しの手続きに行ってくる、残り時間は転科生と親睦を深めておけ」

そう言って教官は教室を出ていった、つまり残りの二十分は自由時間と言うことだ。

教官が出ていくとクラスメイト達は、クーデリカに話したそうにしているが、さっきそれが原因で大喧嘩に発展し危うく教官に捕まりそうになったからか中々動こうとしない、だが視線は周りのクラスメイト達を警戒しており、その目は『抜け駆けしたら殺す』とハッキリ書いてあった。

そんな空気の中、不意にその原因のクーデリカが立ち上がった。

そして、てくてくと教室を歩き出す、その後を視線で追うクラスメイト達、俺の机の前で止まるクーデリカ、俺へと浴びせられる殺意の固まりが教室を震わせた。

「お、おい、クーデリカ?どうしたんだ?」

「…………こっちへ」

クーデリカはただでさえ穴が空きそうなぐらい、殺意をぶつけられている俺に対し、手を持ってグイグイと引っ張り始めた。

さらにクラスメイト達が殺気立つのを文字通り肌で感じながら、俺はクーデリカに説明を求める。

「ちょ、待てって!

いきなり付いてこいって言われても分かんねえって!せめて何の用なのか説明ぐらいーー」

「………私は言っても良いけど、あなたが困るはず」

「「「「ほう?」」」」

「え、ちょっと待て。

いや、本当に何もしてないって!?」

クーデリカの言葉に、俺が言われて困るようなことをクーデリカにした、と勘違いしたクラスメイト達は一斉に武器を取り出し構える。

俺はクラスメイト達の視線に怯えながら、傍観者に徹しているユニとリリィに声をかけた。

「お、おいお前らも説明してくれよ!俺は何もーー」

「…………ルー君、いつの間にクーデリカちゃんに手を出したの………?」

「ルークって見境ないんですね」

「何でお前らが敵に回ってんだよ!?」

俺は二人に助けを求めるのはやめ、フォンに視線をうつーーあ、はい、ガン無視ですね、分かってましたークーデリカに視線を戻す。

そうだ、狼狽えるからいけないんだ、俺は何もしていないのだから堂々とクーデリカに聞けば良いんだ、そうすればクラスメイト達も、ユニやリリィだって納得するだろう。

「クーデリカ、俺が困るってどういうことだ?

俺はお前と会ってそんなに経ってないし、もちろん、お前に何かをしたわけじゃなーー」

「…………剣聖、タ」

クーデリカが俺にだけ聞こえるようひそめた声でその名前を出す前に、俺はクーデリカの口を塞ぎ、見た目通り軽いクーデリカを抱えて教室を猛ダッシュで出ていった。

この行動であいつらにどんな誤解を生むかは百も承知だが、今はその名前をあいつらに聞かせないことの方が重要だった。

俺はクーデリカを人気のない踊り場まで連れてくると、息を切らしながら捲し立てる。

「ど、どこでそれを!?あの人と知り合いなのか!?どこまで聞いてる!?」

「…………うるさい、あと、近い…………」

クーデリカに淡々と言われ少し冷静になると、思ったより顔が近くて慌てて離れる。

俺が落ち着いたのを見て、クーデリカは普段と変わらない調子で話す。

「…………本人から聞いた、私は………あの人に戦い方を教わったから」

「な、そ、そうなのか!?」

クーデリカがコクッと頷くのを見て、ますます頭が混乱してくるが、同時に納得もする。

思えばリリィ達と服を買いに行ったあの日、初対面のはずなのに知っているかのような態度だったのもそういう理由なんだろう。

あの人の弟子なら年齢に似合わない実力なのも頷ける…………ん?でも待てよ。

「あの人は銃なんか使ってなかったと思うけど?」

剣聖、の名が示す通り師匠が使ってたのは剣のみ、銃はちまちま撃つぐらいなら近づいて斬った方が早い、とかいう理由で使ってなかったはず。

その理由にクーデリカは

「………あれは私が師匠の教えを元に習得したもの」

と、さらりととんでもないことを言い出した。

発射直後のグレネード弾を数発撃ち抜く技術を独力で…………?

まさしく、こういう奴を“天才”というのだろう。

「………話を戻しても良い?」

「あ、ああ、すまん。

で、お前が師匠の弟子でした、というのは分かったがわざわざ何の用だ?」

放課後とか、休み時間に、とかいくらでも話すタイミングはあったのに何故このタイミングなのか。

しかしクーデリカはそんな俺の言葉に眉をひそめると

「…………私はあの人の弟子・・じゃない。戦い方を教わっただけ」

「ん?だから弟子ってことじゃーー?」

「違う、弟子を取ったのは………剣を、あの人の技術を教えてもらったのは、貴方・・だけ」

何故だか知らないが険悪な雰囲気を感じ始めた俺は数歩下がりつつ両手を上げる。

「ま、待て待て。何で怒ってるんだ?何か気に障ったなら謝るかーーー」

チャキッ

俺が話している間にクーデリカは反応できないスピードで自分のハンドガンを取り出し、俺の首元へと突きつけていた。

「ちょっ…………!?」

「……………一つ聞きたい」

「な、何だよ?俺の好みのタイプか?悪いが銃を突きつける娘はちょっと」

「…………何故、私が教室であの人の名前を出そうとしたら止めたの?

“剣聖”タイラー………その人から直々に技術を授けてもらったなら誇らしいはず」

「お前、こんなに饒舌だったのか?もしかして師匠にぞっこんーー」

「…………答えて」

俺は何とか場を和ませようとするがクーデリカにその気はないようだ。

というか、そもそも何で俺がこんな状況に陥らないといけないんだ。いきなりあのおっさんの名前を出したかと思ったら、今度は銃を突きつけてこれだ、俺がここまでされて素直に教える性格だと思ってんなら………それは間違いだ。

「やなこった」

「…………そう、これでも?」

俺が拒否するとクーデリカは銃の安全装置を外した。おいおい、マジかよ………だが、俺もここまできたら引けない。

「ああ、絶対にやだね。

教えて欲しいならメイド服を着て『教えて欲しいにゃん、ご主人様』と言って貰おうか」

「………………」

クーデリカは少し黙っていたが俺の首元に突きつけていた銃を離した。

え?まさかあれで納得したのか?ということはメイド服を着てあの台詞を言ってくれ

ドゴッ!

「ごふぅ!?」

クーデリカはそんなことを考えていた俺の腹を銃のグリップ部分で殴り付けた、そこまで力は込められてないとはいえ、素手で殴られるより遥かに凄まじい衝撃に俺は腹を押さえて悶絶する。

「……………認めない、貴方があの人の弟子なんて」

そう捨て去るとクーデリカは悶絶する俺を置いたまま教室へと戻っていった。

俺はというとひとしきり痛みに悶絶し、ようやく回復した後

「あのガキぃ…………!!

上等じゃねえか!俺にここまでして無事で済むと思ってんじゃねえだろうなぁ!

次の授業はちょうど生徒同士のデスマッチ………ぼこぼこにしてメイド服を着させて涙目で『ごめんなさい』させてやるからなぁ!!覚悟しとけえええええ!!」

と、次の授業でクーデリカへの復讐を誓うのだった。

そんな自分達のマスターに剣二人は

『……………大人げない』

『気持ちは分かるが完全にそこらのやられ役チンピラの台詞じゃのう…………』

と、二人揃ってため息を吐くのだった。

ーーーーーーーーーーーーー

『……………そういえば今戻るとマスターはクラスの皆から誤解されたままなのではないか?』

「あ」

隠れていた俺がクラスの追跡隊に見つかり、教室に連行され誤解が解けるまでクラスの奴等に殴られたのは言うまでもない。

ーーーーーーーーーーーーー

「というわけで、一時間目は3人対3人に分かれての模擬戦だ。

さて何故三人かと言うと…………フォン、答えろ」

「はい、個人の役割分担やフォーメーションの基礎を学びやすいからです」

「その通りだ。

二人だとどちらかが前衛、後衛、または二人とも前衛か後衛かのどれかしか組めないが、三人であればさらにフォーメーションの幅を広げられる。

集団戦でのフォーメーションや戦術の重要さは昨日の授業で身に染みていると思うが」

昨日の、でフォンを除く男子生徒全員が震えるが、教官は当然のごとく無視して続ける。

「いずれは四人や五人の戦い方も学んでいくが、まずは三人での戦いで各々に合わせたフォーメーションを組み、戦術を練ろ。

なお、組み合わせも自分達で決めろ、なお勝ち残っても何もないがあまりにも酷いは補習だ、勝ち残るためのチームを組むように」

教官のその言葉で、ユニやリリィ、クーデリカ等、数少ない女子を自分のチームに入れようと争奪戦も辞さない覚悟だったアホな男子どもは、補習は嫌なので真面目にチームを組むことを決めた。

「戦う順番は出席順で、入っている奴のチームからいく。

では、速やかに組むように」

教官の言葉にクラスメイト達がバラける。

一番に声をかけられるのはやはり実力があるフォンのようだ。

女子勢は、ユニは魔法は強力だが制御できず、戦い慣れしていないためか声をかけられず、リリィは回復魔法が得意だが、攻撃魔法が使えない、本人もあの性格で争い事に向いてないためか声をかけられていないみたいだった。

基本、魔法戦になるこの戦いは、武器を使いながらの魔法使用が前提で、武器の扱いが得意だと圧倒的に有利だ、なんせ相手を蹴散らしつつ魔法が発動する前に叩けるから。その意味で作戦立案、格闘戦もこなせ、強力な魔法も使えるフォンに声がかけられるのは当然と言えるだろう…………改めると本当に凄いなあいつ。

しかし、クロで距離を詰めることができ、ユキで魔法が発動しても完封でき圧倒的に入れば有利なはずの俺が一切、誰にも、声をかけられないのは………………

「人望とか信頼とか、まあ色々だろうな」

「教官、俺口に出してないんですけど。

そして情け容赦なく抉りますね」

『ルークー、ユキちゃんとクロちゃんだけ貸してくれ、お前は隅っこでのの字書いててくれれば良いから』

「ぶっ殺すぞ」

『なあルーク、いい加減二人を俺に寄越せよロリコン野郎』

「お前に言われたくねえ!」

強力なインテリジェンスソードであるユキとクロは大人気で二人には次々声は掛けられるが。

熱い勧誘を心苦しく断りながら俺はユニとリリィ、二人の元へ近づく。

「二人とも、俺と組まないか?」

二人はやっと声を掛けられたからかホッとした表情を見せたが、すぐに不安そうな表情になり

「ルーク、その、良いのですか?」

「そ、そうだよ。ルー君に誘ってもらえたのは嬉しいけど、私じゃ役に立てないし………」

と、口々に言ってきた。

俺が同情で組もうとしているとでも思っているんだろうか。

「いや、大丈夫だ。

これはお世辞でもなんでもないんだが、俺とお前ら二人は相性が良いんだ」

「…………え?な、何を言い出すんですか」

「あ、相性が良いって…………」

何故か顔を赤らめた二人に俺は首を傾げながら続けて言う。

「俺は敵に斬り込む剣士、リリィはそんな俺を回復魔法で回復し、ユニはその強力な魔法で後方支援をする。

俺ならユニのデカイ魔法が飛んできても逃げられるしな」

「「…………」」

俺が相性が良い理由をひとしきり説明すると二人は黙った。

「?どうした?」

「い、いえ、何でもありません」

「………相性が良いってそういうことかぁ………」

『相変わらず朴念人』

『マスターはもう少し言い方に気をつけた方が良いぞ?』

二人が何故か落ち込み、剣二人からは何故か呆れ声を聞かされた、俺が何をしたって言うんだ。

「そこの三人、チーム組みは終わったのか?」

「あ、教官。はい、終わりましたよ」

「ふむ、回復魔法に長けたリリィに、初級魔法でも絶大な火力を出す砲台役のユニ、そして自在な移動を可能にするクロヒメと、魔法すら凍らせるシラユキか。

面白いチームだな、期待しているぞ」

「はい!」

「はい………っ!」

『…………頑張る』

『うむ、ベストを尽くすとしよう』

「あの、俺の名前がなかったんですけど。

そしてさも当然のように話を進めないでくれないかな」

「あ、ルークも頑張ると良い」

「適当!」

「さあさあ、これで全員チームは組んだな!

それではチームごとに整列!出席番号の近い奴から呼ぶからそいつが入っているチームは来い!」

「「「「はいっ!!!」」」」

「……………このクラスは俺を苛めないと気がすまないのか?」

「ルーク、過ぎたことをいつまでも気にするな。

さっさと整列しろ」

「へーい…………。

行くぞユニ、リリィ」

「はい!」

「うう………緊張してきたよ………」

俺はとぼとぼと整列場所に行き三人で固まる。

他に整列しているチームを見回すと大体は前衛、後衛二人という感じになってそうだった。ウチのクラスでも前線で戦えるほど武器の扱いが上手い奴は限られるからな。

まあ雑魚どもより今はクーデリカだ、さっきの恨みを晴らさねば。

出席番号的に最初は当たらないだろうが、勝ち進んでいけば当たるだろう、その前にあいつらがやられる可能性もあるが、その時は俺の不戦勝ということで存分に煽らせて貰う。

『自分が負けた時のことを考えないのがマスターらしいというか…………』

『………バカなの?』

「勝利に自信を持ってると言え」

相変わらず主人を敬う気持ちが微塵もなさそうな剣二人と話しながら憎き敵を探す、それにしても背が低いからか見つけにくいな………。

そんな俺の様子に気づいたのかリリィが声をかけてくる。

「ルー君、誰か探してるの?」

「ああ、クーデリカを探してるんだ。

個人的にあいつに勝ちたい理由ができてな」

「?何のことか分からないけど………クーデリカちゃんならあそこにいるよ、ほら」

「お、サンキュー」

リリィが指差す方へ視線を向けると確かに銀色の髪が見え、そしてその横に炎のような髪をしたーー

「……………は?

お、おいおい、フォン。

何でお前そこにいるんだ?」

「…………同じチームだからだが?」

「……………マジで?」

「嘘をついてどうする」

クラス随一の戦闘能力を持つフォンに、類い稀なる射撃能力を持つクーデリカが同じチーム…………ははあ、そうかそうか…………

「って!おい!お前ら二人が組むとかチート過ぎんだろ!?」

「……………チーム決めに制限は決められてない」

「お前がさっき何をしたのか知らんが、クーデリカがお前を倒すために俺の力を借りたい、と言ったからな」

「え?」

「ルーク………何もしてないのでは………?」

「し、してないって!

フォン、誤解を招くような言い方はやめろ!」

フォンの発言にこちらを見てくるリリィとユニに弁解しつつフォンに注意すると、フォンはやれやれというように肩をすくめる。

「次、クーデリカがいるチームは出てこい!」

「む…………順番が来たか。行くぞ二人とも」

「…………了解」

「おう!正直何で俺がお前らとチーム組んでるのか分かんねーけどな!」

クーデリカとフォン、そしてあいつは確か…………タージルだったか?クラスの中では中の上といった印象の本当に何であんな濃い二人と組んでるのか分からない奴だな。

それにしてもあの二人が一緒にか…………まだ順番は来そうにないしこのまま観察させて貰うか、敵の情報を知ることも大切だしな。

まあ恐らく、フォンが前衛でクーデリカが中衛、タージルは特に武器の扱いに優れているわけでもなかっただろうから、普通に魔法を使い後衛につくだろう。

そんな風に予想を立てていると、相手と対峙するフォン達が見えた。

相手の方は…………前衛が一人、あとは後衛か。

前衛をやってる奴は確かそこそこ槍を使える奴だったはずだ、後ろの二人もクラスの中では魔法の扱いが上手い方だ、中々バランスの良いチームと言えるだろう。流石に勝てはしないだろうが、フォン達の手の内を幾らかは出させてくれるに違いない。

教官が間に立ち、両チームが所定の位置につくのを待つ、フォン達は予想通りのフォーメーションのようだ。

「さて、そろそろ始めるとしよう。ちなみに、ここにも例の装置は張っているし、武器は模擬弾や訓練用だ、多少は痛いかもしれんが存分にやると良い!」

ちなみに模擬弾や訓練用の武器でも多少ではなくめっちゃくちゃ痛いということをここに付け加えておく。

教官の相変わらずの言葉にクラスメイト達もツッコミたそうな顔をしているが我慢している様子が伝わってくる。

そんな雰囲気も余所に教官は右手を振り上げた。

「それではーーー始め!!」

そう言って教官の腕が降り下ろされると同時

炎破えんぱ!」

開始と同時に地面を蹴って飛び出し、槍使いとの間合いを一瞬で詰めたフォンが槍使いを掌底で吹き飛ばし

バンッ!バンッ!

「………動かないで」

魔法の詠唱をしようとした二人の顔を掠めるように銃弾を放ったクーデリカが後衛二人に降参を促していた。

「勝負あり!」

教官の判定により勝負が終了し、二人が戦闘態勢を解くとようやく、相手も含め周りが勝負がついたことを分かり始めた。

「お前ら、真面目にやるのは結構だが、真面目すぎて面白くない。

それと、もうちょっと相手にも行動させてやれ、訓練にならんだろう」

「最善を尽くしたまでです」

「…………戦いに出れば手加減なんてしない」

「ひゃっほーう!お前らがいれば俺も上位確定だぜー!

でも本当に何で俺ここにいるんだろうなー!」

つまらなさそうに言った教官の言葉にも、フォンとクーデリカはクールに返し、もう一人のチームメイトは訳が分からないままとりあえずといった様子で勝利を喜んでいる。

その後、ようやく状況を呑み込めた周囲がざわざわと

『おいおい…………強すぎだろ』

『フォンはともかく、クーデリカちゃんも強くね?銃をいつ抜いて構えて撃ったんだよ?』

『あのコンビに本当に勝てるのか…………』

『あの二人のチームとは当たりたくないな…………』

「おーい、俺を忘れるなお前ら後でぶっ殺す」

『『『いたのかお前』』』

「………………」

ま、マズイぞ……………まさかあの二人が組むとは思わなかった………何となく相性が悪そうだったから組まないと思ってたのに。

「おい、ざわついてないでさっさと次来い、両チーム不戦敗にして補習を受けさせるぞ?」

教官の脅迫にようやく試合が再開されるが、強すぎるあの二人の戦いを見て動揺しているのか、両チームとも動きが鈍い、このまま勝ち進んでもあの二人と当たることは明白だが、どう考えても勝ち目がないことを悟っているのだろう、明らかに動きに精細さを欠いていて、そしてそれを見逃すほどウチの教官は甘くなかった。

「この程度で動揺する惰弱な兵士は鍛え直さないとな………両チーム補習だ」

『『嫌だああああああっ!!』』

無慈悲な宣告に泣き崩れるクラスメイトを見向きもせずに「次っ!」と教官が促す。

『や、やべえ………!ちゃんとやらねえとまたあの補習を受けさせられるぞ………!!』

『お、お前ら!あの二人のことは一旦忘れて戦いに集中するぞ!』

それを見たクラスメイト達はそう声を掛け合って、動揺から立ち直ろうとするが、人間、ちゃんとやらないとと思うとかえって焦りが生まれ失敗するもので

「補習」

『『ぎゃああああああっ!!』』

「補習」

『『ぶぎゃああああああ!!』』

「ほしゅ」

『『ぐぼおおおおおおおお!!』』

「ほし」

『『みゃげらああああああ!!』』

「……………お前らは新種の生物か何かか?」

次々と補習という名の地獄に叩き落とされていくのだった。

「くっ…………!圧倒的な力を見せつけ動揺を誘って戦う前から勝負を決めるとは………!何て卑劣な…………!!」

「でもあれ自滅してるだけな気がしますが…………」

「おおおお前ら!動揺するなよ!?あ、あいつらが強くたってな、俺たちは俺たちの戦いを!」

「そう言うルー君が動揺してるよ!?大丈夫!?」

だだだ大丈夫、大丈夫だ、いつも通りやれば補習なんて受けることはないんだ!だから落ち着け俺!

俺はそう自分に言い聞かせるも、目の前でクラスメイト達が次々と地獄に叩き落とされるのを見て平然としていられる人間がいるだろうか、というよりクラスメイトは正直どうでも良いが自分がああなると思うと震えが止まらない。

「次!ユニのいるチームは出てこい!」

いっそ忘れられててくれ、と願っているとついに俺たちのチームの番が来てしまった。

呼ばれたからには行かないと逆に何を言われるか分からないのでおもーい足取りで教官の前まで行く。教官はというと死屍累々なクラスメイト達を見ながら

「全く、どいつもこいつも軟弱な奴等め。この程度で動揺して情けない」

と、不満げに呟いていた

最初は確かにフォンとクーデリカが原因だが、そもそもは教官の補習が怖いためさらに動揺したのが理由だと思ったがここは黙っておく。

「貴様等はちゃんとした戦いを見せるんだろうな?

無様な戦いをすればあいつらと同じく補習だからな」

「わ、分かってますよ」

俺はちらっとこの世の絶望のような顔をしているクラスメイト達を見る……………あそこに行きたくない、行ってたまるかと気合いを入れ直しユニとリリィの方を向く。

「お前ら、準備は良いか?」

「だ、大丈夫ですよ」

「わ、私も…………!」

二人が頷くのを見て俺も頷き正面に向き直りユキとクロを構える、教官が特に止めないということはOKなのだろう、まあユキは凍らせるのが主だし、クロで人は斬れないというのを知ってるからだろう、もちろん俺も相手を斬る気などさらさらない。

「よし、それでは試合を始める、両チーム良いか?

それでは………試合開始!」

「クロヒメ!」

「バレバレなんだよ!」

ガキインッ!と完全にチームの背後を取ったつもりが防がれる。

「ちっ…………流石に単細胞どもでも分かるか」

「まあ、散々クロヒメちゃんの能力は見てるし、斬撃ワープに少しのタイムラグがあるのもわかっ………っておい、単細胞は余計だこらっ!?」

会話の隙を狙って受け止められたクロを離し、ユキを振りかぶる。

「シラユキ!凍刃!」

触れれば剣ごと相手を凍てつかせる刃はしかし、剣が離れると同時に後ろへ身を引いていた相手には届かず空振る。

「そう来ると思ってたぜ!」

「ちっ、やりづれえな!」

自分の手の内が読まれている相手というのは非常に厄介だ、思えば“疾風”の時も何故かクロの能力がバレていて苦戦したんだったか。

「よし、いけるぞ!俺たちはこのまま二人をやる!」

「おうっ!!悪いな、ユニちゃん、委員長!このまま倒れてもらうぜ!」

どうやら相手は今俺の相手をしている奴が俺の足止めをしている間に、残る二人があまり戦いに向かないユニとリリィを早々に仕留め、三人がかりで俺を仕留める作戦みたいだな。

ユニとリリィはというと、リリィが張った防御魔法で防ぐのが精一杯という感じで、反撃をしている余裕はないように見える。

連携の取れた動き、俺たちのチームの弱点を上手く突いた作戦に素直に感嘆する。

「………中々やるじゃねえか」

「悪いな、俺たちも補習は嫌なんだ。

お前とユキちゃん、クロちゃんは確かに強いが三人がかりなら流石に倒せるだろ。それに敵の弱点を突くのは基本的な戦法だからな………悪いがあの二人は戦いには向いてねえ………あの二人と組んだお前の敗けだ」

相手はもう勝ちを確信しているのか、そんなことを言っている。

そんな相手に俺はニヤッと笑い言ってやった。

「悪いがあの二人をあまり舐めない方が良いぜ?」

「なにっ………?負け惜しみか?」

その時だった、ユニ達に魔法を撃ち込んでいた二人が悲鳴をあげたのは。

「くそっ!!何なんだあの防御魔法!!固すぎる!!」

「もう魔力が持たねぇ!」

そう叫び、二人は魔法を撃ち込むのをやめてしまう。魔力は人体から生成されるエネルギーだ、使えば疲労するし長時間使用すればこうしてやめざるを得ない、ましてや、すぐに壊せると思い、配分も考えずただフルパワーで撃ち込んでいれば尚更だ。

「バカな…………二人がかりで攻撃しても壊せないなんて…………!!」

「忘れたのか?リリィは攻撃魔法こそ使えないが魔力コントロールと総魔力はクラスでもピカ一だぜ」

攻撃が止んだのを見て防御魔法が解かれる、そこには詠唱を終え、ファイアボールを構えたユニがいた、昨日コツを掴んだという言葉は嘘ではないみたいでその大きさはちょっと大きい家ぐらいに留まっている。……………まあそれでも大きいのだが。

その大きさを見た相手は流石に顔を青くし

「ま、待て待て!い、今撃ったらお前も巻き込まれーー」

「じゃあな。あ、これおまけな」

俺はクロの能力でユニ達の位置まで移動し、ついでに逃げられないようユキで地面を突き刺し能力で足元を凍らせておく。

「る、ルーク…………も、もう

限界です…………!撃って良いですか…………!」

「ああ、トドメを刺してやれ」

「ま、待てっ!降参ーー!」

「わ、分かりましたっ………!!ファイアボール!!」

ユニの放った極悪魔法が魔力切れで動けない二人と、足が凍らされ動けない相手に向かって放たれ

ドゴオオオオオオオオオッ!!とやはり初級魔法とは思えない威力で炸裂し、相手三人を呑み込んだ。

「おお、火柱が起こらないだけ昨日よりはマシだな」

「そ、そうですか………?良かったです…………」

「あわわわ…………っ!?し、死んでないよね…………!?」

ちょっとだけ魔法が制御でき嬉しそうなユニと隠れていたからか昨日の威力を見ていないリリィの慌てる対称的な声を聞きながら俺は勝利を確信する。

魔法の余波が収まるとやはりというか、アレを食らって立っている者は一人もおらず

「ふむ、やっとマトモな勝負が見れたな、ユニチームの勝利だ!」

教官の勝利宣言とともに三人はすぐさま保健室へと運ばれていった。

まあ服がところどころ焦げていたが昨日よりは弱かったからせいぜい二日、三日寝込むぐらいであとは火傷が痛むぐらいだろう、そう大したことはない。

やれやれ…………最初は焦ったが二人のおかげで勝てたな、さっきユニとリリィは自信無さそうにしてたしここは誉めておくか。

「ふう、相手がお前ら二人を警戒してないおかげで勝てたな、よくやった」

「…………」

「…………」

あれ?誉めたはずなのに何故か二人から睨まれてるんだけど。

『マスター………もう少し言い方をじゃな』

『…………デリカシーの欠片もない』

おまけに剣二人からも怒られる、何でだ。

「おい、勝ったチームはこっちに来い」

「はいはい…………っと」

教官の言葉に何故かむくれている二人を宥めつつ返事をして移動すると、クーデリカ達のチームの近くになった。

勝った勢いもあり、俺はクーデリカに最後のチャンスをやろうとそっと近づき話しかける。

「おい、今ならメイド服着て謝れば許してやるぞ」

「……………何の話?」

「バカ野郎、さっき俺を殴って行ったろうが、忘れたとは言わせねえぞこら」

「…………貴方こそ。あの人の弟子というのを撤回して。そうすれば痛い目にあわなくて済む」

「ほーう?生意気な奴だな。

そもそもだな、あの人はお前が思ってるほどじゃないぞ、剣の腕は凄いが女好きだし適当だし味音痴だしーー」

「……………(キッ!)」

何がいけなかったのか、言葉の途中でクーデリカは険しい顔で俺を睨み付けた。

しかし俺は今度は怯まず

「おい、確かお前は何で俺があの人の弟子であることを隠すのかが知りたいんだったな」

「…………それが?」

「もし、この模擬戦で勝ったら教えてやるよ、それと皆にも話してやる。

だが俺が勝ったらお前は俺の言うことを一つ聞いてもらうぞ、あんなことをしといてチャンスをやってやるんだ、まさか嫌とは言わないよな?」

『いや、どう考えても条件が釣り合っておらぬが………』

『…………屑』

クロはともかく、ユキの心底軽蔑したような声が思ったより傷ついたので訂正することにする。

「………………やっぱり一日メイドをしてもらおうか、ちょっと調子に乗ったかもしれんからな、うん」

「……………」

クーデリカはしばらく黙っていたが

「…………分かった。その代わり条件を追加する」

「何だ?」

「…………あの人と一緒にいた時のことを話してほしい、趣味でも………何でも構わない」

「むっ………?まあ良いだろう」

何を言うかと思えば大した条件でなかったので了承する、何というか、薄々気づいていたがこいつ師匠への食い付きが尋常じゃないな。

はっ、まさか…………惚れてる………?

我ながらあの人に限ってと思うが、何というかクーデリカの表情が単に剣聖だから敬っている、という感じではないのがこの考えに信憑性を持たせている気がする。

そう考えると俺が師匠のことを貶して怒ったり、師匠の弟子であること周囲に隠すのも、こいつにとっては師匠のことを敬ってない、と映るのかもしれない。

そ、そうだったのか…………何というか今の意外な言葉と、衝撃的な事実で怒りが萎んじまったな、だがそれはそれとしてこいつのメイド服も見たいからな、勝負に手を抜く気はない。

『何というか…………絶妙にずれた結論に至ったのう………』

『……………馬鹿』

勝負が終わったら約束は約束として師匠のことは敬ってると伝えようか、勘違いで仲違いしたままも気分が悪いしな、ともかく次の戦いまではまだ先、今はゆっくりと休んでおくか。

俺がそんなことを考えていると教官が

「さて、次はクーデリカチームとの対戦だが…………私の独断により組み合わせを変える、実力差がありすぎると訓練にならんからな」

と、そんなことを言い出した。

まあ一試合目を見ればさもありなん、といったところだろう、一応今やってるのは訓練だから瞬殺されるとあまり意味がないしな。

「ということでクーデリカチームとユニチーム、前に出てこい」

…………………

「え?」

「え?じゃない、私の言葉が聞こえなかったのか?」

「い、いや、何で…………」

「実力が拮抗しているチームにする、と言っただろう。

この中ではお前らのチームが一番マシなんだ、分かったらとっとと来い」

ちょ、あわよくばもう少し戦いを見て対策を練りたかったのに!?

だがそんなことを言ってもこの教官が聞くはずもないので俺は渋々二人と前に出る。

「二人とも、さっきの疲れは残ってないか?」

「私は大丈夫です、むしろ今日は調子が良いぐらいです!」

「わ、私も大丈夫…………で、でも、ルー君どうするの?

クーデリカちゃんとフォン君をどうやって止めたら…………」

リリィの懸念は最もだ。恐らく相手は開幕と同時にフォンが突っ込んで俺を止め、クーデリカがあの早撃ちでリリィとユニを行動させる間もなく倒すだろう、二人が倒されたら俺もお手上げだ、だが…………

「…………まあクーデリカの狙撃は任せろ、俺に考えがある。

お前らはともかく最初の狙撃を凌いだらしばらく防御魔法を張って機を待ってくれ」

「わ、分かりました」

「うん…………!」

相談を済ませ所定の位置に行く。

相手はフォンが先頭、クーデリカが中衛と前と同じのようだった、恐らく戦法も前と同じだろう。

確かにフォンを相手するのは大変だしクーデリカの狙撃は何の対策がなければ確実に二人を早々に戦闘不能にするだろう、だが…………俺だってそう簡単にやられてやる訳にはいかない。

『やる気があるのは良いんじゃがのう…………やる気の根底にあるのがメイド服じゃからなぁ…………』

『………変態』

うるせえ、動機が何であれ士気があれば良いんだよ。

剣二人に返し、所定の位置につく。

ユニとリリィも準備ができたのを見て教官に頷く。

「よし、では試合を始める。

瞬殺はされないように期待しているぞ!それではーー試合始め!」


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