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「よし、ユニ。
テーマパーク行くぞ」
「はい?何の話ですか?」
「お前が忘れてんのかよ!?」
翌日、意識を取り戻した俺は、先日の約束を果たすためユニに声をかけていた。
「冗談です。でも遠いのでは?一日で遊べるのですか?」
「電車で行ってた頃はそれこそ一日がかりだったけどな、今は便利なものがある。
まあ、心配するなってことだ」
「はあ………」
ふっふっふっ、ユニの驚く顔が楽しみだぜ。
「あ、兄さん。テーマパーク行くの?」
「ああ。前に約束したしな」
「ふふ、ユニさん、私は行けないけど楽しんできてね」
「はい!」
「あと兄さん」
ユニとにこやかに話していたナギサが突然、俺に顔を近づけた。
「な、なんだよ…………?」
「兄さん、私がいないからってユニさんに変なことをしたらダメよ?」
「変なこと………?」
「そうよ、お嫁に行けなくなるようなこととか」
「ぶっ!?おま、するわけないだろうが!」
「どうかしらねー、ユニさん可愛いし、彼女いない歴=年齢な兄さんが間違った気を起こす可能性は十分あるわ」
「だから、確かにユニが美少女なのは認めるが、俺が好きなのは美人なスタイルの良いお姉さんなんだって。
その点、ユニは一部が圧倒的に足りな」
「ルーク、それ以上言うとルークの部屋に手加減なしの魔法を撃ち込みますよ」
「いや、何でもないです」
ていうかこいつが魔法撃ったら俺の部屋どころか家が吹き飛ぶ。
「まあ、くれぐれも肝に刻んでおいてね。
もしも、不埒な真似をした場合、今私が授業で習ってる魔法36発を撃ち込むわよ」
人間カカシの刑というわけか、はは、笑えねえ………。
「よく刻んでおきます………」
「よろしい」
こうして朝から死の恐怖を感じつつ、俺とユニは準備を整えて出発したのだった。
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俺とユニは少ない人通りの中、とある場所へ向かっていた。
「ルーク、こっちは駅じゃないですよ?」
「知ってるぜ。まあ、良いからついてきな、絶対に驚くから」
「………??」
ユニの怪訝な顔を見つつ、俺は周りを見回しながら歩く。
「何を探しているのですか?」
「いや………突飛な考えだが、クラスメイトのアホどもがいないかと思ってな」
もちろん、今日は平日だからそんなことはないとは分かっているんだが、ユニと二人っきりでしかも、デートスポットとしても有名なあのテーマパークに一緒に行く所を見られたら、明日どうなるかは炎に油を突っ込むより明らかなことだ。
「クラスメイトをアホ呼ばわりはいけませんよ。
それに良い人達じゃないですか。
この前もお菓子とかくれましたし」
「女限定でな。
あと、お菓子で懐柔されてんじゃねえよ見た目通り中身も子供かお前は」
「むっ」
ユニが不服そうな顔をするが、事実なので仕方ない。
《マスターも人のことは言えんじゃろう?》
「何を言う、俺をこんな見た目も中身もお子さまな奴と一緒にするな」
《………美人な女の人に弱いくせに》
「そ、それは男として当然の反応だろ?」
そうだ、決して俺が特別弱い訳じゃない。
そんな感じで話しつつ進んでいくとやがて、開けた道に出た。
この道をまっすぐ進むと共和国議会場や、共和国軍総司令等がある行政区画へと続くのだが、今回はそっちへ用はない。
俺は右の方へと進む。
ここまで来ると流石にユニもどこへ向かうのか分かったようで
「まさか今から向かうのは………」
「ああ、飛空挺ターミナルだ。
テーマパークへは飛空挺で行くんだよ」
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「す、凄いです………」
飛空挺ターミナルへ入った瞬間、ユニは呆気に取られた表情で入り口から中を見回す。
飛空挺ターミナルの中は、平日にも関わらず出勤する人、旅行者等多数の人で賑わっていた。
その人の多さもそうだが、一番の見所はやはり受付ゲートの向こうにある発着場に停まってある飛空挺だろう。
政府が運用している定期飛空挺、個人や企業で所有している飛空挺等、様々な形や大きさをした飛空挺が並んでいる様はまさに圧巻としか言いようがない。
「ほら、入り口に突っ立ってないで行くぞ」
「は、はい………」
ユニの手を引っ張りつつ受付へと向かう。
「すみません」
「ご利用ありがとうございます。
本日はどのようなご用件でしょうか?」
「大人二枚、行き先はシュリテンのテーマパーク」
「はい、身分を証明できる物はお持ちでしょうか?」
「はい」
俺は自分の証明書と、この間アカデミーから発行してもらったユニの証明書を見せる。
「はい、ルーク様とユニ様、ジルフォーレアカデミー所属ですね。
チケットをお渡しします、登録データを入力しますので少々お待ちください」
「はい」
チケットを受け取ると、受付のお姉さんはデータを入力しながら俺たちに、にこやかに話しかけてきた。
「可愛い妹さんですね。
今日は兄妹でお出掛けですか?」
どうやら、お姉さんは俺たちを兄妹だと思ってるらしい。
「あー、その………」
「…………私はルークと同じ歳です」
「え?」
お姉さんは驚いたように目を開いてから慌てて頭を下げる。
「し、失礼しました。
その、幼く………いえ、お若く見えたので………」
「………………」
「ほ、ほらユニ!行こうぜ!
時間は有限なんだぜ、遊ぶ時間がなくなるぞ!」
微妙な空気に耐えきれず、俺はユニを多少強引に引っ張りゲートをくぐるのだった。
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幸い、ユニの機嫌もすぐに直り、俺たちは一般用の飛空挺の前にいた。
「改めて見ると………大きいですね………」
ユニが首を上に向けながら言う。
一般用の飛空挺と言っても、各地の旅行者を乗せてくるだけあって大きさはかなりのもので、このタイプの飛空挺は確か約千人乗せられるのを謳い文句にしていたはずだ。
もちろん、千人の荷物と一緒に、であることからこの飛空挺の大きさは想像できるだろう。
「さあ、見とれるのはこのぐらいにして乗るぞ」
「こ、これで空を飛ぶんですよね………何か緊張してきました………」
ユニが不安と期待の入り交じった顔をしている。
「大丈夫、大丈夫。
共和国の飛空挺は魔学で動いてるんだ。
帝国みたいな純機械製の飛空挺より安全性は高いぜ」
「そ、そうですか。
なら安心ですね」
たぶん、魔学なんて言われても理解してないであろうユニだが、とりあえず安全だと言うことは伝わったみたいだ。
乗り込み口から中に入るとすぐに、自由席がズラっと並んでいて、奥の扉を抜けた先が指定席になっている。
そして階段を登ると二階にはショップやレストランや休憩所等があり、その上の甲板に出て外を眺めることもできる。
「どこに座れば良いんですか?」
「指定席は取ってないからな、こっちの自由席だ」
俺はせっかくなので、ユニを窓際の席に座らせその隣の席に座った。
やっぱり飛空挺に乗ったのなら一回は外の景色を眺めた方が良いからな。
《わしらも見たいのう》
《…………マスターがケチるから》
「ケチってねえよ。
いくら武器の持ち込みはオーケーでも喋って歩く武器がいたら大騒ぎになるだろうが」
「なら、クロちゃんとユキちゃんも人になって乗れば良かったのでは?」
「おいユニ腹減ってないか!?
腹減ってるよな、よしさっき買った弁当でも食おうぜ!」
「露骨に話題を逸らしましたね」
そんなことはない、決してチケット四枚より二枚の方が安くて良いなんて思ってない。
《では今から人になってチケットをマスターのお金で買ってこようかの》
《…………れっつごー》
「すいませんナギサにお小遣い減らされたのでマジ勘弁してくださいお願いします」
我が家の家計を管理してるのはナギサなのだが、先日の件でごっそり俺のお小遣いを減らされたのだった。
なので、あと二人分のチケットを購入すると、今月の俺のお小遣いは次の支給日までかなりカツカツになってしまう。
《ふむ、ならば向こうでストロベリーアイス一個で手を打とう》
《…………私はラムネ》
「ぐっ、こいつら足元見やがって…………!!」
歯噛みするが、チケット代よりアイス代の方が安いので渋々承諾する。
『間もなくシュリテン、テーマパーク行きの第三飛空挺が離陸します』
「おっと、そろそろだな」
と言っても離陸時に衝撃があるわけでもないので、せいぜい走り回ったりしないようにする程度だ。
『離陸します。5……4……3……2……1……』
少し揺れた後、飛空挺はぐんぐん上昇していく。
「……………あれ?」
目をぎゅっと瞑っていたユニが怪訝な顔で周りを見回す。
周りの人はすでに談笑を始めたり、席を離れ移動していたりしていた。
「どうした?」
ニヤニヤしながら聞くと、ユニは顔を赤らめ無言で手を突き出し詠唱をーー
「待て待て!悪かった!悪かったから!
つか飛空挺ごと落ちるぞお前えええ!?」
ーーーーーENDーーーーー